誘い
ちゅんちゅん、と雀の鳴く声が聞こえた。
それに意識を覚醒されるようにうっすらと目を開く。まぶたの奥がまぶしそうだったのでゆっくりとその光に慣れるように目を開けば、見たことのある天井が移った。
どこで見たことがあったのだろうかと記憶をたどろうとしたそのとき、廊下のほうから足音がきこえてきた。
誰だろうと思いながらも寝てるふりをする。
うっすらとばれないように目を開き足音のするほうへと視線を向ければ。
上品かつすばやく戸が開き、そのあけられた戸の向こうには上質な袴をきた男がいた。
ただ、下半身しか見えず、不自然になってしまうので顔を確認することはできない。その立ち居振る舞いが女のような雅やかさがあった。
ああ前にもこんな身のこなしをする男をみた。
男は私の寝ている布団の隣に腰を下ろすと、私の顔を覗き込んだ。
「!!!・・・った!!!」
「うっ・・・」
驚きで思わず飛び上がり男と額と額をごつりとぶつからせてしまった。
男も短く小さなうめき声をもらしほんの少しばかり赤くなってしまった額を押さえる。
私もあまりにも痛すぎる衝撃に額を押さえながら男を睨んだ。
「ずいぶんひでぇ起き方だな」
そこにいたのは私の殺すべき相手の神田ユウである。
彼の顔をみてそういえば昨日自分は何か強力な薬によって眠らされたのだということを思い出してさらに鋭く睨めば鼻で笑われた。
やはりずいぶんと失礼な男である。
「もう一発お見舞いしてほしいということなら今度は息の根を止めてあげるけど。」
挑戦的な笑みを浮かべ神田ユウを鋭く睨む。
すると、神田ユウは、はっ、と私を鼻で笑った。
「てめぇには無理だ。」
「あ、そう。勝手に言っておけば?そんな大口たたいて負けて死んでも私、知らないから。」
そうにこりと笑みを浮かべてみせ、いつでも立ち上がれるようにと体勢を整える。
私が笑みを浮かべたことに怪訝そうな 顔をした神田ユウは何やらこちらを探るような瞳をしたあと、ふっ、と笑った。
「今のてめぇには立ち上がることもできねぇよ。」
「・・・それはどういう意味。」
「そのまんまの意味だ。」
ためしにやってみろ、と顎で示される。
なんなんだといわんばかりのいぶかしげな瞳で立ち上がろうとすると、急に体の力が抜けて肘と尻を強く打った。
「・・・・・・・」
一体全体、どういうことだ。
眉間にしわを寄せると、神田ユウがくつくつと笑っていた。
きつく神田ユウを睨めばそんなの全く怖くないといわんばかりに鼻で笑われる。
「あの薬は強力なもんだ。しばらくはまだ本調子にはなれねぇよ。」
まるで悪役のような(私からすればこいつは殺すべき敵で、悪役なのだが)意地の悪い笑みを浮かべるやつだ。
私は、この男にはあまり突っかからないほうがいいと判断し神田ユウの本来の目的を尋ねた。
「・・・・どうするつもり。」
そうだ、この男がここに来たのは私の様子をただ心配してきたというわけではない。
私を敵だと知りながらこうして生かしているのは何らかの理由があるのだろう。
そんな意味をこめ、"どうするつもり"と相手を探るように目を見れば、神田ユウは笑みを浮かべて、
「どうだ、俺らの仲間にならねぇか。」
―――心が、震えた。
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