香る纏う花の色 | ナノ

何年でも

「ジジイはたぶん、ユリアと生き抜く覚悟はあるかって聞いたんだと思うんさ。」

俺はユリアを不安にさせないように優しい声でいった。


「ジジイは、俺と深く関わった人間を教団に残して置きたくないんだと思う。ブックマンの持つ情報は、使い道によっちゃあ戦局に影響を及ぼすから。人質を取って俺らをここに縛り付けるとかそういうことを懸念して言ってるんさ。」

ユリアを見ると不安そうに自分を抱えていた。そんなユリアの手を取り包み込む。小動物のように小さくすべすべとした手の甲。柔らかいてのひら。なんの意味もないけれど、片手を握り合い、残った手は添えるように包む。

「それで、咎落ちっていうのは、あんまし想像つかないかもしれないけど、」

咎落ちという言葉を出した瞬間に少し彼女の手に力がこもる。咎落ちが何なのかというのは分かっていないようだったが、自分の命が危険にさらされるほどの不吉なものであるというのは肌で感じたようだった。先ほど、自分が咎落ちするのかと不安げに彼女は俺に聞いた。俺はそのときは衝撃が強すぎてまともに返せなかったけれど、ちゃんと説明をして得体の知れない不安からは開放させたい。

「・・・・・」

咎落ちについて一連の説明が終わると、彼女はしばらく目を瞑った。
その間俺は彼女の思考を邪魔しないように微動だにしなかった。握った掌は以前として固く繋がっている。

ユリアが目を開けた。

「ラビ。」

柔らかい口調で呼ばれて、俺は彼女に目を合わせた。

「私、きっと咎落ちにならないよ。教団から出るにしても、ここに居続けるにしても私はずっとAKUMAと関わって闘い続けなくちゃいけないんだから。そうし続けている限り、イノセンスを裏切ったことにはならないでしょ?」

だから大丈夫!と、彼女は笑った。桜色の唇に弧を描かせ、瞳が見えないくらいに目を細め、俺の鼻先あたりを見上げていた。

咎落ちを甘くみているのではないだろうか。不安の煙がたちのぼる。

「ユリア、咎落はそんな甘くみてちゃだめなんさ。もし咎落になったら、確実に死ぬってことをちゃんとわかってくれ。」

「それくらい私だってわかる。私はラビの話をちゃんときいて、ちゃんと理解して、それから大丈夫だって自分で判断して言ってるんだよ。」

ユリアは真面目な顔でそういった。本当にユリアが咎落の意味を理解したかどうか定かではない。しかし彼女の咎落に対しての考え方にはなにか危ういところがあるというのは確かだ。

本当は彼女がこう言ってくれているのだからと俺も一緒に大丈夫と言って抱きしめあいたい。しかしそうはいかない。俺は彼女よりも年上で、一番考えなくてはいけない立場だ。

だからこそ、

「ユリア、もう一度良く考えてほしい。俺も、ユリアもどっちもさ。だから俺たちは一度離れるべきだ。」

「そんな、ラビっ・・・」

「せめて一週間。よく考えて欲しい。俺も考えて、覚悟決めるから。」

お願いだと言ったとき握っている手に少し力がこもる。

それを感じてユリアは何を思ったのかはわからない。少なくとも、俺が本気だということは理解したようだった。しばらく彼女は何かをこらえるように俯いていたが、ようやく俺を見上げて、

「・・・私、ちゃんと考えてるから。もう、覚悟できてるから。だから一週間でも何年でもラビが覚悟できるまで待つよ。」

と、いった。


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