※ED後捏造、一年後設定。流れ的には挽歌と同じ。
※おまけにパロディ。某08小隊ラストリゾートパロです。
※パロと言っても30%くらいの非忠実的パロです。




その日マキナとレムは少し離れた地方の街から帰還する途中だった。広々とした草原をチョコボで駆ける。距離があるとは言えこの速さならば日が暮れるまでには帰れるはずだった。
しかし、それを阻む障害が一つ。

「くそっ、霧が深いな……」

辺りを白く包み込む霧がマキナ達の邪魔をしていた。その深さは二人がはぐれないようにするので精一杯で、向かうべき方角が分からなくなる。
少し経てば和らぐかと言えばそんなことはなく、逆にどんどん濃くなっていくばかりである。
チョコボの速度を落とし、隣のレムへと相談する。

「レム、どうしようか。下手に動くと返って危険かもしれない」
「うん、私もそう思う。周りの状況を把握出来ないのに進んで何かあったら大変だし」
「とりあえず、今はここで止まっておこう」

そう言って二人はその場に立ち止まった。意識を周囲へ向ける。この霧に乗じて魔物が襲い掛かってくる可能性はある。クリスタルが無くなり魔法を使えない今、以前のようには戦えない。魔物も何かしら影響を受けていると報告があったが、それでも人以上の力を持って襲ってくるのは変わらない。
この静かな白い空間で、どれくらい時が経っただろうか。
異変は突然起こった。
チョコボ達がいきなり暴れ出したのだ。

「ん……?っ、うわっ!」
「きゃっ!」

甲高く鳴きながら乗っていた二人を振り落とし、二匹は霧の中へ消えて行った。マキナとレムは咄嗟に受け身を取り無事だったものの、驚きと動揺を隠せない。

「一体なんだ!?」

魔物に驚いて逃げ出すことはあるが、今は何も無かったはずだ。不可解な現象にマキナもレムも困惑する。

「マキナ、この霧やっぱり……」

変だよ。
レムがそう言おうとする前に霧の様子が変わった。
あれだけの濃霧が薄まってきている。完全に、とでは無いが、先程に比べると遥かに薄く、周りの景色がぼんやりと浮かんでくる。

「!レム、あそこ!」

マキナが指差した方に街のシルエットが見えた。

「ひとまずあの街へ行こう。何か話が聞けるかもしれない」

そう言って歩き出すマキナの後ろをレムは追いかけた。


その街は、既に街として機能はしていなかった。
人気はなく、建物は所々崩壊していて、植物はカサカサの葉を散らしている。

「まさかこの地方にこんな街があるとは知らなかった」

マキナが街を見回して呟いた。この街はマキナもレムも知らない。フィニスの刻の後、朱雀領土内の街を全て確認したはずだが、ここだけ忘れてしまったのだろうか。

「まあ、霧が収まるまで休ませてもらおう。どこか一息つけそうな場所は……」
「あの辺とかどうかな?」

街を観察しながらあれこれ話す二人。見当を付けた場所へ歩き出そうとして―――しなかった。

「レム」
「うん、気付いてる。何か来るよ」

近付く気配に自分達の武器へ手をかけ腰を低くし構える。
聞こえてきた足音で相手は人間だと見当をつけた。無人かと思っていたが、どこかに隠れていたのだろう。
息を潜め、相手の姿を待っていると、彼は現れた。

「な……子供……!?」

大体10歳くらいだろうか。一人の少年だった。しかし、この街に住んでいるからだろう、着衣はボロボロで少年自身もあまり健康的とは言えない身体だった。

「お兄ちゃん達、誰?」
「ああ、えっと、オレはマキナ」
「私はレムだよ」
「マキナ……レム……」

戸惑うマキナとレムが名乗ると、教えられた名前を復唱したかと思えば、マキナ達とは反対方向へと向いて叫びだした。

「みんなー、大丈夫だぞー!」

その声に応えて更に奥からぞろぞろと子供達が出てきた。
パッと見たところ似通う特徴が無いあたり家族と言うわけではないだろう。戦争孤児が集まって暮らしている、と言ったところか。

「驚かせてごめんね。私達霧のせいで困ってて。少しでいいから休ませてもらえないかな?」
「いいよ」
「ありがとう、助かるよ」

さっきの少年が答えた。彼がリーダー格なのだろう。
こっち、と案内してくれる子供達について歩いて行く。

「もう、魔物が入り込んだって言ったの誰よ!」
「だ、だってよ、そう思うじゃん!」
「大丈夫、その時はあたしが守ってあげるから」
「かっこいいー!それに比べて……」
「うっせー!」
「……お前ら騒がしいぞ。僕が怒る前にやめろ」

わいわいと騒ぐ彼等を見て、緊張がほぐれる。

「仲良いんだな」

そう呟くと、傍にいた無口な少女がこくりと頷いた。
まるで兄弟みたいだ。
そう思った瞬間、何故か頭が痛くなった。

「っ……!?」

そんなに激しいものでは無いが、寝不足なんかで起こる頭痛とは違う。なにかを訴えるような痛みだ。

「俺達親がいないんだ。それどころか、記憶も曖昧なんだ」
「でも、この街に連れて来られて、みんなに会って……最初はお互いギクシャクしたけど、今はもう仲間さ!」

『誰に……?』

その質問は言葉にならなかった。頭が痛い。
彼等の境遇はあまりに似ている。そう言えば人数は12人。偶然だろうか。

「マキナ、大丈夫……?」

マキナの体調の悪さに気付いたのだろう。レムが心配そうに尋ねてきた。

「あ、ああ、ちょっと頭痛がしただけさ」
「頭痛?」

不安そうなレムを大丈夫大丈夫と諭す。
それより、今のマキナには尋ねたいことがあった。

「あのさ、君達の名前、聞いてもいいかい?」

聞いてから少し前の彼等の話を思い出し、名前が無いかもしれない可能性に行き当たったが、「いいよ」と返事が来たので安心した。

「俺はね」

先頭を歩いていたリーダー格の少年がくるりとマキナに向き直り、答えた。

「俺は、エースって言うんだ」

ズキン。
痛みが走る。
隣でレムが息を呑むのが聞こえた。
いや、偶然同じ名前なのかもしれない。自分に言い聞かせる。
しかしそれは無意味だった。

「あたしはデュース」
「僕はトレイ」
「私はケイト」
「……シンク……」

ズキン。
子供達が次々に名乗って行く。その名前は全てかつてのクラスメートのものだった。一人二人ならまだしも、全員が同じ名前なんて――――

「うそ……」

レムが信じられないと震えた声を出した。
外見も性格も違うけれど彼等と同じ名前を持つ子供達が二人を見つめる。
早まる鼓動と同じ速度で走る頭痛。

「君達は、一体……!?」

子供達はマキナの問いには答えない。
代わりに一つの真実を告げた。

「俺達をここに連れて来て名前をくれたのは、アレシアって人だよ」

「―――っ、うああああっ!」

繋がった。
けれど、それと同時に襲ってきた痛みにマキナは絶叫し、意識を失った。

「マキナ!マキナ!しっかりして、マキナ!」

必死なレムの声がうっすら聞こえる。
ブラックアウトした視界に、朱いマントをつけた彼等が見えた。



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