ささやかな気遣い
食事は大体当番制で作る。台所にたつ人数が限られるからだ。人数が多い分時間がかかるので、当番じゃない人は掃除をするなどそれぞれの役割を果たしている。
今日は私がその当番である。
料理はあまり不得意というわけではない私は、黙々と必要な分の芋をむいていた。
「お前、手際いいな。」
と、不意に覗き込まれて、私は少し驚いた。
左側にちらりと視線をやると、ジャンがいた。
「料理は、苦手じゃないから。」
「ふーん。」
ジャンはただ、私がジャンよりも手際がいいことに感心しただけだったようだ。しかし今まで一度も話したことが無かったから、私は内心ですごく固まっていた。
「あ、なあ。」
また声をかけられて、私はジャンのほうを向いた。
「これ、もう少し小さく切ったほうがいいか?お前、昨日食べづらそうにしてたよな。」
ジャンが切り終わった芋を見ると、昨日のよりか大きかった。確かに昨日も一口では食べられないような大きさだった。しかし食べづらかったのは私が猫舌だったせいだ。その証拠に私以外の人は、冷まさずとも食べていた。
私は首をゆるゆると振って答えた。
「私、熱いものが苦手なだけなの。」
「ああ、そうか。分かった。」
ジャンは、自分の作業に戻って、芋を次々に切っていく。私も自分の作業に戻った。
「あの、」
先ほどの会話を思い出しながら皮をむいていると、ふと気づいたことがあって、私はジャンに声をかけた。
「なんだ?」
芋を切りながら先を促され、私も芋の皮をむきながら話す。
「ジャンは、周りのことがよく見えているんだね。」
ジャンは、「は?」というと同時に芋をざく、と切った。いつも話すことがない私が急に話し始めたから、戸惑っているのかもしれない。
「いや、急に、なんだよ。」
「昨日の夕飯で、私が食べづらそうにしていたの気づいてくれた。」
「あー・・・いや、それは別に偶然・・・」
照れ始めたのか、急にジャンがしおらしくなってきた。
ジャンが照れはじめると、なんだか私は緊張してきた。あまりなれないことをしたせいだ。私は、これ以上は黙っておこう、と思った。ただ、次の言葉を最後にしようと決めた。
「えっと・・・そういうのでも、誰だって、気づいてもらえたらうれしいと、思うよ。だから、ありがとう。」
急にありがとうなんていわれて、ジャンは驚いたようだ。私のほうをちらりと一度みる視線に私は気がついたけれど、何も話す様子は無いので、また私は黙々と芋をむき続けて、そして終わらせた。
「なあ、」
芋をむき終わったので、次の作業に移ろうとしたときにジャンがそれを少し引き止めた。
「さっきのやつなんだが・・・」
ジャンは芋を切る手を止めて、私のほうをむいた。なんだか、照れているのか少しだけ気まずそうだ。
「あれ、実はエレンのやろうだ。」
「え?」
「今日の食事当番の俺に、『昨日より芋を小さくしろ』って。そのときにお前の話がでてきたんだよ。」
それだけだ、といってジャンは作業を再開させた。
私も次の作業を始めたけれど、手はちゃんと動かしているのに、なんだか頭はぼうっとした。
エレンは、本当に、すごい。
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