正体不明
「と、殿!!大変です!」
従者のあわてたような声が聞こえたのはのんびり茶をすすっているときだった。
茶柱が立っていたため、今日はいいことがありそうだと思っていたのだがそんな考えは従者のあわてた声と報告した内容で吹き飛んだ。
「あの
女子が・・・・いなくなりました!!」
「何!?」
俺は飲んでいた茶を噴出しそうになりながらも茶を置き、急いで従者のあとをついていった。
――――なんだこれは。
布団の中に入っていたびりびりに破られた着物を手に取りながら俺は呆然とした。
せっかくの上等な着物がもったいない。
どんな風に破り裂かれたのかは分からないが酷いものである。
こんな上等な着物を破る度胸がある女がいるとは。俺は、呆れにも似た意味を含んだ笑みを漏らした。
申し訳なさそうにこちらを伺う従者の姿が視界の端にちらりと映りこむ。
俺はそちらに顔だけ向け、「気にするな」と言った。
「それよりも、いなくなった女子の正体をつかめたのか。」
「それが・・・もう半分のあの国の忍ということだけでして・・・名前や居場所までは・・・・」
「そうか。まあいい、下がれ。」
「は。」
従者を下がらせて俺はその後布団のそばに座った。
よくよく見てみると布団にはうっすらと小さな血の跡が見えた。
あんな傷で、どうしていなくなったのか。
そんな心配する考えとともに心に小さな風穴が開いた気がした。
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