香る纏う花の色 | ナノ

離れる

「おっはようさーユリア。」

「あ、おはようございますラビさん。」

「前、座っていいさ?」

「どうぞどうぞ。」

朝の食堂で、私はラビさんと食事をしている。最近、私が一人で朝食をいただいているとやってくるのだった。どちらかというとみんな朝食を済ませてしまった後の遅めな時間帯に食事を取る私の後に。
あまり突き放すようなこともできないので、私は彼と食事を取りながら笑みを浮かべるしかない。

彼は、私にあれこれ面白いことを話した。以前どこそこで食べたことのある果物が美味しかったとか、ブックマン後継者の自分は記録地ごとに名前を変えるから、自分の前の名前はディックだったとか。
そういう話だったり、教団内のみんなの話をしてくれた。
神田さんは三食全て蕎麦だとか、コムイさんはリナを溺愛しているシスコンだとか、婦長のいうこと聞かないと恐ろしい目に会うとか。

彼が話していている最中、私は笑い声を上げながら、彼が私と目を合わせようとしないのをいい事に、イノセンスを発動させる。毎度、今日は違いますようにと願いながら、彼の笑顔の裏を覗き見る。
ラビさんと朝食を共にするようになってから今まで一度も、彼は違う表情を見せたことはない。表ではにこにこと笑顔な彼は、何かに焦ってるふうな表情をしていた。それは、私のイノセンスを通した目でしか視認できないことだったけれど、発動しなくてもいつも私は気づいている。
ただ、実際に見るまでわからないでしょう、と自分に言い聞かせて、自分の感じたことが間違っているのを祈りながら発動する。
でも結局、いつもと同じ結果に終わって、その後私は落胆する。同時にすぐさま席を立ち去りたくなる。

心の中でもない。頭の中でもない。でも何処かに自分ではないものを抱え込んでいて、その存在を感じるたびに私はたまらない気持ちになる。
ラビさんは、私の、私でないものに対して喋りかけているのだ。目は決して合わせずに。合わせるとわかってしまうから。ラビさんの求めているユリアじゃないと。

この朝の堪え難い時間が、どんどん私の仮面を重ねさせていく。年相応に笑ってみせることを否応なく私自身に馴染ませていく。

「ねえ、大丈夫?」

ラビさんとの朝食の後、私はよくリナのもとへと駆け込んだ。リナは、私と一緒にいた時間が少ない分楽に過ごせた。というより、彼女は、悲しいと感じながらもきっぱりとすぐに割り切ってしまったのだと思う。時間と関係あるかもしれないけれど、彼女は真に優しいから、そうできるのかもしれない。

「リナのところに来るとね、大丈夫だなって思えるよ。」

リナには、ラビさんとのことなど一切話していない。けれど、彼女は言わなくてもわかってくれた。私が抱くものを。

「しばらく、距離を置いた方がいいわよ。」

彼女は、厳しい顔をしていった。

「私がラビにいってもいいし。」

「や、そんないいよ!だって、エクソシスト同士で関係悪化したりしたら、任務に影響出るよ。」

「だけど、ちゃんと言うべきことは言うべきよ。」

私はリナのこういうところがすごいなあ、と思う。私には到底できないからだ。私はラビさんにというか、人にぶつかることがとても怖い。まだ教団の人たちのことをなにも知らないから、この人にはここまでぶつかってもいいとかそういうのがわからない。
今はリナだけかもしれない。ぶつかったことはないけど、私がぶつかれる相手。彼女の考えに意見を申し立てることも、嫌だとはっきり主張できるのも、今のところ彼女だけだ。

「じゃあ、リナ。任務に行こう。」

私は思い切っていってみた。

「え?」

「私、ラビさんをしばらく遠ざける。でもラビさんにそれを言うのはやだから、任務に行けば問題ないでしょ?」

「そうだけど、それじゃあ根本的な解決にならないわよ。」

「うん・・・それでも、いいの。一度物理的な距離を取りたい。」

そういったとき、私はどんな顔をしていたのだろう。

「・・・そう。なら今から兄さんのところに行きましょう。」

リナは私に厳しい視線を向けていた。私を叱る、姉みたいに。


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