11・11(バクラ)



「いいぜ……やってやる……!
ただしこれは闇のゲームだ……
敗者は闇に肉体と魂を食われる……わかったな?」



事の起こりは、些細なお遊びだった。


11月11日はポッキーと呼ばれる棒状のお菓子の日であるらしく、その日は至るところで「ポッキーゲームしようぜ!」という、他愛のない遊びに興じられる姿が見受けられるのだ。

そして、その日に合わせたようにちょうど新しい味のポッキーが発売され、何となく買ってしまった私は――


他に買い込んだお菓子を一緒に持ってバクラの家に行き、ふとポッキーゲームの事を思い出して……、そんな遊びもあるんだよ、とバクラに話したのだった。


「フン……、それがどうした……
まさかその下らねぇゲームをオレ様とやりてぇってんじゃねぇだろうな」

「えっ……!!! と、とんでもない……!!

っていうか、あ……
そ、そんなの……恥ずかしくて無理……その」


詰問するような口調でバクラに睨まれ、思わず跳ねた心臓を抑えながら慌てて弁解した。


頭の中に、あの――ポッキーの両端を銜えた男女が気まずそうに食べ進めるというゲームの光景が浮かび、ふるふると首を振って想像を掻き消した。


そして。


次の瞬間、バクラから発せられたのは……信じられないような言葉なのだった。


「いいぜ……
その下らねぇゲームとやらに付き合ってやろうじゃねぇか……

ただし、これは闇のゲームだ……!
負けた方は闇に肉体と魂を食われる……それでもいいんだな?」


(えええ、良くないですけど!!!!)


面食らって固まる私の手からポッキーの箱を取り上げたバクラは、ピリピリと箱を開け、包装の中からポッキーを一本取り出した。


「ルールはわかってるな……?
先に口を離した方が負けだ……行くぜ」

「ちょっと待っ……んっ!!」


あまりの急展開に制止の言葉を発しようとした瞬間、口に無理矢理ポッキーを捩込まれる。

まだやるとは言ってない、と言えぬまま、もう片方の先端をバクラが銜え、わずか棒一本だけを隔てた至近距離で向かい合う形となってしまう。


(うそ……

というか、闇のゲームって何……!?
ポッキーゲームなのに……負けたら闇に肉体と魂を食われる……!?
どういう事、なの……!?)


ポッキーを口に銜えたまま頭の中で様々な疑問と困惑が浮かび、口を動かす事も出来ずに固まったままの私。


そんな中でバクラは、平然とした表情でカリ、と、少しずつポッキーを食べ進め……


(む、無理……!!)


すぐ目の前にあるバクラの顔に、私の唇は緊張してわななき――
闇を湛えた双眸に射抜かれると、たちまち全身の熱が上がっていったのだった。

身体の中から噴きあがった熱はみるみるうちに顔に浸みだし頬を火照らせ、バクラの顔をまともに見ていられなくなった私は視線を辺りに彷徨わせた。

心臓はうるさいくらいにバクバクと高鳴り、ぎゅっと握った拳は汗ばんで震えている。


しかし、そんなこちらの状況などおかまいなしに、真っ直ぐこちらを見つめたバクラは、瞳を逸らすこともなくゆっくりポッキーを食べ進めて来て……


バクラの息使いまで聞こえそうな至近距離に、もはやどうすることも出来ないと、私はぎゅっと目を瞑ったのだった。


刹那。


ちゅ……、


軽く触れた唇に、とうとう耐え切れなくなって、バクラから逃げるように身体を離す。

ずざ、と後退りをして距離を取ってから、慌ててバクラを見れば、そこには――


「口を離したな……
貴様の負けだ、桃香」


クク、と不敵に嗤ったバクラがそこに居て。


その胸には、怪しげに光るリングと、やがて溢れ出す闇が――――


「わ〜〜!! ごめんなさい〜〜!!!!」


邪悪な闇に押し潰され、私は死を覚悟したのだった――――









「ヒャハハハハ!!!!
どうした……? 何をそんなに怯えてやがる……

貴様にとっちゃ悪い展開じゃなかっただろうが……!!
むしろ……、あんな下らねぇゲームに付き合ってやったオレ様に感謝するんだな!!
ヒャハハハハハ!!!」

「うう……」


痛む全身。


乱暴に脱ぎ散らかされた服。


弄ばれた身体はあちこちに消えない跡が残り、身体の芯は未だ切ない余韻を残して疼いていた。


「敗者は闇に肉体と魂を食われる……

敗者はお前、闇はオレ様だ……
闇そのものであるオレ様に食われたお前の肉体と、とっくにオレ様に捕われちまってるお前の魂……
つまり、そういうわけだ…!

安心しな桃香、こんなところじゃ死なせてやらねぇからよ……!!
ヒャハハハハ!!」

……というのがバクラの言い分だった。


(肉体を食われる……って、そういう意味だったの!?)

目眩に襲われ、頭を抱えこむ。


「チッ、こんなんじゃ罰ゲームになりゃしねぇ」
などと呟くバクラを横目で見遣りながら……


もう二度と、ポッキーゲームなどしない!!!と私は固く誓ったのだった……



「オレ様にゲームを挑もうなんざ3000年早ェんだよ!!
ヒャハハハハハハ!!!」

「ですよね〜……」




END


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