10 捕食する者とされる者
「いくぜ! 残虐バトルロイヤル、カウントダウン!!」
ずらりと立ち並ぶ騎馬たち。多くが視線を送るのは1000万の文字。
「3!」
しん、と空気が静まる。
「2!」
ざり、と地面を踏み込む。
「1!」
ごくり、と生唾を飲み込む。
「START!!!!」
そして一斉に走り出す。
皆が狙うは1000万ただ一つ。最早それは「争奪戦」に近い。
久治木たちはと言うと、1000万の元へ走ることはせず、ただじっと周りの騎馬を見極めていた。
何故彼女たちが走らないのか。その理由は騎馬戦が始まる直前の会話にあった。
『人使、開始直後は1000万を狙わないようにしよう』
『理由はなんとなく分かるけど……他に策でもあるのか?』
『もちろん! 1000万に夢中な騎馬の後ろに回ってーーーー
「それを、奪う!!」
心操チーム、80ポイント獲得。
久治木の作戦は確かに理に適っていた。勝負の序盤は大切だと言われるが、だからこそ冷静に物事を見つめ、対処せねばならない。
例えば、先ほどの障害物競走のように。
熱くなる者が多いからこそ、一歩引いた所で行動する。それが久治木が得意とする戦術だった。
次々にポイントを奪っていく心操と久治木たちだったが、ある異変に気がつく。
ーー0ポイントの騎馬が増えて……増えすぎてる!
ふと、モニターを見た久治木はそこではっとするがもう遅い。
「人使!広いところに出ーー「もう遅いよ」
びり、とマジックテープが剥がれる音がした。
計5本のハチマキを奪った金髪の男が、薄く笑みを浮かべながら心操の後ろを過ぎる。
「普通科も、意外と単純な奴が多いんだね」
「ヒーロー科と同じ手なんか使っちゃってさあ?しかも、捨て身の爆破とか……脳筋としか思えないな」
冷めた目で久治木を見下し、そう言い残して。
「しまった……!久治木、わるーー「人使。追いかけるよ」
ギラついた瞳。紅潮した頬。にいっと上がる口角。
久治木がソレを見せたのは選手宣誓の直前以来だった。捕食者の顔。
本人は気付いていないだろうが、中々恐怖心を煽る表情をしている。負けず嫌いだから、と理由付けすればそれまでなのだが。
心操はそんな久治木に意見することもできず、ただ「分かった」と返事をする。
残り時間の半分を切ったというプレゼントマイクのアナウンスも、久治木には到底聞こえない様子だった。