はつもうで2



「…………ッ」


バクバクと鳴り止まない心臓と、冬の冷気をものともせず熱く火照っていく頬。

結んだ唇は言葉を発することも出来ずに、顔は自然と下を向いた。


白い息を吐きながら落ち着こうと頑張ってはみるが、繋がれた手から伝わるマリクの体温が全身を侵食し、頭はうまく回らずにぐるぐると空転し続けるのだった。


深呼吸をし、意を決してそっと横に立つマリクの顔を伺う。

いつもと変わらない眠たげな半眼と、憮然としたままに見えたその顔が、ほんの少しだけ赤らんで見えたのはきっと寒さのせいなのだろう。


「……ありがと」

張り付く喉をこらえ、小さな声で呟いてみれば。


マリクはフイ、とあさっての方向を向き小さく鼻を鳴らし。

握られた手に力がこもれば、私もそっと、マリクの手を握り返してみたのだった。


「あ」

――唐突に。

前から上がった一声に顔を上げてみれば、前に並んでこちらを振り返った城之内とふと眼が合い――

彼の視線が確かに私とマリクに向けられていることに気付いた私は、一瞬で言葉を失った。

「ちょっ!!! こいつら手――――」

「しっ!!!!
黙ってなさいってば城之内!!!」

咄嗟に大袈裟な声で喋り出した城之内の口を横にいた杏子が押さえ、ようやく我に返った私は、マリクと繋いだ手を振りほどこうと――――


が。

「ッ!!!!!」

振りほどこうとした手は、さらに強い力を込めて固く握られ――

暴れる心臓を抑えながら、なんで、という縋るような眼をマリクに向けてみたが、あろうことか、その表情は意地悪く嘲笑っていて。


「ちょっ……、や……」

ますます火照っていく頬。

バクバクと鳴りやまない心臓。

声にならない声をあげる震える唇は、離してとすら言えずに、あらゆる感情を飲みこんで呼吸すら奪うのだった――





賽銭を入れるところでようやく手が解放されたものの、すっかりのぼせ上がった私の頭はお願い事をまともに心で唱えることも出来ず、眼を閉じた時に唯一脳裏に浮かんだことと言えばマリクの事だけで。

そのまま皆と同じ動作をするのが精一杯だった私は、固まった表情のまま神社をあとにするしかないのであった――









帰り道。


「……くっ……、くくくっ……!!」

城之内がしきりにこちらに意味ありげな視線を送ってきて、いたたまれずに気付かないフリをする。

見かねた杏子がため息を一つこぼし、城之内をたしなめた。

「城之内ってばもう……!
やめなさいよ! 大人げないってば!!」

「だってよ〜〜!
こいつらずっと手繋いでたんだぜ〜!?
っくしょ〜!! 正月から見せつけやがって……!!
マリクのくせに生意気だぜコノヤロー!!!!」

「…………」

事実を真っ向から指摘され、瞬時に頬が火照りまた言葉を失う。


「ハハハハ!!!
貴様には3000年早いぜぇ城之内よ……!!
せいぜいそうやって地団駄踏んで悔しがるんだなぁ……!」

「なんだとマリクてめーコノヤロー〜!!」

「ちょ、やめなさいよ二人とも!!」

「3000年て……」

ドン☆

「大丈夫だぜ城之内君!!
城之内君ならそのうちきっと良い人が見つかるぜ!!!」

「あんまり慰めになってないよもう一人の僕……」










「もうマリクってば〜!!!!
支えてくれたのは嬉しいけど、なんで手離してくれなかったの?
目茶苦茶恥ずかしかったんだからね、
ばか〜!!!」

「ハハッ……、何をそんなに照れてやがる……
人前だとあんなに大人しくなるとはなぁ……ククク」

「な、な……!!」


帰宅し、早速初詣での件をマリクに問いただしてみるが、帰ってきたのはやはり意地の悪い笑みとからかうような態度だけで。


「ひ、人前だと恥ずかしいに決まってるじゃん……!!
みんなに気付かれたしもう〜!
あぁぁ学校始まってから気まずいよ〜!!!」

みんなの顔が脳裏に浮かび、いたたまれなくなって頭を抱え天を仰いだ。


「ほぅ……
なら人前じゃなければ問題ねえんだな」

「え」

不吉な言葉に我に返った瞬間、ふんわりとした風が頬を撫で、私の身体はマリクの腕に捕われた。

「ん……マ、リク」

ぎゅっと力を込めて抱きしめられ、マリクが纏った外の空気が鼻をくすぐる。

また自己主張をし始める心臓の鼓動を自覚すると、抗えない温かい気持ちが湧き上がってきて、私はそっとマリクを抱きしめ返した。

今日はありがとう、そう言おうとしたところで――


「おい……
この着物ってヤツ、どうやって脱がすんだ」

「は、え――……んんんっ!!」

またもや不吉な言葉が発せられ、慌てて身体を離そうとしたところで唇を塞がれる。


「んっ……!! やっ……」

ぬるりと唇を割って入り込んだマリクの舌は熱を帯びていて、その温かさに冷えた身体が小さく震え、生まれた電流が頭を痺れさせていく。

「ん……、はっ……まり、く……!! だ……め……!」

後頭部に回された彼の手がアップにした私の髪を掻き乱し、髪飾りが床に落ちる気配がしたが、もはや構っている余裕はなかった。


唇がふと離れたので、少しだけ眼を開けてマリクの瞳を覗きこんでみる――

細められた彼の双眸は深闇を湛え熱を帯びていて、ああこの瞳からはどうあっても逃れられないな、とぼんやりと考えた。


頭を押さえつけられ、再び塞がれた唇に息を奪われ、絡み付く彼の舌に咥内を荒らされていく。

そうしてゆるゆると溶けだしていく理性を止めることも出来ずに、私はただ、マリクの熱に溺れていくのだった――――


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bkm


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