11 形勢逆転





「へえ、追いかけて来ちゃったんだ?」
「いいから返して」

緊張が高まる二組の騎馬。双方ある程度の距離を保ったまま、お互いの様子を伺って30秒は経った。
久治木の個性であれば、騎馬の足止めなど容易いのに実行しないのには訳があった。

それは、相手の個性が明らかになっていないから。
例えば、相手が近距離攻撃を主とする個性なら、触れることで体力を奪う久治木の相性は良い。一方で、長距離攻撃を主とする個性ならーー相手に触れられない久治木にとって相性は最悪である。
また、心操の個性「洗脳」は初見殺しに近いものがある。相手の個性が判明しないまま使い、不発した場合、そのリスクは大きい。

距離を置き、様子を伺っていた久治木だが、埒が明かないと判断したようで「人使、進むよ」と心操に声を掛ける。
しかし、前方のーー煽り上手な金髪の騎馬よりも更に向こうから、猛スピードで此方に走ってくる一組の騎馬に目が止まる。

ーーあれは、宣誓のときの!

「死ねぇぇぇっっ!!!!!」

しかし。

「ははっ……すごい! 良い個性だね!」

突っ込んできた騎手ーー爆豪勝己の攻撃は避けられてしまい、彼は爆撃を浴びせられてしまう。
そして煽り上手な金髪ーー後に物間寧人と知るーーは、その間に赤髪の生徒の髪に触れる。
一部始終を見ていた久治木はある可能性を見出す。

「人使! あいつには絶対触られないでね! ……突っ込むよ!!」

久治木は勢いよく、物間の騎馬に向かって駆け出す。 どうやら物間は爆豪の相手で手一杯らしく、幸いにも迫り来る久治木の存在には気付いていない。

「人使! ちょっと右手外すよ!」

久治木はそう告げてから物間の騎馬に右手を伸ばし、騎馬の先頭に立つ生徒に触れる。
ーー少しだけ……騎馬を崩さない程度に……!!
そして、個性を発動させる。

「うぐぅっ」
「円場?!」

「人使!」
「分かって、る!」

マジックテープが剥がれる音を聞くと、久治木はにいっと口角を上げる。
視線の先にはーー顔を歪めた物間の姿が。
彼らは体制を立て直した所らしいが、前騎馬の生徒は肩で息をしている。
それもその筈。何と言ったって、久治木が個性を使い、前騎馬の生徒の体力を奪ったのだから。それも、「崩し目的の攻撃は禁止」という規則に反さないよう加減して。おかげで久治木は体力を回復し、ピンピンしている。

「よし、逃げるよ!」
「く、くそぉっ……!」

「次からは挑発する相手を間違えないことだね。 ……まあ、後から痛いほど分かると思うけど!それじゃあね!」

少し奥には別の騎馬が此方側に近付いて来るのも見える。物間の騎馬の動きは鈍り、対して爆豪の怒りは未だに収まってない。そして、久治木らの騎馬は少ないとは言えポイントを獲得した。
それならもう、此処に留まる理由などない。

背後で罵声や怒声が飛び交う中、久治木は一人ご機嫌そうに笑顔を浮かべていた。
残り時間、1分。



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