いい加減慣れてくれ


例えば恋人の恥じらう顔、付き合いたてと変わらない初心な反応というのは、なかなか悪いものではない。悪いものでは無いのだが、自分の恋人は少し過剰ではないだろうか……というのが、最近のリヴァイの秘かな悩みだった。

「ちょっ!!……と、あの、リヴァイさんっ!!」

悲鳴と焦りを織り交ぜた様な声で叫んだマホが、顔を真っ赤にしてクルッと背中を向けるので、リヴァイはヤレヤレと呆れた顔で、裸の上半身に真っ白いシャツを羽織った。
別にそこに、妖艶な空気など漂っているわけじゃない。
少なくともリヴァイにとっては日常的な風呂上りの状態だった。
仕事柄、毎日家に帰宅する事は難しいが、それでもなるべく帰れる日を増やし、マホとの時間を作れる様に心掛けてもう随分と経つ。
それでもマホは、リヴァイが“ツバサ”に顔を出せば、毎回相も変わらず嬉しそうにしているし、一晩共に過ごせると知れば頬を赤く染めていた。
そんなマホの反応はリヴァイも素直に可愛いと思ったし、彼女の中にある、リヴァイへの確かな愛慕を実感して満たされた気分にもなっていた。
だが、初心忘れるべからず、といった感じの彼女の反応は時に、リヴァイを困らせるのだ。
今の様に、風呂上りに上半身を露にしたままで部屋に戻ったり、愛し合って眠った朝に裸のままでベッドから降りたり、とリヴァイにとってはごく一般的な日常行動ですら、マホは恥ずかしそうにして背を向けてしまう。

「おい……」

恥ずかしそうに小さくなっているマホの背に声を掛ければ、彼女はおずおずと振り返り、真っ白いシャツに袖を通したリヴァイの姿に、たちまちホッとした表情になった。その顔を愛おしいと思う反面、どこか遣る瀬無く、リヴァイはハァと溜息を零した。

「俺の裸なんざ見慣れてるだろうが」

リヴァイからしたら何を今更……と思ってしまうマホの反応も、彼女本人からすれば至極真面目な事らしい。
桜色に染まった頬に金色の髪をたらしながら、マホは真剣な顔でリヴァイを見つめた。

「見慣れてなんて……無いです」
「何言ってる。今まで何度も俺に抱かれてきただろうが」
「なっ……そ、そういうのとは、別です……」
「いい加減慣れてくれ」
「慣れって……無理ですよ」

言いながらマホは、落ち着き無くしきりに、自分の髪に手櫛を通していた。その彼女の手に、リヴァイの手が絡む。

「おい、マホ。俺はこの家にいる時は出来るだけ寛ぎたい」
「それは、私もそうです。リヴァイさんはお疲れでしょうし、少しでもリフレッシュしてもらえたらと……」
「なら、風呂上がりに下着1枚で寛ぐのも認めてくれるよな?」
「えっ……」
「いつまでも俺はこの家を訪れた“客”なのか?」

そう言われてしまえば、リヴァイの要求を認めざるを得なかった。
彼女の頬から桜色が消えるようになるのはまだもう少し先の話ー……

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