はつもうで



年が明けた。

お正月。

新しい年の始まりを迎え、冬休みである私はのんびりと過ごしていた。



「あけましておめでとう〜!
今年もよろしくね、マリク!!」

「……あぁ」

「ちょっ、テンション低いね……!
ごめん……、やっぱりお正月はイシズさんたち家族とエジプトで過ごしたかったでしょ?
日本に引き止めてごめんね……」

「別にそんなことはどうでもいいよ……
オレが自分の意思で残ったんだからなぁ」


マリクと過ごすお正月。

彼はエジプトへ帰ってしまった主人格のマリクやイシズさんたちと別れ、こうして日本に残ってくれたのであった。


ふと、マリクの妖艶な双眸が揺らめいてこちらを凝視する。

「……それよりも何だ?
その奇妙な服は……」

「ん、ああこれ?
着物っていって、日本の伝統的な衣装なんだよ……!
現代だと、お正月とか成人式とか何かお祝い事があるときに着るの!

あ……、せっかくだから着てみたんだけど……、へ、変かなぁ……?」


頭の先から足の先までじろじろと訝しげに見つめてくるマリクの遠慮のない視線が何だか恥ずかしくて、思わず頬を掻く。

当のマリクはというと、さらにこちらを凝視したままやがてフンと鼻を鳴らし――


「さぁな……
脱がすのが面倒そうではあるがな……ククク」

などと、ありえない言葉を吐くのだった。


「なっ……! なんてことを……!
いや……マリクに気の利いた言葉を期待した私が馬鹿なのか……
はぁ〜……」

こめかみを押さえ、深くため息をつく。
一瞬でも浮ついた言葉を期待してしまった自分が悪いと自省しながら。

相変わらずのマリクは、背中を丸めながらコタツにかじりつき、眠そうな眼でボーッとTVを眺めていた。

よくよく考えてみれば、こうして一緒にお正月を過ごせるだけでも幸せだと思う。

あれもこれもと望んでも仕方ない。
そう考えると自然と心がほころんでいくのを感じたのだった。


「……ねぇマリク。遊戯君たちに初詣に誘われてるんだけど……
マリクも一緒にどう?」

「はつもうで……?」

「うん。今年も一年よろしくお願いしますって、神様にお願いしに行くの。
んー、宗教とか違うとダメなのかなぁ……よくわかんないけど……

まぁでも、日本のお正月の慣習みたいなものだよ!
無理にとは言わないけど、もし大丈夫そうなら……一緒に行かない?」

「面倒くせぇ。それに寒い」

「ですよね〜!!
はは、今年もマリクは通常運転だね……

……よし、じゃちょっと私行ってくるね! ふふふん」

「おい……、その格好で行くのか?」

「うん。杏子も着物着てくるって言ってたし。
あ、男の子たちは普段着だと思うけどね――」

「…………、フン…………
下らねぇが……一緒に行ってやるよ。
感謝しなぁ……」

「え、」










「みんな〜!
あけましておめでとう〜!!」

「おめでとう〜!!
わー瑞香、着物かわいい!!」

「そうかな? ありがとう〜!
杏子もとても似合ってるよ!! かわいい!」

「よぉ瑞香あけおめ〜……ってゲッ!!!
マリクのヤローも一緒に来てんのかよ!? しかも闇の方かよ!?」

「久しぶりだなぁ城之内ぃ……
貴様を闇に葬り損ねたのは本当に残念だったぜぇ……」

「なんだとテメー!!
……って瑞香よぉ、こんなヤツのどこがいいんだよ!?
主人格の方ならまだわかるけどよ――」

「聞こえてるぜぇ城之内……よほど闇に葬られたいようだなぁ……!」

「ちょっと二人とも喧嘩しないで!!!
ほら、初詣に行こ? せっかく来たんだから!」

――私が言えば。


「そうだね!!みんな行こうよ!!」

――遊戯君がフォローを入れてくれて。


そんなわけで、ようやく皆で初詣に向かうことにしたものの、道中マリクと城之内はまだ睨みあっていて、それを横目で見遣りながらため息をつくと……
悟ったような顔の遊戯君が無言で私の肩を叩いてきて、私は苦笑いを返すだけなのであった。

お正月から苦労をかけてゴメンね、遊戯君……!






「うわ〜! けっこう混んでるね〜〜!!」

「そうね、人でいっぱい!!
早く並びましょ!」

神社はすでに参拝客でごった返していて、人込みの中談笑しながら私達も列に並ぶ。

この混雑も、みんなで話しながらならあまり苦にはならなかった。


ふと隣に立つマリクをチラリと見上げる。
憮然としたその表情は、この状況が気に入らないことを表していた。


「…………」

心の中に申し訳ない気持ちがこみあがってくる。


「マリクごめんね……!
なんかものすごく混んでるし、悪いことしちゃったな……」

「…………」

考えてみれば、主人格のマリクやイシズさんたち家族は皆いないわけで、そんな中でこちらに残ってくれたマリクをお正月からこんなふうに引っ張り回してしまうなんて……

ただマリクと一緒にいたくて気軽に誘ってはみたものの、それはあくまでも私の我が儘。

己の身勝手さに気がついた私は、今更マリクに謝りたいという気持ちで胸がいっぱいになっていくのだった。



ドンッ☆

「っわ!!」

列が乱れ、人の腕が当たって身体がよろめく。

思わずバランスを崩しそうになった私だったが、唐突に腕をとられ、揺らいだ身体は何事もなく静止した。


「あ……」

「その格好は外を出歩くには向いてねェと思うがなぁ」

マリクがその手で私の腕をがっしりと掴み、呆れた表情でこぼしていた。


「あ……、ありがとう」

全くこちらを気にしてなかったふうだったにも関わらず、こうして咄嗟に反応できるマリクに感嘆する私。

同時に、何だか嬉しいという気持ちが胸の奥から沸いてきて、心臓が小さく跳ね、自分の口元が緩んでいくのを自覚するのだった。


気付かれないように顔を背け、小さく微笑んだところで――

温かなものに手を包まれた。

「!!!!!」

それはまぎれもなく、横に立つマリクの手で。


マリクに手を握られた……

つまり、マリクと手を繋いでいる、という事実に気付くと――

先程とは比べものにならないほど派手に心臓が跳ね、呼吸が止まるのだった。



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