本来ならば人々が普通に毎日を過ごすその街並みも、今はただ戦場と化していた。建物は瓦礫となり、辺りからは煙が上がっている。耳を澄まさずとも聞こえてくる戦いの音。鼻をつくのは戦いの匂い。 この街では現在朱雀と白虎が交戦中であった。 勿論候補生達も惜しみなく投入され、0組からも数人この戦いに参戦している。 その一人であるキングは自分の状況を冷静に分析していた。 (囲まれた、か…) そこまで大きな戦力も無く、他の候補生達もいるという話だったので0組は分かれてそれぞれ行動することにしていた。といっても、ナインがさっさと交戦エリアへ走り去ってしまい、残されたクイーンと二人で決めた妥協案ではあったが。 3人1組が基本だが、今の自分達の実力ならば特に心配はいらない、後で落ち合おう。 果たしてそれは効果的で、朱の魔人の評価を更に上げることとなった。 キングも予定していた広場を沈黙させ、そろそろ合流するか、と立ち去ろうとした矢先に皇国兵が現れ、今に至る。大方、全滅する前に援軍でも呼んでいたのだろう。 ぐるりとキングを四方八方から囲んでいる皇国兵達は皆武器を構えている。ざっと数えて12人。前後左右各3人の隊列で、鋼機と呼ばれる機体は見当たらない。 手に拳銃は持っているものの構えずただ立っているキングに、リーダー格の男が声を掛けてきた。 「ふん、さすがに恐れをなしたか」 自分達が優位である状況に満足しているようで、皇国兵達からは僅かながら余裕を感じ、キングは鼻で笑ってしまった。 「なにがおかしい。それとも気でも狂ったか。まあ、この状況じゃ仕方ないだろうな」 「ああ、仕方ない」 キングが返事をしてきたのに少し驚いたようだった。 確かに、普通の朱雀兵や候補生ならこの状況は厳しいかもしれない。 けれど、奴等が相手しているのは俺だ。 「チャンスを与えたのにそれを活かせず、いつまでも突っ立ってるだけの能無し共を見ていれば誰だって笑う」 「き、貴様…!」 この程度で勝った気になり、いつまでも命を奪わない奴等に誰が恐怖を感じるものか。 わなわなと震えヘルメットで見えないがおそらく顔を真っ赤にしているだろう皇国兵から興味を無くし、静かに低く呟いた。 「…もういい」 途端キングから魔力が放たれる。それは彼の前に大きな壁を作った。 突然の行動に戸惑い咄嗟に動けないでいる皇国兵達を尻目に、キングは素早く壁を背にし、後ろにいた3人に向けて発砲する。ただの威嚇で狙いは定めていないそれを避ける為に彼等は逃げ、隊列が簡単に崩れた。 「何をしている、撃て!」 先程喋っていた男がワンテンポ遅れて状況を理解し、指示を飛ばす。それを聞き他の者達もようやく反応し、構えてた銃で撃ち始める。 だが勿論それは遅く、既にキングは先程陣形を崩した方向へ走り出しており、左右からの銃弾は彼に当たることはなかった。唯一直線的で軸の合っているキングの走り出した方向と逆側からの銃撃も、最初に作られたウォールに防がれ、届く事はなかった。 囲いを脱し、一番近くにいた皇国兵に発砲。拳銃であるが故に一発一発の威力は低いため数発当てる必要がある。二丁を効率良く使い、何発も銃弾を素早く撃ちこむ。続けてもう一人。 相手は人数いる上に、向こうも飛び道具持ち。一カ所にいつまでもとどまってるなど愚を犯さず、キングはすぐに横へ飛ぶ。先程まで立っていた所にミサイルが飛んできて、爆発した。すかさず撃ってきた相手を探す。…二時の方向。確認し、狙いを定め、少しタイミングをずらし、一発。それは相手が再び撃とうとしていた丁度瞬間に届き、一撃で命を奪った。 「でりゃああ!」 「………」 いつの間にかキングの側まで駆け寄り持っていた銃で殴りかかってきた皇国兵にも冷静に対処し、軽く避け、一発。同じく後ろから、横から、と来ていた皇国兵達も同じ道を辿った。 (これで六人) 頭の中で数を数えながら今もまた一人蹴り飛ばす。倒れ込んだ相手に弾丸をたたき込んだところで、今までと早さの違う銃弾がキングをかすった。 「強化兵か…」 強化剤を用い、一時的に身体能力を上げる。皇国の戦術の一つで、なかなか厄介な相手ではある。だが、所詮はその程度なのだ。 強化兵の一人に向かって撃てば相手は今までとは違い、見事に避けた。が、キングはそれを読んでいて、その隙に3つの弾倉を投げつけた。それを拳銃で撃てば弾倉は爆発し、相手は素直に巻き込まれた。 「なにを馬鹿丁寧に相手している!数でねじ伏せろ!」 それを聞いてキングは口元を緩めた。 そう、遠くから撃っていても当たらないのだから、その戦法は諦め、数を生かし距離を詰め一気に潰しにかかっていれば彼等に勝機はあっただろう。 けれど気付くのが遅すぎた。残り四人。 その内の三人、強化剤を使用済みの彼等が指示通りまとめて殴りかかってきた。 「…甘い」 再び放たれた魔力。今度はキングを中心に氷魔法が爆発するかのように展開された。 それにより、襲いかかってきていた三人の強化兵は綺麗に凍り付いた。あまり得意ではないとは言え威力は十分。 静かになった広場で、キングは残った一人へと近づいていく。散々指示を飛ばしていたリーダー格の男だ。男は逃げ腰になりながらも武器を下ろさず「く、来るな!」と震えた声で威嚇してきた。 「化け物め…!」 憎しみと恐怖の込められた一言。 キングは右手の拳銃を男に向けた。 「その化け物にこの程度で勝とうなんて、とんだ甘ちゃんだったな」 「くそおおお!」 男は怒りに任せて引き金を引いた。 が、それよりも早くキングの放った銃弾が男の命を奪った。 今度こそ静寂を取り戻した広場で、キングは弾を詰め直していた。 唐突にCOMMがなる。 『クイーンです。こちらは終わりました。そちらは?』 「もう片付いた。いつでも合流出来る」 『分かりました。では予定通り中央で。ナインは私が回収しておきました』 『おい、クイーン、コラァ!俺をガキ扱いするんじゃねぇ!』 『誰のせいでこうなったと思ってるんですか!』 『いってぇ!耳引っ張るなよコラァ!』 通信はそこで切れた。 二人と合流するために移動をしなくては。 その前に。 広場に転がる死体を確認する。 12人。12人もいて、俺にほとんど傷をつけれなかったのか、こいつらは。 「…相手が悪かったな」 いつものようにファントマを回収し用を済ませたキングは、武器をしまい立ち去った。 (やはり一人で戦うと負担が大きいですね…) (へっ、俺は一人でも余裕だったけどな!) (もう!この事はしっかり隊長に報告しますからね!) (げっ…!で、でも、結果オーライってやつだろ!な!) (ああ、たまには良いな) (なんかお前、ちょっとすっきりした顔してんな…) ←→ 戻る |