「マリク様、本当に行かれるのですか。
この住所とて、あくまでも彼女のパスポートに記してあったものを書き写しただけのもの……
住所が架空でないことは調べましたが、引越し前の古い住所ということもありますし……」
日本時間で言う、休日の午前中。
リシドはメモを手に日本の住宅地を歩きながら、やや遅れて付いてくるマリクに話しかけた。
特に面白みがある訳でもない日本の街並みを漫然と眺めながら、マリクが嘲笑うような声で返してくる。
「それにしてもリシド……女のパスポートをこっそり盗み見て身元を控えておくなんざ、随分面白い真似が出来るじゃねえか……
おっと、褒めてるんだぜ……?
貴様の余計な世話のおかげで、こうしてあいつを迎えに行くことが出来るんだからなぁ……!!」
ハハハ、と大声で嗤うマリクはどうあっても己の決定を覆すつもりなどないらしかった。
マリクが執着する瑞香という日本人女性。
隙をついて盗み見た、パスポートの氏名と生年月日。
本人記載欄の住所、電話番号。パスポート自体が偽造でないなら、本人が自ら語っていた身分に嘘偽りはなさそうだった。
もしもの時を考えて、それらを素早く書き写したリシド。
もしもの時――当時想定した
まさかここまで熱烈で、継続性のある恋愛関係のために使われるとは。
結果的に幸い、と言うべきなのだろうか。
リシドは内心苦笑するしかなかった。
日本へ発つ前。
リシドは駄目元で、何故彼女が今でもマリクのことを待っていると言いきれるのかと、言葉を選びながら慎重にマリクに尋ねてみた。
そこで返ってきた言葉は、要約すれば『そんなもの、見れば分かる』とのことだった。
彼女はマリクと別れる時、涙ぐみながら「またね」と言っていた。
さよならではなく、またね。
再会を期待させるその一言と、悲しみをこらえた瑞香の様子は、つまり瑞香は金銭的な理由などから仕方なく日本に帰るのであり、出来ればマリクに迎えに来て欲しい。
そう思っているのだ――というのが、今回のマリク自身の言い分だった。
それを聞いて、リシドは密かに彼女の真意を確かめようと、日本に赴く前に、パスポートにあった瑞香の電話番号に連絡してみたりもした。
だがそちらは番号が変わっているらしく繋がらなかったのだ。
そうして、出国前にマリクを穏当に引き止めることが出来なかったリシドは今、こうしてメモに書いてある瑞香の住所までマリクと共に向かっている。
もしかしたらその住所だって、既に古い情報に成り果てている可能性だってあるのだが……。
瑞香の住所は単身者向けの集合住宅のようだった。
一人暮らしだよ、と言っていた彼女の話と一応合致はする。
だが、彼女が今でもここに住んでいたとして。
自分たちの来訪に、瑞香は大いに驚き困惑し、迷惑がるかもしれないし……
それ以前に、ドアが開いた瞬間に彼女が、別の男と共に顔を覗かせでもしたら。
その時、マリクは――!!
そんな風にリシドがあれこれ考えを巡らせているうちに、二人は難なく目的地に着いてしまった。
住宅街にある、こじんまりとした集合住宅。
オートロックのない建物ゆえ、件の部屋の前まではあっさりと接近することが出来た。
部屋番号を示す簡素なプレート。
表札に名前はない。
女性の一人暮らしなら防犯のためにそういうこともあるのだろう――とリシドが考えた瞬間、隣に居た大きな問題児が躊躇なく拳を振り上げ、ドアに叩きつけようとした。
「マリク様……!!」
すかさず彼の腕を遮り、リシドは首を小さく振った。
ドアの横にはきちんと訪問者用のチャイムが備えつけられている。
無言でチャイムを指差し、マリクが眉を釣り上げたので説明するのも面倒だと思って、そのままボタンを押した。
モニターがついているタイプのインターホン。
もし本当に彼女がこの家に住んでいるなら、画面の前にマリクを立たせれば何かを察してくれるのではないだろうか。
「……はい」
応答を示す一言だけが返ってくる。
女性の声だった。
機械を通しているため、それが瑞香のものかどうかは分からなかった。
リシドはすかさず大きな体を屈め、音を拾う機械越しに話しかけた。
その先にいる人物が、彼女のみであることを願って……!
挨拶と、相手の氏名確認と、自分たちの氏名の開示。
リシドが発したのはその3点だけだった。
沈黙。
室内の相手がこちらをどう見ているかは、外側からでは分からない。
最初の応答以降、居住者は何も応えなかった。
――もし中にいるのが例の瑞香だとして。
やはり自分たちは歓迎されてないのではないか。
リシドの額に汗が浮かぶ。
もし、『旅先での非日常なロマンス』として葬り去った
そこにあるのはやはり、困惑だけではないのか。
来るべきでは無かった。
このまま瑞香が応答しなければ――いや、応答してくれたとて、迷惑そうな反応をしてしまえば、横で自分の女が笑顔で出迎えてくれることを疑わず上機嫌になっているマリクが、どうなってしまうかは分からない。
もし、
この場で彼女を手にかけてしまうようなことがあれば……!!
本国の地下住居で起きてしまった惨劇ならともかく、この誰の目にも明らかな場所では、取り繕うことなど出来る筈もなく――
不意に、ダダダダという足音がした。
次いで、ガチャガチャ、という至近距離からの金属音。
ずっと閉ざされていた目の前のドアが、静かに、けれど力強く開かれる。
この国のドアは外開きが主流なので、外にいる人間にぶつからないようにとの配慮が感じられた。
開いたドアの隙間から、するりと人影が抜け出てくる。
声を掛ける間もなかった。
弾丸のように飛び込んできた女が、まるで体当たりをするように、力強くマリクに抱きついた。
そして、とっくにそれを予見していたらしいマリクも、しっかりと女を受け止めていた。
「もう会えないと思ってた……!!
マリク、マリク……、マリク……っ!!
あなたが好き、あなたが好き……っっ!!!!」
男に抱きついて泣きじゃくりながら、必死に声を絞り出す女。
そんな女を、ようやく手に入れたとばかりに力強く抱き締める男。
彼女が顔を上げ、唇を震わせれば、マリクが有無を言わさず彼女の唇を塞いだ。
そのまま何度も何度も、繰り返し唇を重ね合う。
彼女はマリクの背中に手を回し、ぎゅう、としがみつき、マリクは彼女の背中を撫でさすりつつも、もう片方の手で彼女の頭を髪ごと包み込んで頬をしきりに撫で回していた。
呆気に取られたリシドは、しばし言葉を失ってその光景を見つめていることしか出来なかった。
彼女は紛れもなくあの時の瑞香であり、愛しい男との再会の喜びに打ち震え咽び泣く、どこまでも素直な女だった。
やがて、マリクがゆっくりと顔を上げ、リシドに視線を向けてきた。
その口元は勝ち誇るように笑っていた。
「ほらなぁ……!!」
それは、マリクによる事実上の勝利宣言だった。
「おいリシド、貴様はもう用済みだ……とっとと姉上サマのところへ帰りなぁ」
ずっと執着していた女に会えて、マリクは大層ご機嫌だった。
エジプトに帰国するまでのしばしの間。
マリクは滞在する予定だった日本のホテルには帰らず、彼女の家で過ごすと言う。
奇しくも彼女が観光客としてエジプトを訪れていた際の状況と同じような構図になり、リシドは「は、はぁ……」と曖昧な返事をすることしか出来なかった。
だがマリクの最愛らしい瑞香は、見境のないマリクに腰を抱かれながらも、
「ごめんなさい、よろしくお願いします」と言って丁寧に自分の携帯電話の連絡先をリシドに教え、ぺこりと頭を下げてきた。
彼女の大層泣き腫らした眼は赤く充血していて、リシドはそれ以上何も言う気にはなれなかったのだった。
**********
お昼にはまだ少し余裕がある時間。
一人帰っていくリシドさんを見送ったあと、私はマリクを室内へと迎え入れた。
玄関ドアを閉め、内側から鍵を掛ける。
瞬間、生じたわずかな沈黙。
賃貸住宅の狭い玄関に、二人で立つ格好になった私達。
「…………」
部屋へ上がる前に、背後に居たマリクの顔をそっと振り返って見上げてみる。
そこには、既に当たり前とばかりに私の顔を見据えているマリクがいた。
思わず吸い寄せられそうになり、慌てて前に向き直る。
つっかけていただけのサンダルをいそいそと脱ぎ、玄関を上がった。
きっと、今の私たちはお互いに破裂しそうな風船のようなものであり、互いが一番欲しているものを的確に分かっている。
だからこそ。
こんな、玄関先では――――
そう思って、彼を再び振り返ろうとした、瞬間。
背後から唐突に体を捕らわれ、きつく抱き寄せられた。
「ぁ、」
首筋に感じる柔らかな感触。
私を背中から抱き締めたマリクが、首筋に顔を埋めてくる。
「マリ、ク……」
一瞬にしてマリクの体温と質量に包まれ、心臓が跳ねてしまう。
ふわりと香った懐かしいマリクの匂い。
途端に蘇るいつかの記憶。
呼応するように身体の奥からドッと熱が染み出して、何かを期待した下腹部が脈打った。
「…………ッ、」
スリスリ、と鼻先で私の首筋をなぞったマリクは、まるでこちらの匂いを嗅ぐようにスウと深く息を吸い、それから唇を肌に落としてきた。
同時に、ぐりぐりとわざとお尻に押し付けられた硬い
まるで『察してくれ』と言わんばかりのその正体を知った瞬間に、再びドクリと呼応する下腹部。
思わず漏れた「ん……っ」という甘い声は、まるでオスの露骨な求愛行動を喜んで受け入れるメスの意思表示のようだと思った。
もし私達が衣服を着ていない野生の動物だったら――もし、私達を
きっと今この瞬間に、私は背後からマリクに犯されていたに違いない――
彼の本能的な猛りをお尻越しに感じながら、そんなことを考えてしまう。
「待って、私、寝起きだから……
歯は磨いたけど、寝汗かいてるし……髪もぼさぼさだし、下着だって部屋着用で可愛くな――、んっ」
早口で絞り出した言い訳など意味はなかった。
ようやく念願の獲物を捕らえたと逸る獣のような手つきで、マリクは私のシャツに手を潜り込ませると直接お腹を撫でてきた。
「ぁ……、」
彼の手はとても暖かかった。
止める間もなく上に登ってきた手が、簡素に胸を押さえつけているだけのブラトップの下に潜り込む。
「待って……、あっ」
膨らみを直接揉みしだかれる。
もはや控えめな制止など意味はなかった。
どうやら、再会の喜びに感激と興奮を覚えたのは私だけではないらしい。
「……っ、なんか、嬉し……っ
来て、こっち……!」
玄関先で体をまさぐられ、服を脱がされかけながらも、何とかマリクを室内のソファーへと誘導する。
――ずっと、ずっと。寂しくてたまらなかった。
ソファーに沈められるように押し倒され、ようやく正面から彼を迎えられると思った私は、おいでと言うように腕を開いた。
素直に応えた彼が、言葉を発する間もなく上から唇を塞いでくる。
「ん、っ……」
覆い被さられて、マリクの首筋にめいいっぱい腕を絡ませて縋りついた。
何もかもが、懐かしい感触。
貪るように重ねられる唇が嬉しくて、恥ずかしげもなく舌を差し出せば、もう何度もそうしたように呼吸ごと絡め取られた。
「マリク、すき……」
息をつく合間に、切れ切れに告白をする。
胸が焼けそうに熱く、頭が溶けるようにぐらぐらした。
もう二度会えないと思っていた最愛のひとと、こうしてまた睦み合えるなんて――
至近距離で視線が絡み合う。
「……っ、」
マリクの双眼は、いつか見た時と同じように紫がかっていた。
少しだけ眠たげな眼差しは、今は少し獣じみていて、露骨に欲望が滲んでいる。
不意に目を逸らした彼は、まるで『
あまりにも性急で、そして直接的な要求。
ゾクゾクと背筋が期待感に粟立つ。
もちろん、どうぞとばかりに進んで下着を脱ぎ捨てようとして……でも、もう少しだけ触れていて欲しいと思ったから。
彼がスリスリと執拗に指先でそこをなぞってくる理由には、わざと気付かないフリをした。
痺れを切らしたマリクが、少し乱暴に私の下着に手を掛けてくる。
焦らしてごめんね、とようやく自分から下着を脱ぎ去って、あなたのも欲しいよと、さっきからずっと自己主張し続けている彼のモノを撫でてあげた。
「すき……」
“来て”も“頂戴”も少し気恥ずかしくて、心のままにまた愛を囁いてみる。
「ああ、知ってるよ……」
部屋に入って初めて口を開いたマリクが、ひどく熱っぽい声で囁き返してきた。
ずっと聞きたかった彼のコエ。
嬉しくなって思わず舌なめずりをすれば、誘っていると思ってくれたのだろう、再び深く唇を塞がれた。
ちゅ、ちゅ……と互いに呼吸ごと貪る。
両耳を塞がれる形で頭を固定され、唾液を流し込まれて夢中でそれを飲み下した。
「ぁ……、」
ありがとう。唇が離れた瞬間にそう言おうとして、けれども彼の方は既に余裕を失っていたらしい。
ぐぶ、と遠慮なく潤みに押し付けられた剛直。
思わず息を呑んだ次の瞬間、マリクの灼熱が滑り込むように入ってきて――私の思考はあっさりと中断されたのだった。
「ん、は……ッ、まり、く……っ」
頭の芯がビリビリと痺れ、背筋がゾクゾクと甘く震えた。
懐かしい感覚。彼と繋がる瞬間のえも言われぬ恍惚感。
既にぐずぐずに溶けきっていた私の身体は、何なく彼自身を飲み込んだ。
マリクと繋がっている。溶け合っている。
あれだけ何度も体を重ねた挙句離れ離れになり、それでも恋焦がれ、こうしてようやく再会出来たマリクと。
「あなたが好き……、好き……っ!
もう離れたくない、ずっと一緒にいたい……っ、あっ……! ん、あぁっ」
ずるずると中を擦られて、際限なく溶けだしていく甘い言葉と甘い声。
「ハハッ……安心しなぁ、もう二度と離してやらないからよ……」
酩酊しそうなほど甘く、魅惑的な言葉。
「あっ、やぁん……、んっ、あ……っ」
離れていた間に限界まで膨らんでいた淫らな欲求が、時が来たとばかりに破裂してどっと溢れ出した。
「マリク……、まりく……っ
ずっとこうしたかった、あなたに会いたかった、あなたが欲しくてたまらなかっ……、んんんっ!」
マリクは笑っていた。
いつも見せている不敵な嘲笑ではなく、心から心地良さを感じているような、安堵さえ感じさせる笑みだった。
「本当はね、分かってたの……!
マリクがさっき、私を迎えに来てくれた時から……!
私を抱きしめてキスしてくれた時、だって……既に、あなたのものが……っ
だから、家に上げたら、すぐ襲われちゃうって、分かってたんだよ……!」
体を揺さぶられながらネタばらしをすれば、マリクはいつかのようにクククといたずらっぽく笑った。
「お互い様だろ……?
家の中から飛び出して抱きついて来た瞬間から……、貴様もずっと、襲われたそうな顔してたんだからなぁ……!」
マリクはとても嬉しそうだった。
「うん……っ、襲われ、たかったの……っ
ギラギラ興奮してるマリクに、こうやって、強引に、犯されたかった、から……あっ」
「っ、ハハッ……」
「……んっ、きらい……?
エッチで、欲張りな私、きらい……?」
「フ……、初めに会った時から何も変わってないだろう、瑞香……!
貴様はずっと、淫らで、欲張りで、可愛い女だよ……!」
「ん、あは……っ 嬉し、うれしい……っ」
彼の下でたぷたぷと揺れていた双丘を捕らえられ、好き勝手に手の中で弄ばれる。
先端に軽く歯を立てられ舌を這わされれば、甘い快楽に混じってマリクへの深い思慕が膨らんで、彼の頭を胸に抱き締めながら撫で回すことしか出来なかった。
さらさらと指にまとわりつく金色の髪。
顔を上げた彼と目が合って、とめどない嬉しさに胸がいっぱいになる。
「フフ……」
私の笑顔に応えるようにマリクが薄く微笑んだ。
可愛いな……熱に溺れる中で、ついそんなことを考えてしまう。
マリクが突き刺さっている部分はじくじくと熱を持ち、歓喜に震えながらとめどなく蜜を溢れさせている。
彼が動くたびにちゃぷちゃぷと淫らな水音が聞こえ、自分がどれだけこの再会を悦んでいるかを物語っているかのようだった。
「まりくぅ〜……、はぁっ、気持ちい……」
喘ぐたびに勝手に舌がこぼれ、全身が快楽と多幸感で満たされる。
頭の中がぐちゃぐちゃになって、マリクが薄笑いを浮かべているところを見ると、私は大層ひどい顔をしているのだろう。
けれど、平素では羞恥に悶えてしまうだろう痴態も、今の私には……今の私達にとっては、場を盛り上げる燃料のようなものでしかない。
「どこまでも淫らな女だ……、ほら、もっと気持ち良くしてやるよ……!」
ひどく楽しそうな顔のマリクが、ギューッと両手で私の首を締めてくる。
「〜〜〜〜ッ、……ッッ」
呼吸が遮断され、顔が火照ったように熱くなる。
首を
「……はぁっ、でも、マリクも、変態さん、だもんね……!」
手を離されたあと切れ切れに笑いかければ、マリクがフフと不敵に笑い返してきた。
耳元をべろりと舐め上げられ、それから一言だけ囁かれる。
「可愛い女だ……」
「っ……」
蕩けそうな言葉に息を呑めば、次の瞬間がぶりと首筋に噛み付かれた。
「あぁっ……!! ……ふっ、ん、あぁん、
あっ……だめぇ、やぁん、あっ、あっ……!」
まるで獣の交尾のように、首筋を噛まれたまま腰を打ち付けられる。
深くお腹を抉られ、奥を突かれるたびに生じる甘い恍惚と、首筋に走るビリビリとした痛みが一体となって訳もわからずただ喘ぐことしか出来なくなってしまう。
好きな人と文字通り繋がり合って、ずぶずぶと気持ちいいところを掻き回されて、溶け合って、溺れる――
「すき、すき、あいしてる、マリク……っ」
首筋にきつく食い込んだ歯は、肉を切り裂く瞬間に離され、まるで歯型に被せるように今度は柔らかい唇で強く吸い付かれる。
幾度も、幾度も。
挿さったマリクの灼熱が私のナカをぐちゃぐちゃに犯す。
気持ち良くて、しあわせで、涙が出るほどに嬉しい感覚。
愛してる。愛してる……マリク!
「っ、もうだめ、……っちゃう、イッちゃう……
ね……、一緒に、いっしょに……ッッ!」
「……ン、くっ……」
「マリクと一緒にいきたい、マリクのでイキたい、だからっ、マリクも、私ので、……!」
懇願しながら縋りついて、登って行く衝動に身を任せる。
言われるまでもなく絶対離さないとばかりのマリクが、私の最奥に自身を深く深く擦りつけた。
「あっ、あっ、好き、すき、あなたがすき、イク、マリク、あっ、好きッッ……!!!」
極限まで膨らんだ互いの欲望が炸裂する瞬間は、ただ圧倒的だった。
――――――ッッ、
マリクは
同時に、お腹の中に注がれた蕩けるような熱。
「す、き…………」
ギューッと彼の首筋に腕を絡め抱きついて、甘い余韻に浸る。
少しチリチリと痛む首を柔らかな舌でべろりと舐め上げたマリクが、息を乱しながら私の耳元で熱っぽく囁いた。
「瑞香……淫らで可愛い、オレの女……っ」
その日から、マリクは正式に私の彼氏になった。
マリクが日本に居る間、私は彼と繰り返し繰り返し心ゆくまで熱を交わし合ったのだった。
それはまさしく、いつかの蜜月の再来であった――
**********
後日。
「見て見て、海がすごく綺麗……!
雲がずっと下の方にあって、なんか変な感じだよね……!」
エジプトへと向かう飛行機の中。
問題は席だ。
窓側から3列並んだ順に、瑞香、マリク、リシド。
イシズは通路を挟んだ席で静かに悠然と過ごしていた。
「そうかねぇ……フフ」
リシドの隣では、マリクが適当な相槌をうちながら瑞香と一緒に窓の外を覗いている。
「ふふ……」
その手が彼女を抱き寄せるように腰に回され、もはやマリクに夢中でたまらない彼女は嬉しそうな声を漏らした。
「……えへへ、……んふ
…………ン、やぁだ、そんなとこ触っちゃダメだってばぁ……」
「ククク……」
「…………、」
そうなのだ。さっきから二人はずっとこんな調子なのだ。
一応最低限の常識のある瑞香は、声こそ最小限に抑えているものの、だがすぐ傍にいるリシドにはそれなりに筒抜けなのだ。
二人は通路から視線を隠すように窓側に揃って体を預け、しきりに密着している。
時折ヒソヒソとマリクが彼女の耳元で何かを囁き、くすくすと控えめに笑った彼女がまたコソコソと彼の耳元で何事かを返す。
こんな
そう、バカップル、とかいう……
マリクがまた瑞香のどこかに触れ、彼女が一瞬だけ甘い声を漏らした。
――気まずい。
リシドは助けを求めるような気持ちで、通路側のイシズに視線を送った。
だがイシズは仕事の資料に目を通したり、ゆったりと本を読み時折上品にお茶を口にしたりするだけで、リシドの苦悶(?)になど全く気が付いていない様子だった。
(――まぁ、マリク様が幸せならば……宜しいこと、だと思います)
リシドは誰にともなく心の中でそう呟いて、窓側のイチャイチャ空間から目を逸らして横を向いた。
エジプトまではまだしばらくかかる。
リシドは、しばしの間仮眠を取ろうと静かに目を閉じたのだった――
END
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