休み時間、任務も無く魔導院の廊下を歩いていたナギは興味深いものを見つけた。

「おー?」

その視線の先には数人の候補生に囲まれているセブンの姿があった。

「ぜひ!ぜひともお願いします!」
「う…だから私なんかより…」

どうやらまた何か頼まれているらしい。面倒見の良い彼女が他の組の候補生からも慕われているのは知っていたが、実際見てみるとなんだか面白い。見事なまでに熱烈な要請に気圧されている。
これはもうすぐ首を縦に振っちゃうんじゃないかなぁ。

「…はぁ、分かったよ…。細かいことは後でな」
「ありがとうございます!」
「とても助かります!」

ほらね。
ナギの簡単な予想通りセブンは彼等の頼み事を了承し、一言二言話した後別れた。そのまま一連の流れを見ていたナギの元まで来て溜め息をこぼす。

「見ていたなら助けてくれてもいいじゃないか」
「やだなぁ、あいつらが頼りたいのは俺じゃないんだから」
「…頼ってくれるのは嬉しいが、もっと適任がいるだろうに…」

これでも前に比べて粘るようにはなったらしい。結果はほとんど変わってはいないのだが。

「ま、なんでも引き受けてぶっ倒れないようにな」

ナギとしては茶化して言ったつもりだったが、それを聞いたセブンは何故か神妙な面持ちで「ああ…」とだけ呟いた。
思ってもみなかった反応に気になってどうしたのかと問いかけてみれば、セブンは少し困った顔でおずおずと答えた。

「…ずっと言うか言わないか考えていたんだが…」

けれど、目線は逸らさずに。

「お前も、あまり無理するなよ。ツラいなら私の前だけでも、無理して振る舞わなくていい」

ドクンと心臓が跳ねた。
多分表情が止まったのは一瞬だった、と思う。それでも、きっと鋭い彼女は見逃してはいないだろう。
すぐにいつもの自分を取り戻したナギはやはりいつものように軽い調子で笑ってみせた。
それを見たセブンは苦笑するしかない。

「身近にお前に似た奴がいるんだ」

浮かんだのはいつもへらへらと笑っている0組の一人。なるほど。確かに彼と似ているのかもしれない。
表の正式な任務とは違い、陰鬱な内容のものばかり回ってくるせいか、9組は逆に明るく振る舞う者が多かった。ナギもその一人で、元々の性格もあるが、任務外では出来るだけ気さくに生きることにしていた。勿論ツラい時だってあるが、それでもいつもと変わらずに。彼女の指摘は正しい。これは自分を守る為。自分の、候補生としての、人としての意識を。

こちらの返事を待っているセブンから逃げる訳にもいかず、ナギはその場で降参とばかりに両手を小さく上げた。

「りょーかい、でも俺は大丈夫。心配すんな」

そう笑ったナギが脆く見えて、言葉が素直に入ってこない。セブンは更に言いかけたが、それより先にナギが「ストーップ!」と人差し指をビシっと指しセブンを止めた。

「だーかーらー、大丈夫だって!俺はそこまでヤワじゃない。それに…」
「それに…?」

続く言葉を待つセブンに一拍置いて語る。
少し落ち着いた、真面目な顔で。

「お前みたいに心配してくれる奴が一人でもいれば頑張れるもんさ」

なんだか柄に合わないことを言ったもんだからそのまま「俺頑張り屋だから」とちゃらけて見せれば、セブンは「なんだそれは」と笑った。

「お前は強いな」

笑いながら言われたそれにはナギは「当然!」と答えた。

「なんたって俺は、皆のアイドル、ナギだからな!」

自称アイドルのVサインはなんとなくいつもより綺麗に見えた。




(あ、さっきみたいな話はあんましないでくれよ。自信無くなっちまう)
(ああ。他の奴は気付いていないみたいだし、私からは何も言わないでおくさ)
(出来ればセブンも忘れといてくれると嬉しいんだけどなー…)
(一人くらい心配してくれる人が欲しいんだろう?)
(セブンお姉さまって意外と意地悪い!)




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