進撃の巨人 | ナノ


揺れる栗色


「なあ、アルミンって!」


「え?何、エレン。」


「何って・・・話聞いてなかったろ、アルミン。また上の空だったぜ。」


エレンが訝しげにこちらを見つめる。僕はああまたやってしまったと思った。


「ごめん。で、話って何だったっけ――」


最近、うわな空なことが多いのは自分でも自覚している。そして、その理由も。

僕が立体起動装置の改良チームに抜擢されたのもつい最近のこと。そこは立体起動装置の改良のみならず、対巨人用の道具を開発するなど、調査兵団にとって影で支える役割を担っていた。少数で行われているけれど、数々の功績を上げているらしい。いまだその技術を使えるのは極一部の人らしいけれど、それでもその道具を使うことで調査兵団の死亡率は下がったそうだ。

そんな場所に抜擢されることは光栄だと思ったし、これからさらに見るであろう仲間の死を少しでも減らすため、現在奮闘中である。

そこの指揮を任されていたのはなまえさんという女性だった。

彼女独自の視点で語られる新しい発想は刺激となった。彼女の話は共感するところもあれば疑問に思うところもあったけれど、彼女はそれらをすべて聞いてさらに自分のものにして新しい発想を生み出していく。あふれんばかりの好奇心、探究心はまばゆいものを持っていた。

静かに、けれど熱情的に生み出される発想の数々は僕の中の何かを静かに燃え上がらせた。いつか外の世界のことを書いた本を読んだときのような高ぶりが、押し寄せては引き、押し寄せては引きの繰り返しが、彼女と過ごしていて続いた。

彼女は僕の考えを認めてくれ、それを足がかりにさまざまなものを生み出してくれた。もっと彼女に認められたい。もっと彼女の役に立ちたい。そう思えば思うほど自分の中でも発想が浮かんでは消えていくことが繰り返され続けていった。

そのせいで、上の空なことが多くて周りを心配させてしまうことも多々あった。みんなとすごす時間も楽しい。ただ最近は自分の中でいろいろなことを考えることのほうが楽しくなっただけだ。


「なまえさん!」


エレンと話し終えて、これから向かおうと思っていたのは彼女のところだった。

後ろ姿と栗色の髪ですぐに分かった。僕は自分の考えを早く聞いて欲しくて小走りに駆け寄る。


「アルミン、どうしたの?」


緩く口角が上がった表情の彼女は僕の顔を見るなり、好奇心で目を輝かせた。僕が考えを言いたくてたまらないのがわかったみたいだ。


「立体起動装置の改良案なんですけど」


僕達が使っている古城の部屋まで一緒に歩きながら僕は彼女にやや熱っぽく考えを語った。


「その案、いいと思う。ただ、問題点がいくつかあって――」


真剣に聞いてくれる彼女に僕は新しく考えついたことをさらに述べた。小さな討論会が開かれ、部屋についてからも議論は続く。

この時間が、とても心地よかった。自分の考えを認められ、熱心に耳を傾けてくれる人たちがいる。それが心地よかった。


「お、アルミンなんか思いついたのか?」


「なんだなんだ、俺たちも混ぜてくれよ。」


それからぞろぞろとほかのメンバーも集まって、議論はどんどん膨れ上がった。


「その案いいんじゃないか?問題点もあるが何とかなるだろ。」


「そうだな。でかしたアルミン!」


なまえさんだけじゃなく、みんなが僕を対等に扱い認めてくれる。もし僕らが今生きている時間が巨人のいない平和な世界だったら、もう少し馬鹿みたいなこともできたのだろう。もっともっと自分たちの疑問に思ったことを突き詰めていけたのだろう。それがちょっとだけ惜しいような気がした。

結局僕の考えた立体起動装置の改良案は途中でどうしようもない重大な問題が発覚し、残念ながら実現することはなかった。


「残念だったねアルミン。」


と、なまえさんが言う。僕は笑顔で緩く首を振った。


「また次がありますから大丈夫です。」


「思ったより落ち込んでないみたいだなアルミン。」


「頭の中ではもう次のアイデアが何個かあるんです。だからそっちで頭がいっぱいで。」


「ははは!完全になまえさんに感化されちまったな!」


「ちょっと!なんですそれ!」


「おおっといけねえ。つい口が滑っちまった。」


まだここに入って少ししか経っていないのに何度も何度も僕は成功と失敗を見た。失敗するたびにこうしてみんなでちょっと一休みして雑談するこの時間が、今は一番癒される。

夕暮れ時となり、夕日は真っ赤に燃えていた。

このくらいの時間になるといつも現れるのがリヴァイ兵長だ。


「お。なまえさん、兵長ですよ。」


茶化すようになまえさんに声をかけるブランドンさんをなまえさんが軽く睨む。

この時の彼女の表情が幸せそうなので、ついついからかいたくなってしまうのはよくわかる。


「じゃあ、今日はここまでで。お疲れ様でした!」


彼女はそう言って、リヴァイ兵長のもとへと嬉しそうにかけていった。





(アルミン、残念だったなあ。)

(え?何がですか?)

(リヴァイ兵士長が相手じゃ敵いそうもないもんな。)

(・・・あの、勝手に勘ぐるのやめてください。違いますから。)


※ブランドンさんはオリキャラです

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