社内恋愛2
2013/11/19 00:32

「最近調子よさそうじゃねえか、修吾」

社内の自動販売機コーナーで声をかけられ、振り返る。
川田の少し後ろに、見慣れた長身の男が立っていた。
購入した缶コーヒーを手にとり、川田は振り返る。

「おー溝山。お前は?」

身長170後半はある自分でも見上げる程の大男、溝山だった。
溝山は以前は川田の下で現場で大工として働いていた男だ。
近隣住民から騒音でのクレームが来た際、普段のぶっきらぼうで尊大な態度からは一変、慇懃無礼且つ隙を見せない圧倒的な弁舌で見事に納めてしまったりと、見事な手腕を見せる事が多かった。

溝山は現場の部下としても手放したくないくらいに重宝していたが、これはこんなところにいたのでは勿体ないと川田が社にかけあい、今では営業部でその辣腕を振るっている。

溝山は後輩であるが、川田を呼び捨てにし、タメ口で話す。
しかし川田はそれを別に嫌だとは思わなかった。
そもそも大して歳も違わないし、溝山に言われても別に厭味に感じないからだ。

「まあなー。お前も最近凄いじゃないか、受注件数3ヶ月連続No.1だろ。皆川さんから聞いたよ」

「今までの営業が下手すぎんだろ。俺なんか普通だろ、普通」

「ははは。お前って普段俺様なのに、妙なところで謙虚だよな。……いや、俺も鼻が高いよ。俺が推して営業に転向した溝山が、今じゃ営業部No.1の成績だし。頑張ってくれてありがとうな」

全く隠しもせず喜んでみせた川田に、溝山も軽く笑う程度だが笑顔を見せた。
川田の横に並び、同じ銘柄のコーヒーのボタンを押す。
機械が稼動する音に続き、缶コーヒーが出てくる落下音。

「……なあ修吾。」

「ん?」

「俺がお祝いとか欲しいっつったら笑うか?」

「え?」

唐突な溝山の言葉に、川田はきょとんとしてしまう。
見上げると、照れ隠しか溝山もバツが悪そうに視線を逸らしていた。
精悍な容姿の溝山に似合わない仕種に、思わず噴き出してしまう。
すかさず溝山が、不機嫌そうに睨み下ろしてきた。

「んだてめえ」

「いや、悪い悪い、お前可愛いな」

「ああ?」

「お祝いしよう、溝山。そうだな、営業部一位を三ヶ月もキープするだけじゃない、異例の早さでの主任昇格もめでたいし、いいぞ、何でも」

素直に後輩の功績に破顔し答えた川田に、溝山は溜飲を下げたらしい。
表情から剣を無くすと、「へえ」と呟く。

「何でもか」

「ああ」答える川田。

「じゃあ久々に二人で飲みに行きてえ。まずはそれだな」

「え、そんなんでいいのか?」

「お前に金目のモノとか要求したって仕方ねえだろが」

「じゃあ明日日曜だし、今夜にするか」

「だな」

お祝いに二人で飲みに行きたいなど、随分可愛いお願いだ。
まだ自分を慕ってくれている溝山に嬉しくなってしまう。

じゃあ後で、と挨拶を交わしその場で別れた川田には、気付く事が出来なかった。

溝山が、川田から顔を背けた瞬間、イヤな笑い方をしたことを。


 



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