嫉妬
ユリアが任務から帰ってきた。その知らせを受けてリナリーと一緒にコムイの部屋へと迎えに行った。
「あ、二人ともただいま!」
室長室にノックをして入ると、振り返ったユリアが嬉しそうに顔を輝かせた。
にこりと、歳相応の可愛らしい笑みを浮かべてユリアは言った。しかしどことなく彼女の表情は固い。
その前に、怪我もなく無事に帰ってきてくれたことが何よりも嬉しかった。
戦場に行くということは死ぬ可能性があるということだ。俺には小さい時から身にしみていることだけれど、ユリアの生まれ育ったのは森林に囲まれた長閑な村だ。
死ぬ、ということも、争うということも全くない環境は理想的ではある。しかしそれがここでは命取りだ。だから初めての戦場で死ぬ者は多い。死を乗り越えて帰ってきてくれたことが俺にはありがたいとすら思えた。
そして死を乗り越えた証が、少し固い表情なのだろう。
「おい、報告したいことがあるつったのはてめぇだろうが。」
そのまま話しだそうとする俺達を妨げるようにユリアの首根っこをひっ捕まえてぽいっとソファに投げたユウ。
どうやら、報告はまだだったようだ。
「だからって投げなくてもいいじゃないですか。」
ソファの角でおしりを打ったのか、お尻をさすりながらむくれてユリアが言った。
「うぜぇ。」
ユウは吐き捨てるように言って、ユリアの隣に座った。
不満そうなユリアはしばらくじとーっとユウを見つめていたが呆れたようにため息をついて背をソファに預けた。
この一連の様子には、一切刺はなくむしろ微笑ましいくらいだった。俺も思わず微笑んでいたくらいに。
でも、笑顔とは裏腹にざわざわと、何かを急かすように心に風が吹いた。
「私ちゃんと活躍できましたよ!」
「・・・悪くはなかった。」
「ほらほら、神田さんも言ってる!」
きゃいきゃいと歳相応の女の子らしい声が聞こえた。任務の報告だ。
「悪くはなかったと言っただけだ。」
「えぇぇ・・・」
なんで、ユリアはあんなにも楽しそうなのだろう。行く前は、ユウから話しかけられるとほんの少し身をこわばらせていたのに、今はむしろリラックスしている。この違いは、何だ。ざわざわする。
「でも、私が役に立つってわかってよかったです。神田さんが私の見えたものを信じてくれたから。」
緩んだ表情筋で笑うユリアの姿を真正面から捉えることのできるユウがひどく羨ましかった。
prev/next