香る纏う花の色 | ナノ

変化

"任務"を終えて黒の教団へと"帰って"からもうそろそろ五日が経つ。
黒の教団に着いた当初は、自分でもなかなか制御できない力が周りに被害を与えないようにと言うことで隠されるように、ずっとヘブラスカと一緒にいた。力を制御できないのは、イノセンスのシンクロ率値が不安定なのが一番大きな理由だったので、気持ち悪い思いをしながら毎日イノセンスとシンクロしてシンクロ率を安定させることをがんばった。
シンクロ率が不安定だったのは、どうやら二つのイノセンスの適合者になったかららしい。一つの体に2つの神の結晶が適合するというのは、異例のようで、ちょうど極東の国で、二つのお守りというものを近くにおいていたら神が殺し合いをする、なんて俗に言われているみたいに、私の場合も同じことが起こっていた。

へブラスカと一緒にいたら、三日目でシンクロ率を安定させることに成功して、今度は任務で一緒だった神田さんとイノセンスの扱い方を特訓した。鬼のような形相でしばかれたり淡々と手ほどきを受けたりと、神田さんの特訓はあんまり楽ではなかったし楽しくもなかったけど、そのおかげで一日でコツを掴み始めていた。

今日は、神田さんに比べると息抜きのような特訓をすることになっている。

「リナリーって呼ばないと神田より地獄の特訓が待ってるから。」

優しい笑みを浮かべて彼女は私と握手をしてくれた。

「そんな風に呼び方指定しなくても、望む通りに呼ぶよ。」

あまりにも彼女が黒いオーラをにじませていたので、私がついそう言いながら握手を返すと彼女は、

「・・・じゃあ、私、リナって呼んでもらいたいわ。」

というので、私は彼女をリナと呼ぶことにした。
彼女とは、新しい装備型のイノセンスの特訓ではなく、寄生型のイノセンスの特訓だ。

「たぶん大丈夫だと思うけど、兄さんが確認しておきたいっていってたから。」

よろしくね、と彼女は少し悲しそうに笑う。

装備型のイノセンスとの兼ね合いで、私が元々もっていたという寄生型のイノセンスは、シンクロ率が大幅に下がっていて、力が以前より弱まったらしい。装備型のほうが実は寄生型よりシンクロ率が高かったりする。攻撃力があるほうを優先させた結果だ。

そういう理由で、どこまでできるのか私自身でも確かめるための特訓だった。

「今日一日は、神田みたいな厳しい特訓じゃないからあんまり気を張らなくて大丈夫よ。」

リナとの特訓の最中、苦笑するように彼女がいう。昨日の一日で神田さんに矯正されたことがきちんと体に染み付いていたみたいだ。戦闘のときに一瞬でも気を緩めないためにって彼はいっていた。多分、リナや神田さんみたいに、戦い慣れしていない私のためだけの言葉だったのだろう。

彼女にそのことを伝えると、なるほど、といった感じで頷いてくれた。

「確かに、気を抜かないっていうのは大事ね。ユリアはユリアなりに気を抜くところと抜かないところはしっかり使い分けたらいいよ。」

「うん。」

私は彼女との特訓にはきちんと力を注ごうと思った。気を抜いていいよといったけれど、私は彼女の誠意になんだかきちんと応えたかった。

この日彼女との特訓でわかったのは、私のイノセンスは一瞬から二時間さきまでの未来が見えること(以前は年単位さきまで見えていたらしい)、物事の本質を見る力というのは以前も未知数で今回もそうだということ(私が特訓でみたのは、リナの笑顔の裏にある悲しい表情だった。そのことを言うと彼女は困ったような顔をしてた)、最後にリナが言うには、前は人の過去が見えていたらしいけれどそれは見えなくなったこと、の三つ。そのくらいだった。

「十分いろんなデータが取れたから、特訓はおしまい。明日は神田が特訓に来るわ。」

「リナとの特訓が良かったなあ。」

「・・・早く戦力になるようにって、中央庁から言われてるの。ごめんね。」

「別に、リナが謝ることじゃないよ。」

リナは元気なさそうな笑みを見せる。それを見ると私は少し悲しくなった。

「あ、そういえば、ユリアの部屋に今日いってみる?」

「私の部屋?」

「そう。任務にいく前まで、ユリアが使ってた部屋。もしかしたら、思い出すかもしれないし。」

「あ・・・」

そういえば、と思い出したように彼女は聞いたけれど、私には何となく、今日までわざと黙っていたような気がした。もしかしたら私の気持ちが乱れてシンクロ率に影響があるかもしれないと、黙っていたのかもしれない。
自分だけど自分のではない部屋へといくのは、おかしな気分だったし、少し気味が悪かった。けれど、一度みておきたいと言う気持ちもあった。記憶を失う前の、私に出会うことは、大切なような気がして。

「嫌だったら、いいのよ?」

心配そうに、彼女より少し背の低い私を覗き込む彼女を見上げながら、私はごく自然に頷いていた。

「いくよ。どうせ行かなくっちゃいけないならいつだって変わんないだろうし。」

「それじゃ、行きましょうか。」

私の様子に安心の笑みを浮かべて、彼女は案内でさきに歩き出した。
私は彼女の後をついて行きながら思う。
皆、私との思い出の断片に思わず触れては私を腫れ物扱いするのだろうか、と。


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