嫉妬
アレン様が扱ってくださった方舟のおかげで、一気に旅路が短縮されたことが現実のものとは思えなくて、私はしばらく薄っぺらな発光物体を見つめていた。あそこを通過すると、全く別の空間にいることができるとは、なんとも夢のような話である。
そう感じたのは私だけではなかったようで、同じように方舟にのった面々は、しばらくは地に足が付いていないようすだった。
私たちが方舟で降り立ったのは、神田様の城の前である。そこからは出迎えとしてラビという人物がやってきていた。
「ストラーイク!」
出迎えた彼と目が合った瞬間、ラビ様はどこかで聞いたことがあるような、けれども意味不明な言葉を叫び、こちらへ来て私の手を取った。
敵意がまるきりなく、むしろ好意の塊がどっと押し寄せてきたような感じで、私はとにかく固まった。
「すっげえ美人さ! やっぱくのいちってあれなん? みんな美人揃いなんさ?」
「くのいちは、私だけなので、あまり・・・」
「へえ! あ、俺ラビっていうんさ、よろしく柴乃ちゃん。」
ラビ様の勢いにたじろぎ、自分の名前がちゃん付けで呼ばれたことに違和感を感じつつ私は答える。
「こちらこそ、よろしくお願いします、ラビ様。」
「そんな、ラビって呼び捨てでいいさ!」
「いえ、そういうわけには。」
「いーいーかーら!」
有無を言わせぬ様子だったので私は渋々彼のことを呼び捨てにした。
「では・・・改めて、よろしくお願いします、ラビ。」
「敬語はまた今度外してほしいさ。」
「は、はい。」
「んじゃ、そろそろユウが怒りそうだから行くさ。」
ラビ様は先ほど迫った勢いを逆方向へと向け直して歩いていく。私たち一行は、その後につづいた。
私はラビ様の調子に苦手意識を覚え、一行のしんがりを行くことにした。旅の疲れを癒したくて早く入城しようと歩き出した人を先に通す。
すると一人、神田様が残った。他のものに先に行くように行ったのだろう。
彼はこちらをじっと見ている。まっすぐと煮えたぎるような目で。
それからつかつかとこちらに歩いてきて、私の手を取った。
「あ・・・」
彼はしっかりと指と指を絡める。アレン様と初めて会う直前の記憶が頭をよぎった。
握られた手と、神田様の顔を交互に見やる。彼はただじっと、私の顔を見つめている。私は自分の頬に朱がかかっていないか心配した。少し火照っている気がしないでもない。
無言で神田様に手を引かれる。私は半歩後ろを歩き出す。
神田様の歩みは緩やかだ。初めは何か激情のようなものを感じて私も緊張がほぐれなかったがだんだんとそれも薄まってきた。まるでじっくりと散歩をしているかのようである。神田様があまり話をする方ではないのもあって、無言での歩みがさらにそれらしさを演出しているように思えた。
ほんの少し穏やかな気持ちを抱える傍ら、切なさを抱える胸をきちんと秘めて、私は引かれるまま歩いた。
「あとで、俺の自室に来い。」
城門から少し離れたところで、手を離す前に神田様が言った。ぎゅ、と握られた手が私に有無を言わせない。私は無言でうなずいた。
その時の瞳は、ただひたすらに真剣であった。
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