エイプリルフール(バクラ)



……言おう。


……言いたい。


……言わなきゃ。

いや、義務ではないけど……


でも、せっかくだし……


ええい、勇気を出して!!!



「ばっ、バクラ!! あのね!!!」

「……何だよ」

「わ、私、その、あの……、
ほか、他に、その、す、す……

好きな、人が……!!」


ぶわっ。


「あ……、れ……?」


言葉を発した瞬間、抗う暇もなく水分がどっと涙腺から溢れだした。


「あっ、ちがっ、これは……っ!!」

「……はぁ〜〜……」


目の前のバクラは、眉間を押さえながら大きなため息をついた。


「くだらねぇ……」

「えっ……、あ――」

「下らねぇお遊びにつき合ってるヒマはねえんだ!

桃香……、てめえには嘘をつくのは向いてねえよ……!」

「えっ……」

「だいたい何だよそのだらしねぇ面は!!!
心にもない嘘ひとつ満足につけねえじゃねぇか!!

……何を言おうとした?
他に好きな奴がいるだぁ?
何寝言ほざいてやがる……!

下らねぇイベントで下らねぇ嘘にもなってねえ嘘をつくヒマがあったら、その時間をオレ様のためにもっと有意義に使うことだな!!」

「う…………」


腕を組みのけ反りながら、こちらを見下して罵倒するバクラの瞳はとてつもなく凍っていて。

私はその眼差しに耐え切れずに、気付けば
「ごめんなさい……」と弱々しい声を発していたのだった。


「……な、なんで……
というか、全く……、はじめから嘘っぽかった……??」

「ハッ!!!
むしろてめえの不審な挙動のどこに真実味を感じさせる要素があるってんだ?

……いや、ごく自然にその嘘をつけたとして……
オレ様がどう反応すると期待したんだ?

誰を欺こうとしたのかわかってんのかァ桃香さんよォ……」

「っ!!! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!!

ほんの出来心なんです!!

『なんだとてめえもう一度言ってみろ!!
どこのどいつだ!!』
とか激怒するバクラが見られるかもなんて思ってないです!!

ってあ、違っ、エイプリルフールだから何か嘘を、って思ったんだけど何も浮かばなくて結果下らない嘘を――」

「おい」

「で、でも嘘をついた瞬間なんだか知らないけど涙が止まらなくなってうわ、やっぱり言うんじゃなかったって後悔して――――」

「おい!!!!」

「あっ」

「下らねえ言い訳はいい!!!
とりあえずその無様な涙を拭きな!!!

ったく……、ろくでもねぇ……!!
人形にしてやろうか貴様……」

「うぅっ……、ごめんなさいすごく後悔してます」

「フン……」


予期せず溢れ出してしまった涙を、ごしごしと手で拭う。

ものすごく気まずい気持ちがこみあがってきて、どうしていいかわからずにとりあえず目をこすり続けた。


「はぁ……、ったく……」

さほど強くない力でゆっくりと手首を引かれ、抗わずにそっと目を開ければそこには、呆れたようなバクラの顔があって。

唇を噛み締めて言葉を失っていると、底冷えのする闇を湛えた眼差しがこちらを射抜き、呼吸すら失ってしまう。

スゥ、と細められた眼がふと剣呑な光を帯びて、暗示にかけられたように私の全身は硬直したのだった――


「桃香…………

お前はオレからは離れられねえよ……
絶対な……

それでも万が一、血迷ってオレを裏切るような事があれば……、消してやる……!
オマエの周りの奴、全て……、跡形もなく、な……!

そうして残ったお前を人形にして……
オレの手の中で飼ってやる……!

永遠にな――――」


ゆっくりと、秘やかに囁くバクラの声が鼓膜を震わせる。


その予想外の穏やかさと提示された残酷な罰の内容に、どういうわけか心臓は甘い熱を持って胸を打った。


「ハッ……
この程度じゃ、お前にとっては罰にもならねえな……
むしろ悦ばせるだけか?
完全にイカレちまってやがる……」


――自分でも本当にそう思う。


もし、一番……

一番自分にとって、残酷な罰があるとすれば、それは――


「貴様が何を考えてるかオレ様にはよくわかるぜ……!
桃香……

安心しな、置いてかねえよ……
てめえがくたばろうがオレ様の事を忘れようが――

お前がどこに行こうとしても、お前の魂はオレが喰らってやる……!
せいぜい覚悟しておくんだな……!

だからお前も――、妙な考えを起こすんじゃねえぞ!
まぁ……、今更言う必要もねぇか」

「バクラ……」


口の端を少しだけ吊り上げて不敵に嗤うバクラの顔を見ていると、それだけで他のものは一切合切消えてしまったような感覚に陥る――


そうして、バクラの姿だけを映した視界が、閉じた瞼によって闇に覆われると――


あとには、静寂と、重なった唇から伝わる熱だけが残ったのだった――――






(今日だけは許してやる……!
だが二度目はないと思いな!!
次に下らねえ嘘をついたら生きたままその肉を切り刻んでやる……!!)

(うっ、そういう肉体的な罰もやっぱり嫌だ……!!)

(それも半分は嘘だな……?
ちょっと傷めつけられるくらいなら悦ぶくせによ……!)

(なっ!!! ひ、ひどい……っ!
バクラ、私の事をなんだと……!!)

(オレ様だけの玩具にして所有物)

(っう……うぅっ……!!!
わかってはいるけど……!!
真顔でハッキリ言いきられると……)

(フフッ……)




END


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