とんとんっと気軽に肩を叩かれ振り向いたエイトに「やっほー!」と声を掛けカルラは彼の隣に席に座った。いきなりのことにぽかんとしてしまったが、気を取り直して頼んでいたジュースに口をつけた。

「おじさん、あたしもフルーツジュースで!」
「…で、なんだ?」
「え、なにが?」
「………」

いきなり近付いて来たからには目的があるだろうから問い掛けた自分の行動は間違ってないはず。何故か噛み合わない会話にエイトが溜め息を溢すと、カルラが「それそれ!」と大きな声をあげた。

「エイトって結構悩み抱えてそうじゃん?今だってカウンターで一人で飲んでてさー。だからあたしが相談に乗ってあげようと思って!」
「いや、俺は…」
「遠慮はいらないから任せなさいって!」

意気込むカルラをどうしようかと考えを巡らせていると彼女が頼んだ飲み物が届いた。それを一口飲むと、先になにか閃いたようで、拳をずいっとエイトの目の前に突き出してきた。意図が分からず反応出来ないでいるとカルラは首を傾げた。

「なんなんだ一体…」

多少呆れてエイトは言う。

「ほら、格闘家って拳が全てを語るって言うからさぁ」

「あれ、違った?」と笑う彼女にかける言葉が見つからず、残っていた飲み物を飲み干す。
ふぅ、と一息ついて、同じくジュースを飲んでいたカルラに視線を戻し、今度はエイトから彼女に問い掛けた。

「そもそも、なんで俺に悩みがあるなんて思ったんだ?」
「勘よ」
「…は?」

即答した挙げ句に根拠の無い理由を言われてエイトの思考は止まってしまった。

「女の勘はアカシャの書をも超えるのよ!」

ウインク付きで自信満々に言う彼女が何故かとても眩しかった。


その後もしばらくやり取りをし、リフレッシュルームが落ち着きを取り戻してきたのに気付いたカルラが時計を見て慌てた声を挙げたところで打ち切られた。

「ああ!もうこんな時間じゃない!あたし次授業あるんだよね、またね!」

残っていたジュースを勢い良く飲み干し、カルラは席を立ち去って行った。

「…俺も授業あるんだけどな」

それを苦笑しながら見送ったエイトも空のグラスから手を離し、席を立った。
元々次の授業までの空き時間があったのでリフレに立ち寄り、それから闘技場でも行って身体を動かす予定だったのだ。始終彼女のペースに飲まれあっという間に過ぎ去った時間は予定していたものと比べると遥かに無駄だったが、

(たまにはこういうのも悪くない)

不思議とエイトは充実していた。




(あっ、ちゃんとあたしのイメージ上げといてね!)
(最初からそれが狙いか)
(あははー。それじゃヨロシク!)
(やれやれ…)




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