胸の高鳴り
「久しぶりだな糞もやし。」
「相変わらず無礼なお出迎えですね神田。」
「まぁまぁ、座ろうぜ。」
本当に大迷惑な突然の訪問に俺は不機嫌さを隠そうともせずに奴等を出迎えた。
ちょくちょくと近場でもないのに遠路遥々やってくるのだから追い返すわけにも行かず一泊はさせてやる。
今回は二人同時にやってきたということで何かがあったのかと思い、きちんと話を聞いてやることにした。
「今回は何の用件だ。」
不機嫌さはまだ直らずに眉間にしわを寄せながら問えば答えたのは馬鹿兎だった。
「いや、実はさ、こないだノア国最強のくのいちが動き出したんさ。」
そういってかくかくしかじかと説明をし始めたラビに俺は一つ一つ耳を傾けた。
「で、そのくのいちにうちの国の仲間が殺られたんさ。」
「・・・・だれだ?」
「ケビン・イエーガーさ。」
「なっ・・・・あの男がか!
・・・・そのくのいち、どんな奴だ。」
「あー、今調査中さ。」
ま、期待しないほうがいいかもな、とさして残念そうでもなく答えたラビ。
情報通で知られているこいつが期待できないというのならばあまりよい情報は期待できないだろう。
ただ、ひとつだけ気になる点があった。
数日前に助けてやったノア国のくのいちだ。
ラビの話を聞くところによるとケビン・イエーガーが殺されたのは十二日前と言うではないか。
ケビン・イエーガーの城から二日もあればここにはたどり着ける。そして十日前といえばあのくのいちを俺が助けてやった日だ。
もしかするとあいつがあのケビン・イエーガーを殺したのか。
「そのくのいちのほかの情報はないのか。」
俺はそのくのいちがあの女としか思えなくて、女の正体をどうしても知りたくて聞いた。
「名前は確か柴乃だったさ。ノア国に潜入させてる忍がその情報を持ち帰った。あとは年が十七だとか。
・・・ま、どうでもいいような情報ばっかさ。」
と、ラビは言うがその情報は俺にとってはとても重要なものだった。
あの女から聞き出した情報とまったく一緒であった。やはりノア国最強のくのいちというのはあの女・・・・柴乃だったのだ。
「どうでもいいようなものばっかあんだけど一つだけいい情報があるんさ。」
俺はどうしてか胸が高鳴るような気持ちを感じていた。
一字一句聞き逃さぬよう自然と身を乗り出す。
俺が出し惜しみをすることを嫌うことを知っているラビはそのままさらりといった。
「ノア国の"主"って呼んでる奴にひでー扱いうけてるみたいなんさ。」
ラビはにやりと何かをたくらむような目をした後こういった。
「だから、あのくのいちがこっちに攻めてきたときに味方にする。」
「はぁ!?」
ずっと黙っていたもやしが急に立ち上がって口を挟んできた。
俺もラビの考えには驚いたが、悪い考えではないと思う。
しかしもやしはどうやら反対らしい。
「そんなことできるわけないでしょう!?」
目を見開き気を昂ぶらせて反対の意思を主張する。
「そのくのいちがこちらに味方する振りをしてこちらを裏切るかも知れないじゃないですか!」
「ま、そうさね。」
そんなもやしの意見をラビは肯定した。もとからその可能性を考えた上での提案だったのだろう。
俺はラビの次の言葉を待った。
「今回あのケビン・イエーガーが殺されて俺らは大打撃を受けた。なんせあれほどの男が簡単に殺されちまったんだからな。だからその最強のくのいちをこちらに味方させればその間だけでもこの国は安全さ。それに、ユウの近くに置いとけば裏切る可能性低くなりそうだし。」
「どうしてそんなこと・・・・」
「いやぁ〜、やっぱ人の口に戸は立てられぬっていうじゃん?俺ユウに会う前に聞いちゃったんさ、ユウの従者に。」
にやりと笑みを浮かべるラビ。
俺は眉間にしわを寄せる。
「イエーガーが殺された二日後、ユウが怪我して死にそうなそのくのいちを助けてやったんだろ?いくらなんでも命の恩人裏切らねぇさ。」
「えっ・・・神田?」
「・・・・・・・」
俺は黙った。ラビの何でも知っているんだぞという顔を見てそうだとうなずきそうになったが何とか踏みとどまる。
ラビはそのまま話を続けた。
「俺がくのいちが怪我をしてるって知ってるのは、今回イエーガーを殺しに来たくのいちにもう一人相棒がいたんさ。そいつはノア国裏切ってこっちに亡命してきたんさ。そのときにあのくのいちが邪魔だったから、殺そうとしたみたいなんさ。ま、結局は無理だったんだけど。」
「・・・・・・・・」
「そんでその女がやってきたのは十日前だって聞くし。イエーガーが殺されたのはその二日前。二日もあればここの近くにはこれる。・・・・・助けたんだろ?くのいちを。」
確信にも近い言葉に俺は仕方が無いと思い、うなずいた。
「ってことで、ユウにそのくのいちの対処を任せようかと。」
「・・・・分かった。」
「一応は様子見ってことでいいだろ、アレン。」
「・・・・はい。」
「ってかアレンが反対してもほかのやつらの了解は得てたんさけど。」
そういって舌を出したラビにもやしがきれたのは言うまでもない。
どうしてだろう。
俺の胸は高鳴っていた。
そしてもやしとラビが帰っていった翌日の夜。
「命、頂戴するっ・・・!!」
「っ・・・」
柴乃が、現れた。
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