花粉症(バクラ)


……くしゅん!!

くしゅん! くしゅん!!!!


「っ……くそっ!!!」

「……大丈夫? バクラ……」

「うるせえ!!!!」


――春。

暖かくなると共に、花粉が飛散しはじめ、多くの人が煩わしい症状に悩まされる。

バクラもその一人で、この上なく不機嫌な表情を浮かべながらティッシュの箱を抱えて悶々としていた。


「っくそ……!!!
そもそも、この身体……、宿主の身体が花粉に反応してんだよ!!

なんでオレ様が巻き込まれなきゃならねえんだ……!! クソが……!」

「……じゃあ、獏良君に交代する?
私は帰るから……」

「ふざけんな!! 誰が帰っていいと言った!!」

「え〜……」


鼻をかみすぎて鼻の周りを赤くし、充血した眼を潤ませているその姿は、いつもの余裕たっぷりで不敵なバクラとは違っていて。

そんなレアな(?)バクラの姿を見られた事に少しだけ歓喜していたら、そんな気持ちに気付いたらしいバクラが鋭い視線で睨め付けてきた。


でも、いつもと違って全然怖くないんだよなぁ〜……
むしろ、かわいいなんて思えたりして――


「殺すぞてめえ……」

「えっ!? な、なにを……」

「口元がニヤついてんだよクソが!!! ぶち殺すぞ!!!」

「ご、ごめんなさい……!!!」

「ちっ、クソが……っ、くしゅん!! っ……、

くしゅん!! ……あぁクソっ……くしゅん!! くしゅん!!!」

「バクラ……大丈夫?」

「……っおい桃香!!
ティッシュがねえぞ……」

「あっ!! そんなこともあろうかと思って、鼻に優しいの買って来たよ!!
ほら、ふわふわ〜!」

「……っ」


ガサゴソと荷物から取り出したティッシュの箱を、心なしか気まずそうに視線を彷徨わせるバクラに勢いよく引ったくられる。

バクラは乱暴な手つきでビリビリと包装を開け、箱に指を突っ込むと、出始めのティッシュを無造作に掴んで鼻に当てた。


「……はぁ……
ねえバクラ、やっぱりお薬飲んだ方がいいよ?
あんまり眠くならないやつ、買ってきたから」

「ちっ……!
このオレ様が……、そんな下らないモンに頼らなきゃいけなくなるとはな……!!

いいだろう……そいつをこっちへ寄越しな!」

「んもう〜!!
なんでそんなにエラそうなんだか……
はいはい、今お水持ってくるから待っててね!」


バクラは、花粉症の症状に効く薬を口に放り込みコップの水で流し込むと、眉間に皺を寄せながら小さな舌打ちを漏らしていた。


その様子に、また思わず笑みがこぼれ――
しまった、と口に手を当ててから、バクラを見てみれば。

苦々しげに舌打ちと歯噛みをしながらこちらを睨め付ける彼と眼が合い――


私は、苦笑いをしながらまた、ゴメンなさいと口にしたのだった――








(次に笑ったらタダじゃおかねえぞ……)

(ご、ごめんね!!
で、でもバクラ、本当に可愛くて――
ってあ、違っ、口が勝手に……!!)

(殺す……!!)




END


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