一生のお願い〜闇マリク編〜



「おい……
『一生のお願い』って何だ……?
どういう意味だぁ……?」

「えっ……? あぁ……
『一生に一度のお願いだから、○○して〜』って、何かを必死にお願いをする感じ……かな?」

「必死だねぇ……」

「まあ、一生のお願い! だからね……」

「ふん……」


一生のお願い、かぁ……

子供の頃に、そうやって、何度も
「一生のお願い!!」という頼み方をいろんな人にしたような気がする。


でも――――

今の私が、今したい、一生のお願いは――

たった一つの、切なる願い。

それも、自分勝手な類の、どうしようもない――


ぎゅ。

思わず、マリクのシャツの端を握る。


「あぁ……?」

「…………」


お願いだから。お願いだから。

その先に紡がれるのは、心の中で言葉にする事も恐ろしく思える、最悪の可能性と、切なる願い――


「ククッ……、どうした……そんなに神妙な顔をして…
甘えたいのかぁ……?

それとも――、欲求不満なのかねぇ……?
ククク……」

「っ、ちが……!! ばか!!!」

マリクのからかうような言葉に、思わず握ったシャツを離す。


「なんだ……?
何をうろたえてやがる……図星かぁ……?」

「ちがっ、違うってば……!!」

誰かの事を切に考えている時に、その人から指摘を受けたら誰だってうろたえるだろう。

違う、とは言い切ったものの――

マリクを求めている事には変わりはないから、余計に。


「あぁもうややこしい!! 私の頭の中!!!」

かぶりを降って、下らない考えを頭から追い払う。


「一度くらいなら……」

「っ……?」

ぽつりと吐き出されたマリクの声。

シャツの裾を離して行き場を失っていた手を、掴まれたと思ったら――

ゆっくりとその手をマリクの口元に持って行かれ、抗議する気も起きないうちに、指先をそっと噛まれた。

「っ……!」

ゾクリと背筋に走る、甘い痺れ。


「マ……」

ぎり、とさらに強く噛まれ、チリついた痛みが神経を撫でた。


「ぃたっ……」

「……一度だけなら聞いてやるよ……
一生の願いってやつをなぁ……」


ドクリと派手に跳ねた心臓。

息を呑んで、その言葉を頭の中で反芻する。


やがて、心の奥から拡散していく熱が、頬を火照らせ脳を溶かし、チリチリと身体中を焼いていく。


マズイ、と思った時には。


「いなく、ならないで……」


胸焼けのするような、どうしようもない言葉が、口からこぼれ落ちてしまっていたのだった――――


僅かな痛みから解放された指先が、ぬるりと熱い感触に変わる。


私の指先に舌を這わせたまま、チラリとこちらに向けたマリクの眠たげな眼が、まるで石化の魔法のように私の身体を硬直させる。


「くだらねぇ……」

「マリ、ク……」

「そんな一生の願いなんざ、無くたって、」


揺らいだ影。


続きの言葉は、塞がれた唇の中に溶けた――――






(うーん、……不覚!!!
あんな事を言ってしまうとは……!!)

(いなくならないで、ねぇ……
随分と可愛らしい願いをするじゃねえか……
ククッ……ハハハハ!!!)

(うわ〜〜……!!
ほらね、こうやってからかわれるから……
あああ、何で言ったんだ私……バカ……!!)

(クハハハハハ……!!!)

(笑いすぎ!!! ばか!!!!)

(悪くないぜぇ……その願いは……)

(えっ……)



END


前の話へ  次の話へ

←小話一覧へ戻る
←キャラ選択へ戻る

bkm


- ナノ -