進撃の巨人 | ナノ


寂しさを埋める


古城での生活に段々慣れてきた。ここで生活し始めてからはなかなか寝付けないこともしばしばで、うなされることがあったがそれも生活に慣れ始めてからはなくなった(あ、兄貴がしばらく、その、添い寝、をしてくれたし、)。今は忙しい日々をおくっている。

私達兵士は日々訓練をするのは当り前だ。一日の半分は必ず訓練。これは最低限しておく必要がある。体全体を酷使する立体機動装置は日々の訓練なしには使いこなせない。そして全員が共通して思っていることだが、死にたくないからだ。

殆どの調査兵団に属する兵は、一日の半分以上を訓練に費やしている。何か特別な用がない限りは、自主的に訓練だ。

私の場合は、午前中を訓練に費やしたあとはすぐに立体機動装置の改良チームが活動する部屋へ直行だ。少し休みたいときは食堂で食事を取るけれど、大体は改良案を考えながら食べたり、手作業の合間に食べたりしている。時間がとにかく惜しいのだ。そして自室に帰るのは大体夜遅い。食事をとり、体を洗い、歯を磨けばすぐにベッドへ直行だ。明日のためにぐっすりと休むようにしている。最近の生活スタイルは、ほとんどこれだ。

私がベッドに入る頃には、兄貴は既に横になっている。私は静かにその隣に潜り込んで寝ている。こっそり、抱きついて寝させてもらっているが兄貴に抱きついて眠ると安心するのだ。

兄貴の体は私より小さくても、すごく逞しくて頼もしい。触れると私より1,2度くらい高い温度で、聞こえる心臓の音も力強い。けれど寝顔は驚くほど優しい。
こんなことを知っているのは私だけだ。そう感じるたびにちょっぴりときめく。

朝は、私のほうが先に起きてすぐに訓練に向かっている。兄貴は私が部屋を出てから半時ほどして起きているようだ。

そしてまた、同じ一日のサイクルだ。

今日は訓練を終えた時に丁度ハンジに会ったから、一緒に食事をとることにした。

最近忙しそうだねとか、巨人の研究はどうだとか、そんな話をした。


「ふう、今日もおいしかった。」


おいしいけれど量の制限がされた食事を平らげ、すぐに改良に向かおうと席を立った時だった。


「あ、なまえ!」


何かを思い出したかのように私を呼び止めたハンジに私はどうしたのと聞いた。


「最近、リヴァイと何かあった?」


深刻な顔で聞いてきたハンジに私は首を傾げたあと、首を振った。


「何もないよ、なんで?」


「んー、何もないのか。」


「兵長に何かあった?」


ハンジはよくわからないやと首をひねる。


「ちょっとピリピリしてるっていうかねー。周りの人間がやりにくいんだ。
最近、なまえからみたらリヴァイはどんな感じ?」


んー、と唸りながら考えてみた。だが、何も思い浮かばない。最近私からみた兄貴は・・・


「・・・・あ。」


寝ている姿、ばっかりだ。最後に会話したのはいつだっけ。忙しくて、全く話していない。


「なまえ?」


「・・・ハンジ。これから私、改良に行こうと思ってたんだけどね、今日は行けないって皆に伝えてくれない?」


ハンジはなんで、って顔をしたあとに、私が何をするかに気づいてからかうようにニヤリと笑った。なんだか、ちょっと恥ずかしいかも。


「わかった。」


「・・・じゃあよろしく。」


ハンジになにか言われる前に私はくるっと方向転換してそそくさと食堂を去った。



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深呼吸して、緊張でガチガチな体を解す。ほんの気持ち程度ほぐれただけの体は、動かすたびにぎこちない音を立てそうだった。

中指の部分の付け根の骨をドアに、2回。控えめにコン、コンという乾いた音がたって、ほぐれたと思った緊張が高まる。深呼吸、深呼吸。


「・・・入れ。」


ぴりっとした声音がくぐもって聞こえてきた。ひんやりと冷たいドアノブに手をかけてゆっくり押す。静かな空間にぎい、と鳴る蝶番が恨めしい。

兄貴は、こちらを見なかった。それが怒っているように見えて、すくんでしまう。


「なまえです。」


こっちを向いてほしくて絞り出したやっとの言葉。けれど兄貴はそうかという気のない返事だけ。書き物に集中しているのか、怒っているのかわからない。寂しい空間を埋めようと言葉を思い浮かべようとするも頭の中で浮かびかけてはいつの間にか霧散していく。沈黙が肌をねっとり舐めたように気持ち悪い。

先に口を開いたのは、兄貴だった。


「なんのようだ。」


客観的に言えば至極当然の質問だった。主観的に言えば、突き放されたようだった。私の脳内からは建て前を答えるための語彙が全て吹っ飛んで、悲しい感情だけがじっとりと広がった。


「・・・兄貴。」


俯き加減に、ぽつりと放った。兄貴に届いているのかいないのかわからないような、そんま声量の言葉だと自分でもわかった。聞き取れなかったら聞き取れなかったでこちらに興味を示してくれるかもしれないし、聞き取れたら聞き取れたで返事を返してくれることを期待したのだ。

お互いに仕事中の身であるというのは重々承知だったけれど、私が規律を破って私事をこの場に持ち込んだことを兄貴は気づいているだろうか。もし気づいているみたいだったら・・・。


「なんだ。」


期待して待った兄貴の声は仕事中のそれだった。期待が一気に落ち込んで、一緒に暗い気分になる。
もし気づいてくれたら、一生懸命謝って、一緒にいれなかった分を、取り戻したかった。迷惑かもしれないけど甘えたいと思った。そんな自分ばっかりな期待を淡く持っていた自分の愚かさに落ち込む。

しかし兄貴は私の心の中なんて知る術がないんだから知るわけがない。だから今からでも普通に振る舞おうと私はほんの少しだけ顔を上げた。


「立体起動装置の改良の参考にするために、一番扱いに長けた兵長の意見を聞きたいと思って来ました。」


「そうか。」


「今は他の仕事などがあると思いますので、お暇な時に少し考えてくださるだけで結構です。ですので、立体起動装置で不便なことなどありましたら私どもの誰かにお伝えください。」


「・・・ああ。」


「では、失礼します。」


我ながら、上手い嘘をつけたと思った。本当の用事ではないけれど前々から聞きたいと思っていたことだったからちょうど良かった。

私はくるりと回れ右をした。ドアノブに手をかけてノブをひねる。


「なまえよ。」


「は、はい。」


急に兄貴から名を呼ばれて体がびくりと震えた。さっきまではなんにも興味無さそうにずっと書き物に取り掛かっているようだったのに。振り返るとペンを置き、ふんぞり返るように座って私を見る兄貴の姿があった。


「こっちへこい。」


緊張して、声が出なかった。音にならなかった返事は、吐息になって歯と擦れた。
代わりに頷いて、兄貴のデスクの前へと行く。


「そうじゃない、こっちだ。」


デスクの前では不満だったようだ。今にも舌打ちしそうな表情で自分の近くを指さす兄貴。
私はのそのそと移動し、今度こそ兄貴の要望通りの立ち位置に立った。


「・・・・」


しかしこちらをじっとりと睨む兄貴。


「あ、あの・・・兵長・・・」


目を泳がすことと、手を前で組むこと以外私は何もできなかった。

突然、くくっ、という喉奥で笑うような音が聞こえた。え?と、私はいつの間にか俯いていた顔を上げた。
兄貴が小馬鹿にしたように笑っていた。


「相変わらず不器用だな。」


「っ、何ですか。私を馬鹿にしてるんですか。」


明らかに馬鹿にした口調に私の眉間にシワがよる。


「そうじゃない。」


ぐいっと腕を引っ張られる。デスクに手をつけ、何とか突っ張ったけれど思い切り前かがみで兄貴に近づいて。私の見開いた目と、三白眼が近い。

頬に吐息がかかる。私は息をつめた。


「な、なにを・・・」


さらに腕が引っ張られる。耳元が息でくすぐったくなる。兄貴が息をかけるみたいにふっ、と笑って。


「かわいい、っつってんだ。」


「は・・・?」


「聞こえなかったか?なら、」


「いえ、いいです!!」


私は体を起こした。


「な、なにを急に、言い出して・・・恥ずかしくないの!」


「恥ずかしがる必要がどこにある。」


「ここに!」


ぱたぱたとせわしなく手を動かす。そうしていないと顔が熱い理由にできない。

もう、と恥ずかしさやら何やらで少し頬をむくれさせると、やっぱり馬鹿にしたようにのど奥で笑われた。


「本当にお前は、・・・」


「何?また馬鹿にするの?」


顔をぷいっとそむける。この馬鹿兄貴。人をからかって楽しむなんて悪趣味だ。


「いや、」


そういって兄貴はまた私を引き寄せた。ぐるりと視界が三百六十度一回点。うまいこと体を動かされ、気づけば兄貴の座っていた椅子に座らされている。目の前にはいつの間にか立っている兄貴が。


「今度は馬鹿にせずに、」


椅子にひざを立てて半身だけ乗った兄貴は、私の頬に手を添えて、触れるか触れないかのぎりぎりのところであごのラインをなぞる。


「可愛がってやるよ。」


「っっ!」


感じたのは、悪寒か、それとも。

表面に現れたのは、結局は頬の紅潮だけだったけれど。





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