此処にひとつの心臓があります | ナノ




作戦開始


「っ・・・なぜっ・・・!!」


苦内を持ったまま固まった柴乃。

俺は寝間着を着た状態のまま信じられないような気持ちで柴乃を見つめていた。

柴乃も俺と同じように信じられないような目でこちらを見つめていた。


「(まさか、本当に来るとはな・・・)」


頭の中でそうつぶやく。

その呟きがもれ出ていたのかは分からないが、柴乃はあたりの気配を探り始めた。


「安心しろ、俺の寝所には誰もこねぇ。」


そういうと柴乃は眉間にしわを寄せ、こちらを鋭く睨んだ。


「・・・・あなたが、"神田ユウ"・・・なの?」


苦内を構えながらじりじりと近づいてくる。

俺は刀の柄を握る力を強めて、柴乃の動きを待った。


「お前は、"柴乃"だな。」


「・・・・・」


柴乃の眉間にしわが寄せられる。

間合いをつめるのをやめた柴乃は、苦内を持ち替えた。

俺も刀の柄を持ち直す。


「いまさら名前を知ったって、どうせあなたは死ぬのよ。」


「どうだろうな。
いくらノア国最強のくのいちだからつったって、俺は黒の国随一の剣士だ。」


はっ、と鼻で笑えば、柴乃は嘲笑を浮かべた。


「試してみる?」


そうやって見世物のように苦内を一度玉を放るように上になげ、柄を正確に持った柴乃。

俺は面白い、とつぶやき、柄を握る力を強めた。


「いいだろう。・・・・っっ!!」


室内という狭い空間で膝をばねに床を蹴る。

柴乃も床を静かに蹴った。


金属同時のぶつかり合う音が静かな空間に鳴り響き、どんどんと床は鳴った。

これだけ大きな騒がしい音が出ていようが、護衛の兵などが来ないのにはわけがあった。

それはこの間あの馬鹿兎たちがきた時のこと。

あの情報通のラビが次標的にされるのは俺の可能性が高いと言い出したのだ。

案の定、それはあたったわけだが、くのいちが来ると予測される間は俺の寝所に護衛をつけないという作戦をラビから提案された。

俺の実力があってこそできる作戦である。俺は柴乃に殺されるなんて微塵も思ってもいなかったため即答した。

その作戦乗った、と。


そして、今に至っているわけだが。


「うっ・・・・」


そう、苦痛の声を漏らしたのは柴乃のほうである。

ぽたりと床に落ちた一滴の血。

俺はまだ柴乃を切っていない。しかし血が流れたのはおそらくこの間の傷が開いたためだろう。

俺は、その隙をつき柴乃の首筋に刀を当てた。


「おとなしく武器を下ろせ。」


「・・・・」


苦内が静かに床に下ろされる。

念のため足で遠くへやったあと、そのまま柴乃を見つめればただ無表情にこちらを睨んでいた。


「傷がまだ治っていないというのになぜ此処へきた。」


切れない程度に首筋に刀を当てる。

しかしやはり表情一つ変えずただこちらを睨みつける。


「・・・・」


口を真一文字に引きむすんだ柴乃は、どうやら答える気がないらしい。


「答えろ。」


刀をより一層柴乃の首筋に当てるが、やはり柴乃は口を引き結んだまま、答えようとはしなかった。

首筋から一筋、血が伝った。

しまったと思い、俺が首筋に当てていた刀を一度放そうとしたそのとき。


「っな・・・!!」


柴乃は瞬時に首に突きつけられていた刀を、もう一つ持っていたのだろう、苦内ではじいた。

そしてそれから俺の足を払うと仰向けに倒れた俺の首筋に苦内を当てた。

形勢逆転。柴乃は俺を小馬鹿にしたような笑みを向けた。


「助けたからと私に情でも移った?それとも命の恩人だから殺されないとでも?」


馬鹿ね、と吐き捨てる柴乃。しかし俺はなぜか俺は殺されない、という自信を持っていた。


「いくら命の恩人だからといえども、所詮、敵は敵。敵に情けをかけようものなら自分が殺られる。戦の常識よ。」


「・・・・・」


今度は俺が黙る。

しかし俺は柴乃がしゃべる間じっと、"そのとき"を見計らっていた。


「死んでしまいたかったといえど、命を助けられたのだから感謝はするわ。
だけど・・・・私は、任務を全うするのみ。・・・・だから、あなたの・・・、いの、ちは・・・、・・・?」


苦内を持ちながらふらふらとし始めた柴乃。

今はもう目の前がかすみ始めてきたころだろう。

俺は、にやりと柴乃に向かって笑みを向けた。


「くっ・・・・・!!」


悔しそうに顔がゆがめられる。俺は柴乃の手に持つ苦内を奪い、すばやく柴乃の下から抜け出した。

そしてその直後、柴乃は床にぱたりと倒れた。

実は、剣に強力な眠り薬を仕込んでおいた。

いざというときに使おうと思ったが、間違えて首筋を切ってしまったのだ。

しかし、それのおかげで命拾いをした。


床に倒れた柴乃を俺の寝ていた布団に寝かせる。

先程までの鋭かった目つきは和らぎ、そして肌が粟立つほど凄まじい殺気が消えた柴乃はただの少女のようだった。

まさかこんな女子が人殺しだと思う人間はいるはずがないだろう。

しかし実際にこの少女は人殺しを繰り返すくのいちなのだ。

その力を哀れだとは思うものの利用させてもらうのはこの少女にとって酷だろうがそれが今の時代である。

ただ、今だけはあどけない少女として扱おうと俺は医者を呼んだ。

/



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -