構われたいなら素直に言え


2人が夫婦となって2ヶ月が過ぎた。
結婚当初こそ明らかに歪み合っていたが、ほんのひと月程前……体の関係を持つようになってからは、仲が良いとまではいえないものの、2人の間を流れる空気はどこか柔らかく変わってきていた。
だからなのかなんなのか、今まで本部で片付けていた書類業務をリヴァイは自宅に持ち帰るようになり、彼の帰宅時間は早くなっていた。
そして今日も、夫婦の寝室にある二人掛けのソファに腰掛けて、やはり小さなテーブルの上でリヴァイは書類にペンを走らせていた。
時刻は就寝時間をとうに過ぎていて、マホは自分のベッドに腰掛けて恨めしげにリヴァイを見つめていた。

「まだかかるの?」

そのマホの声に、リヴァイはペンを持つ手を動かしたまま答える。

「先に寝てていいぞ」

生憎、そう言われてすぐに「おやすみ」と返せるほどマホは素直ではない。
フカフカしたベッドから跳ねる様に立ち上がって、ソロソロとリヴァイの背後へと近付いて行く。
そのマホの動きには気付いていながらも、リヴァイは特に気にするでもなく黙々と書類業務を進めていた。
リヴァイの隣、小さなソファにトサリとマホが腰掛けて来たところで、ようやくリヴァイはペンを走らせていた手を止めた。

「おい、気が散る」
「リヴァイって、元ゴロツキの割には綺麗な字、書くわね?」

リヴァイの注意に聞く耳も持たず、書類に走っている字をしげしげと見てマホは言う。
ここで何かヤイヤイと言ってもどうせ聞きはしない、という事が見えたのか、リヴァイは隣に座っている彼女の存在に軽く溜息を1つ零して、再び書類にペンを走らせた。

「…………貴方のその髪型ってちょっと変わってるわよね?こだわりがあるの?」
「どうでもいいだろ。そんな事」
「…………紅茶でも淹れる?」
「いらねぇよ。ちょっと黙ってろ」
「…………ねぇ今日―…」

何か言いかけたマホの言葉を遮るかの様に、コロリとペンがテーブルに投げ転がされた。
マホが口を閉じた事で、静かになった室内にトントンとリヴァイが書類を纏める音が響いた。
1_のずれもない程にピシリと纏まった書類をテーブルの端に置いて、リヴァイはゆっくりとマホの方に顏を向けた。
ムゥと口をへの字にしている彼女に、フンと笑って、緩くウェーブのかかった金色の髪にポンと手を置いた。

「なっ……何よ!?」
「お前はやっぱりガキだな」

それはマホが最も言われたくない言葉で、カァッと彼女の頬には瞬時に熱が篭もった。

「が、ガキじゃないわよ!大体リヴァイだっておじさん―…」

ムキになって言い返すマホの口を、スルリと撫でてきた指に驚いて、パクと閉じられた唇に今度はリヴァイの唇が触れた。
風船がしぼむ様にプシュゥと大人しくなったマホに、意地悪くリヴァイは笑う。

「構われたいなら素直に言え」
「か、か、構われたくなんて、別に私はっ……」
「困った嫁だな」
「よ……嫁とか……言わないでよ!!」

紅い顏で必死に言うマホはやはり子供で、そんな彼女をリヴァイは大人びた仕草で、軽々と抱き上げた。

「ちょっとリヴァイ!下ろしてよ!!」

リヴァイに横抱きにされた状態で足をバタバタとさせているマホに対して、全く危なげない動きでリヴァイは彼女ごと自分のベッドへとボスンと倒れ込んだ。

「さっき、何て言おうとしたんだよ?」
「さっき……?」
「『今日……』って何か言いかけただろ」

その口振りに、キュッと悔しげに眉を寄せてマホはリヴァイの首に腕を絡めた。

「……分かってて、ベッドに運んだんでしょ」
「いつかお前の口から甘い誘い文句を聞いてみたいもんだな」
「下品な事……言わないで」

クイッとマホは首だけを持ち上げると、自らリヴァイに口付けた。
当たり前の様に応える唇と髪を撫でる優しい手に、この後の甘い予感が垣間見えて、ジワジワとマホの全身に熱が帯びていった。

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