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この半年間、彼が朝起きて最初に向かうのは城の物置と決まっていたが、あいにく今日はそうではない。彼が向かったのは、立ち入ることなど無窮恒久あり得まいと思っていた、クウェージアの王子の部屋であった。
若干の緊張を抱きつつも、足取りはいつもと変わらずになぜか軽やかである。後ろに彼の家来、というわけではないのだが家来のように二人の兵士を従えて、クウェージアの宮廷拷問師ジヴェーダは僅かな笑みを湛えた。

「俺が扉を開けたら、お前ら二人は王子を取り押さえろ。陛下の許可は取ってある。それでどこか――なんならエメザレがいた物置にでも閉じ込めておけ」

そうジヴェーダが言うと、二人の兵士はお互いの顔を見詰め合って、困った、というような顔をした。

「冗談だ。陛下の所へ連れて行け」

一国の王子に、さすがにそこまで手荒にはできない。
すぐ考えればわかることだろうに。
彼は嫌味たらしく鼻で笑うと、白く冷たい扉に手を掛けた。

「失礼致しますよ」

扉を叩きはしなかったが、一応の礼儀として声をかけた。しかし返答はない。外は薄暗い早朝である。十歳の子供が起きるのはまだ早すぎる時間帯だ。
ジヴェーダは静かに扉を押した。

王子が住む美しいはずの白い部屋は、あちこちが血に染まり、血液の生臭さが部屋中に蔓延している。一晩置いて赤黒く変色した血液はどぶ水のように汚らしい。
かつて白かったのが信じられないほどに醜い血の色に染まったベッドの横には、疲れて眠ってしまったらしい小さな王子が、惨劇の舞台とは不釣合いな安らかな顔で寝息を立てている。
そしてそのベッドの上には黒い髪のエメザレが血塗れで横たわっている。エメザレはぼんやりと目を開けたまま動かないので、最初死んでいるのだと思ったのだが、ふいにエメザレは目を瞬いた。


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