香る纏う花の色 | ナノ

災厄の序章

ようやく眠ったか。
寝たふりをしていた俺はうっすらと瞼を持ち上げ、きちんとユリアが寝たことを確認してから、組んでいた腕を緩めた。

お互いに寝たふりのしあいというのは滑稽だった、このことは知られないようにしよう、と馬鹿な誓いを立てつつ、眠ったユリアをじっと見つめてしまう。

車窓とは反対の壁に頭を傾けて眠る奴は幼さ全開といったところか。確か四つぐらい年下というのも頷ける。いや、それ以上といわれても納得してしまうかもしれない。
車窓から差し込む光は、元から幼さが合間った透明度の高い肌を透かすように、照らしている。金に近い茶髪は神聖さを孕んだ金色に見えてくる。寝息の漏れる唇は、程よく潤っている。

決して、こいつに惚れているから、という理由でこんな観察をしているわけではない(って、誰にいってんだ)。絵本とかに出てきそうな天使のように幼いことを言いたいのである。
もしかして、あの兎はロリコンだったのか?
そう疑いたくなるほど四歳以上、年下の人間に見える。
しかし、あのラビはどちらかというと年上趣味のような、美人好きのような気がしている。
こんなやつを、しかもあまりタイプそうでない人間を、なぜあいつは好きなのだろう。

そしてこいつもこいつだ。こいつの、ラビへの執着はひどいように思える。
先ほども、雰囲気がラビに似ているといっただけであれだ。
この調子だと、任務に影響が出ないとも言い切れない。いや、ラビの話題を出さなければいいのか。

ちょうど、列車が止まる。こいつを起こさなくては。

触れようとしたとき、ラビの顔が思い浮かぶ。なんだか急に、触れてはならないような気がした。



***



結局、ユリアは声をかけて起こした。浅い眠りだったようで、すぐに起きた。

「はあ、よく眠れましたぁ。」

あくび交じりに言いつつ伸びをしたユリアを無視して、任務に当たることに集中した。

「おら、行くぞ。」

「あ、はい。」

駅からでて、目的地へと向かう。列車内で軽口の応酬をした雰囲気がまだ残っているのかユリアが話しかけてくる。

「え、っとどこにいくんです?」

「資料読め。」

「あ、はい。・・・・ああ、骨董品屋さん。」

「・・・」

「骨董品屋さんってどこですか?」

「資料読め。」

「神田さんって、列車の中で資料ちゃんと読んでたんですね・・・」

「喧嘩売ってんのかてめぇ。」

「いや、別に。喧嘩なんて勝てるわけないですから。」

「だろーな。」

「しょうがないでしょ、戦闘系のイノセンスじゃないんですから。」

「それ以前に、鈍くさそうなてめぇには無理だろうな。」

「私、これでも武術できますけど。」

「はっ、寝言は寝てから言え。」

「リナリーに教えてもらったんです!」

「あっそ。」

「ほんとですよ!」

「どうせ弱いんなら意味ねえよ。」

「はらたつー・・・教団に帰ったら勝負です!絶対に勝って見せます!」

「はっ、言ってろ。」

軽口の応酬をしていると、目的地の骨董屋についた。

「ここか。」

だいぶ古びた概観をしている店の前で一度立ち止まる。資料ときちんと照らし合わせ、確かに目的地だと確認した。

「入るぞ。」

少し後ろに控えていたユリアに声をかける。返事をしてやつはついてくる。

と。

「伏せて!」

急にユリアが叫んだため驚いたものの、素直にしたがって伏せるとすぐ真上を店の瓦礫やら、木片やらが地面と平行に吹っ飛んできた。AKUMAか!と瓦礫の元のほうへと視線をすばやくめぐらすと、いた。レベル2である。
簡単に片付けられる、と、すぐさま六幻を取り出す。AKUMAはきっとこちらに攻撃を仕掛けてくるはずだと踏んで、身構えた。

「なっ・・・!?」

しかしレベル2はこちらを無視してそのまま頭上に飛んでいった。追いかけてぶっ壊そうにも逃げ足が速かった。

「なんだ・・・?」

なぜ、逃げたのか。すぐさま骨董屋に駆け込んで、店の主人を探す。

「おい、誰かいるか!」

返事がない。店内を探ると、人二人分の衣服だけが残っている。男女一人分ずつである。どちらも老齢のものが着そうだ。小ぢんまりしている概観の店だったため、此処は夫婦経営か何かをしていたのだろう。

ちっ。舌打ちするしかなかった。

AKUMAの狙いは、此処の骨董品のイノセンスだったに違いない。

「神田さん!」

駆け込んできたユリアが指を刺す。山のある方角だ。

「AKUMAはあっちです。早くしないと、」

「分かってる。」

さえぎって、すぐさま駆け出す。近くの馬車をとっ捕まえて、すぐさまユリアの指差した方向へと走らせた。


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