08 再起





「久治木!!!!」

前方からかけられた声に久治木ははっとして顔を上げる。そこには、足を止めて此方を向く級友、心操人使の姿が。
「人使、」と自然と溢れた声は、彼の声によって掻き消される。

「勝ってヒーロー科行くんだろ!やれよ!!」

普段、声を荒げるなんてこと絶対しない彼が今。自分のために、走るのも止めて大声でそう呼びかける。心臓が、大きく脈打つのが分かる。勝ってヒーロー科に行く。それが2人の目標であり、目的であった。

ーーそうだ。やるしかないんだ。

3、4歩下がってから、久治木は小さく深呼吸した。そして久治木は助走をつけ、意を決して地雷の山に飛び込んだ。
瞬間。桃色の噴煙と、激しい痛みに襲われる。そして、久治木はそのまま吹き飛ばされてーー

「後方でまたまた大爆発ー?! どうなってんだぁぁ?!?!」
「しかもあれはーー……普通科だぁぁっ?!?!」

久治木は着地のことを特に考えていなかった。先ほどのA組の生徒のように、何か衝撃を和らげるものがあれば……と思うが、それも久治木には関係ない。
何せ、久治木の個性は「治癒」、正確には「体力と治癒力の活性化」
痛みに耐えさえすれば、あとは回復させれば良いだけの話なのだ。

「っぐ……!!」

鈍い音と共に転がりながら不恰好な着地をした久治木は余りの痛みに蹲る。しかし、瞬時に個性を使用しーー体力を治癒力に変換してーー、再び立ち上がる。

「君!大丈夫か!!今すぐリカバリーガールの所にーー「うるさい!平気だから!!」

後方からメガネをかけた生徒が走りながら声をかけてくる。優先なのはレースだが、一応声はかけてくれるみたいだ。しかしそんな声も振り切り、久治木は再び走り出す。全身にのし掛かる気怠さなど、今は気に留めてる場合ではない。

久治木は無我夢中に走った。途中、メガネの生徒に「邪魔!!」と暴言を吐いたことも、カラス頭の生徒に「来ないで!!」と理不尽な事を叫んだことも、その時ばかりは全て忘れていた。

そして結果はーー

「っはあ、はあ、7位……!」

計11クラスある内の7位という中々の好記録。至らない点は幾つもあったが、結果だけを見れば上々だろう。
額に流れる汗をジャージの袖で拭っていると、背後から近づく足音と「久治木」と呼びかけられる声。

「人使!」
「お疲れ。最後、すごかったな」
「まあ、同じこと考えてた子が先に使っちゃったんだけどね」

たはは、と苦笑しながら久治木は頬を掻く。
思い返せば運が良かっただけだった。第一関門では襲いかかる仮装ヴィランから他生徒が守ってくれ、最終関門ではたまたま他生徒が取り出した地雷が使えた。そして、心操の言葉が無ければ、久治木はちだ立ち尽くしたままになっていた可能性だってあった。

「最後……私があの策を実行出来たのは人使のおかげだよ。本当にありがとう」
「まあ……うん」

何処か気恥ずかしい様子で視線を逸らし、頭を掻く心操に久治木はへらりと笑ってみせた。すると、心操はゆっくりと拳を此方に突き出してくる。
きょとんとした顔の久治木に、心操は深い溜息をついてから視線を彼女の方に戻す。

「次も勝つぞってこと」
「! もちろん!!」

意味を理解した久治木は拳を作って、それを心操の拳に当てた。とす、と控えめな、けれど心地の良い音が2人の間で鳴る。
ミッドナイトが次の種目を告げるまで、残り5分を切った頃だった。



|
back
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -