世界は変わった。 フィニスの刻を超えた先に待っていたのは未知なる時代。幾億も繰り返された時間とは違う、神さえも知らない未来。 戦争で疲弊し、ルルサスのルシに踏み荒らされ、クリスタルの加護さえ失って。 絶望的とも言える状況で始まった新しい世界、それでも人々は明日を目指す。 壊滅した朱雀でまず立ち上がったのはマキナとレムだった。皆が混乱する中、二人はしっかりと前を見据え、人々に歩むことを説いた。 「無理を言ってるのは分かってる。でも、オレ達はここで立ち止まっちゃいけない。この世界を受け入れ、順応し、築いて、生きるんだ。―――みんなの為に」 みんな。それは時代の犠牲になった者達が含まれていた。今までクリスタルが消していた者達。そして、初めて死者として記憶に刻まれた者達……0組。 「彼等が繋いでくれたものをオレ達が受け継ごう!ここで終わらせない、そんなこと絶対に駄目だ!だから!」 マキナの演説には多くの者が耳を傾けていた。 極端に今の人々は光を欲していた。何が起こり、何が終わり、何が始まったのか。全く分からず途方に暮れる中で待つのは道を示してくれる光。例えば、今のマキナのように。 結果で言えば、人々は立ち上がる。少しずつ復興へと動き、朱雀は日常を取り戻していった。その彼等の先導役としてマキナ・クナギリは名を残す。 「あー……なんで上手く行かないんだ……」 あれから数ヶ月程経ったある日の午後。マキナは自分に当てられた部屋の机に突っ伏していた。それなりに大切な資料にぐるぐると落書きをしてる様はかつて人々を立ち上がらせた輝きが見られない。 街は姿を取り戻した。農業商業工業どれもが活動を始めた。他国との交流も繋がりつつあった。生活感というものが湧いて来ているのである。 だが、それらは全てまだまだ及第点だった。 姿は戻れど中身は未だ戻りきらず。活動は大器晩成すぐに賑わうわけでもない。交流はぽつりぽつりと現状報告をし合っただけ。 状況は前へ進んでいるとは言え、そのスローペースさは前向きに考えるにしてはかなりの障害だった。 他に何か方法は無いか、自分が今すべき最善の選択は。 考えている内に思考が爆発してしまったのだ。 増えていく落書きが紙面の三分の一を埋めたあたりで、部屋のドアが叩かれた。 「入るよ、マキナ」 聞き慣れた声。ドアを開けてレムが顔を覗かせた。 「どうしたんだ?」 顔を上げて確認したマキナに苦笑する。 「だいぶ疲れてるみたいだね」 「ああ。……オレにはやっぱり向いてないんだな、こういうの。計画性を持たせられなくて……現状に合わせる柔軟性も足りないし……」 「おっと、我らが救世主サマがそんな弱気じゃ困るねぇ」 レムの後ろからひょこりと顔を出し口を挟んだのはナギ。 「あ、俺一人じゃないぜ?」 新たな来訪者に驚いたマキナが言葉を発するより早くナギが答えた通り、彼が部屋に入ってくる後ろには確かに数人いた。ムツキ、リィド、クオン、カルラ。 「おいおい、この人数が集まるのにこの部屋じゃ狭いだろ」 「細かいことは気にするなって」 マキナの肩を軽く叩き、ナギが笑う。 「広い場所まで移動したい気持ちは分かるけれども、これはこれで意味があるのだよ」 「外に出たらマキナ気が休まらないでしょ?」 「たまには他人の目がある所ではなく見知った者だけで集まっても良いだろう」 「それって……」 クオン達の言葉で薄々と察したマキナの表情が少し腑抜けたものになる。 「もっと早く察しろ!お前それでもボク達の……」 「マキナに気を使ってくれたんだね。ありがとう」 「えっ、あ……その……」 「おや、さっきの威勢の良さはどこへやら」 「う、うるさいぞ!」 部屋の中は賑やかになり、さっきまで沈んでいた気持ちが無くなっていた。だって、この雰囲気はまるで。 「少しは俺達を頼ってくれよ。クラスメイトだろ?」 クラスメイト。その単語が突き刺さる。 今のマキナ達は0組では無い。アギト候補生というもの自体が無くなったからだ。それでも変わらず制服を着ているのは、全てを切り離さない為だ。過去を、歴史を、悲しい事件だったねと片付けることはしない。したくない。それは大半の候補生にも当てはまり、未だに候補生服を着用している者達があちこちで見られる。マキナの呼びかけで真っ先に行動を示したのは彼等だった。戦場を経験した彼等はもうヒヨッコなどではなく、立派な戦士であった。 そして今ここにいる7人にのみ見られる特徴。朱いマント。それが意味するは彼等との絆。0組として共に過ごした証、自分達と彼等を繋ぐ朱。他人の思考は分からないものだけれど、朱を身に纏っている意志は同じなのだと感じていた。 「……そうだな。クラスメイトだもんな、オレ達」 「そうそう、どーんと来いって」 「ちゃんとクラスメイト価格にしてあげるわよ」 「お前なぁ……」 あの時誓ったはずだ。彼等の守った世界を繋ぐと。彼等の朱をオレ達が受け継ぐと。 「―――うおおおおおお!!」 「おおう!?」 「ど、どうしたの、急に!?」 「おかしくなったのか!?ボ、ボクの爆弾で」 「それはやめろ!」 突然咆哮が如く叫びだしたマキナにそれぞれが驚く。ただ一人、レムだけは笑顔を浮かべていた。 (弱気になってどうする!オレは0組なんだ!) 「ねぇ、マキナ」 「なんだ、レム?」 少し前とは打って変わり生き生きとしたマキナの隣まで行き、その手を取ったレムがマキナの顔を覗き込んでたった一言言った。 「頑張ろうね!」 彼の傍で支えていくと。彼と共に生きると。 そう決めたから、私はマキナについていくよ。どんなマキナでも向き合って、見守って、隣に立つから。 短い言葉と感じる温もり。そこに込められた想い。 マキナは確かに受け取って。 部屋の中でくすくすとにやにやと笑うクラスメイト達を見渡して。 (見てろよ、オレ達の作る未来を!) 強く心の中で叫んだ。 描く理想図に、どこかで世界を眺める彼等を含めながら。 (どうでもいいんだけど、お二人さん) (その、あたしらが少し気まずいっていうか……) (ボク達を無視してイチャイチャするなー!) (ふっ、仲良きことはいいのだがな) (時と場所と場合を考えるべきではないかと) ←→ 戻る ×
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