美化した俺のイメージを周りに言うな
エルヴィンから手渡された大量の書類を手に、自室に戻ろうとしたリヴァイは、廊下を挟んだ真向かいの部屋の中から漏れ聞こえてきた賑やかな笑い声に、ピタ、とドアノブにかけかけた手を止めた。 視察に来ていた憲兵団の兵士がマホの元同僚だったらしい事はリヴァイも小耳に挟んでいたし、積もる話もあるのだろう、とその笑い声に勘繰る気持ちは無かったのだが、改めて自室の扉を開けようとした時、再び耳に届いた声にまた手が止まる。
「でもマホ。大変じゃない?調査兵団って……。エルヴィン団長は何考えてるか分からないし、それにほら、リヴァイ兵士長……。目付きも悪いし、粗暴な感じだし……」
どうやらマホの元同僚は、彼女が調査兵団に籍を置いた事を危惧しているらしい。 目付きが悪いのも、粗暴なイメージを持たれる事もリヴァイは慣れていたし、別に大して自分と関わりの無い人間に持たれている印象など普段なら気にもならない。 だが、マホがそこにいると思うと、どうでもいいとは思えず、リヴァイの足は一歩一歩、彼女の部屋の方へと近付いていた。 扉に耳が付きそうな程近くまで来た時、部屋の中からフフフと柔らかい笑みが零れた。
「そんな事、無いよ。エルヴィン団長は確かにとても頭が切れる人だけれど優しいし、リヴァイさんは−−……」
無意識に作っていた拳の内側にジワリと汗が滲んでいた。 マホは自分の恋人であって、それはつまりはマホに愛されているというわけであって、彼女がリヴァイを悪く言う事など、まず考えられない。考えられないが、それでもマホが何と言うかがどうしても気になった。
「きっと、皆が思ってるイメージとは随分違うよ」 「え?そうなの?」 「うん。とっても優しい人だし、仲間思いだし、綺麗好きで、あ、リヴァイさんからはいつも清潔な石鹸の香りがするんだよ」 「え……石鹸??」 「うん!後ね、滅多に笑わないけど、笑った顔はとっても綺麗だし、腹筋とか胸筋とか芸術品みたいに美しいよ!!」 「マホ、何でそんな事まで知ってるの?」
顔から火が出るとは正にこの事だろう。 次のマホの言葉を聞く前に、リヴァイはクルリと踵を返して、自室へと戻った。
その日の夜、幸せに満ちたベッドでマホの身体を抱きしめ、リヴァイは言った。
「おいマホ……美化した俺のイメージを周りに言うな」 「び……か?何の事ですか??」
本当に分からないらしく首を傾げているマホを、リヴァイは更に強くギュッと抱きしめた。
「あ、そうそう。今日来た憲兵の子に、リヴァイさんと付き合ってる事、気付かれちゃいました」 「そりゃお前……あんな事言ったら……」 「え?」
またもや不思議そうにするマホに、この話は終わりだと言わんばかりに、リヴァイからの甘い口付けが降ってきた。
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