夜の帳がすっかり下り、月が煌々と輝くそんな夜。
「ククク……ヒャハハハハ!!!
ひと仕事のあとの酒は最高だぜえ!!!」
盗賊王を自称するバクラは上機嫌で酒を仰っていた。
「わわ……バクラ様……
すごい勢いですね……
で、でもそんな勢いでお酒を飲んだら……」
「あァ?
このオレ様がこんな酒くらいでやられっかよ……!!
ハハハッ! 今日はトコトン呑むぜ!!
おらよ、オマエも飲みな!!」
「あ、は、はい……(困ったな……)」
バクラの傍らに寄り添う桃香は、少し困ったように肩を竦めた。
――案の定。
「ったくよォ……
ヒデーと思わねーか? 王様ってのはよォ……
人の命を何だと思ってやがる……ヒック……」
「…………」
(バクラ様がそれを言うと……)
桃香は気まずそうに視線を逸らして頬を掻いた。
「生まれが偉いってだけで……ック……
何ひとつ不自由のねェ暮らしが出来んだから……ヒック
いいご身分だぜ……ヒック」
「ば、バクラ様……?
お、お酒はそれくらいにされた方が……
身体に毒ですよ……!」
「うぅ……ヒック」
すっかり出来上がってしまった盗賊王バクラは、褐色の頬を紅潮させトロンとした眼でボーッと桃香をただ見つめているのだった。
そしてある時、思いついたようにずいっと彼女に詰めよる。
「バ、バクラ様……?」
詰め寄られた桃香は思わず胸をドキンと高鳴らせ、上擦った声をあげた。
「お前よォ……」
「はい……」
「……本当かわいいな」
「!!!!!」
桃香の呼吸が止まる。
「えっ!? えっ……あっ!? わっ、あ――」
「ヒャハハハハ!!!
何焦ってんだよ! おもしれえ!!!
そういう可愛い反応されるとな、堪んねーんだよ!!
……襲うぜ?」
「!!!!!
あッ、あっ……何を……!!
バクラ様ッ!! 正気に戻って下さい!!!」
「んだよ……オレ様はいつでも全力で正気だよ!!
あー……、いや……オレ様の股間のディアバウンドは正気じゃねーかもしんねえ……」
「ちょっ……!! え!!??
な、何言ってるんですかぁ……!!!
ううぅ……バクラ様ぁ……!!!」
「ヒック……
おい……ヤベぇぞ……
オマエが可愛いすぎてオレ様のディアバウンドが螺旋波動撃ちてえってよ……」
「わーわーわー!! 聞きたくないです!!!
そのディアバウンドさんて小さい方のディアバウンドさんの事ですよね!!!」
(ああぁ……バクラ様がこんなに下ネタを言うなんて……!!)
桃香はすっかり顔を紅潮させ、バクバク高鳴る心臓を抑えようと深呼吸を繰り返す。
「小さくねえよ!?
オレ様のディアバウンドは両方小さくねえよ!!??
ほら、よく見やがれ――」
「きゃあああっ!!
バ、バクラ様っ!! やめて下さい……!!!
恥ずかしいです!!!」
桃香はこの上なく慌てふためいて手で自分の眼を覆って抗議の声をあげた。
「だからよォ…そういうウブっぽい反応されるとよ――――
って桃香……
本当に……オレ様の事……イヤ、な、の、か?」
「え、」
目を覆った手指の隙間からそっと覗いてみると、先程とはうって変わって、不安そうな寂しそうな表情になったバクラが桃香を見つめていた。
「あ……あ……、そんなこと……」
(ば、バクラ様……!!
そんな眼をされたら私おかしくなってしまいます……!!)
「桃香……」
「はい……」
そっと、バクラの腕が桃香を捕らえて抱きしめる。
「っ……、バクラ様っ……」
「……たまんねェ……
好きすぎて堪んねえ……」
「ッッ……!!!!」
「桃香……」
「バクラ、様……」
絡まり合う二人の視線。
そっと、唇が近づいて――――
夜は更けていく。
次の日。
「チッ……くそ……
頭が痛ェ……」
バクラはガンガンする頭を抱えて呻いていた。
傍らで、頬を赤らめてやけにモジモジしている桃香が気になったが――
「よく覚えてねえ……何したんだオレ様……」
虚ろな眼で零しながら、身を刺すような砂漠の日差しと戦い続けるのであった――
(バクラ様……下ネタはちょっと驚きましたがでも嬉しかったです……!)
(あ?
…………あ。
思い出した…………
あああッオレ様とした事が!!!
何やってやがるオレ様……!!)
(幸せです……!
酔ってたとは言え、かわいいって言ってく――)
(んなあああそれ以上言うんじゃねェ!!!
殺す!!!!)
END
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bkm