「どうした?」とクラサメが尋ねた。
クラサメとカヅサとエミナ、今では共に過ごすことも多く、こうして三人で歩くことだって珍しくはない。
そこで、いきなりエミナが笑い出した。腹を抱えて笑うのでは無く、ふふっ、と笑いが零れた感じではあったが、なんとなく気になったのだ。

「ん、今年もまた始まったなあって思ってね」

この時期、穏やかな気候が特長のルブルム地方も流石に肌寒く感じる気温である。道端にいる候補生達も普段より数は少なく、植物の緑も少しだけ寂しく見える。

「苦労して、頑張って、候補生になれて。私ね、今こうやって生きているのが楽しくて嬉しいんだ」

話をする為に立ち止まれば冷たい風が通り過ぎる。カヅサがそれに震えたのでクラサメが「大丈夫か?」と視線を向ければ彼は「平気平気」と頷いた。

「こうしてクラスの皆と会えて…クラサメ君とカヅサ君に会えて良かったぁ、って本当に思ってるんだ」
「僕だって君達にそれくらいの気持ちは持ってるけど」
「うん。だからね」

エミナが一息ついて言った。

「また皆で新しい年を無事に迎えられたって思ったらつい笑っちゃったの」

厳しい試験を乗り越え候補生になれたとしても、途中でいなくなる者はいる。理由はそれぞれ多種多様。実力がどうしても足りず辞める者もいれば、訓練の為にと戦場へ出てそのまま戻らなかった者だっている。アギト候補生としては仕方ないと納得出来ても、エミナ個人としてはやはり寂しいと感じるものだった。

「なーんて、二人はそうは思わないかな?」

話を聞いたままのクラサメとカヅサにエミナが微笑めば、釣られたように二人の表情も緩んだ。

「そうだな、俺も嬉しく思う」
「僕もね」
「ふふっ、ありがとう」

このありがとうは、話に乗ってくれたことに対してと、共感してくれたことに対して。

「エミナ君の考え方はいつも面白いね」
「そうかな。カヅサ君の考えも独特で面白いよ?」
「カヅサは少し独特過ぎる」
「あ、ひどい、クラサメ君」

なんて他愛無い話を続け、落ち着いた頃にエミナは二人の手を取った。

「二人とも、今年もよろしくね!」
「ああ、良い一年にしよう」
「君達といれば楽しい年になりそうだよ」

寒空の下交わした新年の挨拶は、今年一年へのモチベーションを上げてくれるには十分で。
三人は笑い合いながら今年を誓った。




(そろそろ移動するか)
(風邪引いたら困るもんね)
(その時は僕が面倒見てあげるよ)
(絶対引かない)
(絶対引かないよ)
(遠慮なんてしなくていいのに)



戻る



- ナノ -