愛の決闘の門を越えて2


舞を庇うために城之内が走りだす。

ラーによる攻撃が通ればマリクの勝ちだ。


「舞!早く逃げろ!!」

「それよりあんたが逃げろ!城之内!!」

ああ、思いが通じ合うって良いな――と目を細めつつ、これを逃したらマリクの闇のゲームを味わえないかもしれない――と、ゆめは遊戯と同時に走り出す。


そして――


「ぐああ―!!」
「びゃ〜〜〜っ!!!」

舞と城之内を庇い、遊戯と二人でラーの攻撃を受け、ゆめは情けない声を上げたのであった!

「アハハハハハ……ッッッ!!??」

遊戯とともに視界に割り込んできたゆめに、思わず絶句するマリク。

「びゃあああ〜っ!!
コレが、闇のゲームの痛みなのですね〜!!
にゃああああ!!!」

苦しみつつも、恍惚の表情を浮かべるゆめ。

やがてラーの攻撃が終わり、遊戯の仲間たちが走り寄ってくる――部外者というべき存在なのに一緒に飛び出したゆめの存在に若干戸惑いながら。


「遊戯!!大丈夫!?」

「ああ、何とか大丈夫だ……」

「痺れました……」

二人で攻撃を受けとめたことにより、遊戯は気絶せずに済んでいた。

さすがのゆめもその場にへたり込む。

「これが……マリクさまの痛み……フフフ」

口から不気味な言葉を発しながら。

マリクの額の目が光る――城之内達が固まっている。

「とんだ邪魔が入ったが――
闇のゲームでは、敗者は罰ゲームを受ける事になってるんだよぉ」

マリクの手が舞に触れる。

「あっ、いいなぁ〜」

小声で呟くゆめ。

「私も―――」

ダッ!と立ち上がり思わず舞の前へ―――
「罰ゲーム!!」

ズキュゥゥン☆

「あっ」

皆の声が同調した――











「ふざけんな、なんできしゃまがここにいるんだ!!!」

「えっ……だってマリクさまが罰ゲームを」

「オレは孔雀舞に罰ゲームを執行したんだ!
なのに貴様が割り込んできやがったから……!」

「ごめんなさい……」

「はぁぁぁあ……」

深い溜息をつくマリク。


何故こんな事になった?
コイツは何だ?何故オレに執着する!?

疑念が頭の中でぐるぐる渦巻き、マリクは頭痛に苛まれるのであった。


「マリクさま……やっぱり悲しい過去がおありになったのですね……
その苦しみ、ほんのちょっとでも私が癒せれば良いのに……」

ゆめの悲しく伏せられた瞳に少しだけたじろぐマリク。

「でも、今からでも遅くないですよね!私と―――」

「邪魔ばかりする貴様はここで葬ってやるよ!
精神蝕虫に食われちまいな……!」

やおら不気味に顔を上げたゆめの瞳はまた妖しく煌めいていて、マリクは遮るように吐き捨てた。

「あっ……」

巨大な砂時計のようなものに閉じこめられたゆめの頭上から、精神を蝕む虫が振り注ぐ。

「永遠におやすみ……」

「マリクさまぁ」

ゆめはもう一度潤んだ瞳でマリクを見つめる。

「そんな艶っぽい目で見つめてもどうにもならねぇよ……」

「すき」

離れていくときに聞こえた言葉を、マリクは何故だか忘れることができなかった。

「ありえないぃ……」










「ええいこいつは……!
迷惑ばかりかけおって……!!」

気を失ったゆめが運ばれた医務室で、KC社員が毒づく。

「そんな言い方……!この子はあたしを庇って……」

舞は無事だった。


ゆめが気を失って倒れたあと、マリクは――

何かブツブツ言いながら、憔悴しきった様子で舞に二度目の罰ゲームを執行することもなく、フラフラと去っていったのであった。



一方、罰ゲームを受けたゆめは―――

「うーん……!
どうすれば!ここから!抜けだせるのか……ってこの子たちうざったい!!」

吐き捨てながら、素手で精神蝕虫を掴んでは透明な壁に叩きつけ、あるいは踏み潰し、あるいは引きちぎり――

屠っていったのであった。


「私の――マリクさまやバクラさまに対する想いが……こんな虫ケラに食われてたまるかよ!!
てか、食われてもあとからあとから際限なく湧いてくる!!
それが愛と欲!!
うふふふふ――」

ゆめの目は完全にイッていた。

「精神を喰らう虫たちよ……!
私の際限ない衝動がわかる?

苦しいんだよォォォ
吐き出しても吐き出しきれないんだよォォォ!!
こんな仮想空間がなんだよ!!
現実の方がよっぽど苛酷じゃないかああああバカぁぁぁ!!!

わかる?これでも抑えてるんだよォォォ!!
想いのままに行動したら多分嫌われちゃうから!!
今までずっとそうだったんだよ……!!

……でも……ここから出るためならもう躊躇しない……
……会いたい……会いたい!!!

会いた〜〜い!!!!

私の全身全霊をかけて全私を全うしたい!!!!

想いよ……
私の想いよ、那由他の彼方に届け〜〜!!!!」


――ピキ。


目茶苦茶に暴れ、力の限り叫んだゆめの声は幻想の世界を歪ませた。

精神世界の中だけでなら、ゆめは最強であった。

あくまでも精神世界の中でなら、の話だが――







「―――はっ」

ぱちり。

ゆめは目を覚ました。

「う、ううん……」

ひどく頭が痛んだ。

「う〜ん…バファ●ン……」

頭痛薬を求めて起き上がるゆめ。

悲しいことに、周りには誰も付き添っていなかった。

――というのも、バトルシップの屋上では、もうすぐ海馬とイシズのデュエルが始まるところだったのだ――











「バクラさま、お元気ですか?
……というか頭痛薬持ってません?」

「元気じゃねえし持ってねーよ!!
てかまた来たのかよ!!」

性懲りもなくバクラの前に姿を現すゆめ――
心なしか目の下にはクマができていた。

「遊戯さん達から千年アイテムの事を聞きました……
そして、マリクさまに罰ゲームされました」

「なに!?」

バクラの目が見開かれる。

『バクラ、この子は――』

「あっ何か見えます!
バクラさまの隣に……
ナムさん……もとい、やや邪悪な方のマリクさま?」

「!!!!」
『!!!???』

千年アイテムを持たない者には見えないはずの、獏良に取り付いた表マリクの姿――

どういうわけかゆめの目には見えるようになっていた。



「つまり、だ―――

貴様はマリクの闇の人格が覚醒するところを見た、と。
そしてあろうことかそいつの前に飛び出して――罰ゲームを食らった。

が、ありえねえ事に自力で脱出してきた。
そしたらコイツが見えるようになっていたと」

バクラは顎で、隣にぼんやり見えるマリクを示した。

「まあ……そんな感じですかね……あははは〜」

ニヘラニヘラしながら身を捩るゆめ。

表のマリクは背筋に嫌なものが走るのを感じた。
魂だけで肉体がないにも関わらず……

「信じらんねえ……つーかありえねー……
罰ゲームを自力で脱出できる奴なんか居るわけねえ……」

バクラは頭を抱えた。

「いやーそれほどでも……!
バクラさまと、めっちゃ邪悪な方のマリクさまにもう一度逢いたいと思ったら感情が爆発して幻想世界がぶっ壊れてました♪ふふ☆」

「可愛く言うんじゃねえ殺すぞ!!
てか何だ?闇の人格のマリクが良いのかよ!?
てめぇ趣味悪すぎなんだよ!!
ホイホイ悪人をすぐ好きになってんじゃね〜クソ女!!!」

バクラは激昂した。

何故だか、自分だけじゃなく闇のマリクも好きと言われた事に対して無性に腹が立っていた。

「悪人は悪人でも、小悪党には興味ないですからね!!
たとえば、レアカードを偽造したり人から奪ったりするような小悪党とか…」

ゆめがちょっと怒ったように抗議すると、表のマリクは不機嫌そうにふいっと顔を背けた。

バクラは肩でクククと笑う。

「それに……悪人だから好きなわけじゃないです……」

ゆめはシュンと肩を落とし、悲しげに目を伏せる。


『あの……僕をやや邪悪なマリク、闇人格のあいつを めっちゃ邪悪な邪悪な方のマリクとかいうのややこしいから止めてくれるかな……
というか、僕が本当のマリクだ!!
あいつは――僕から生まれたもうひとつの人格であって、主人格はあくまで僕だ!!』

半透明になっているマリクがゆめに抗議の声をあげる。

「二重人格で敵対するパターンてありがちですよね!!
もっとも実際の多重人格者って、ふたつじゃなくてもっと多くの人格を持っている場合が多いみたいですが……」

斜め上のゆめの回答に、マリクは呆れてモノが言えなくなっていた。

「じゃあめっちゃ素敵なあのお花頭のマリクさまを闇のマリクさま、貴方をもう一人のマリクさまとお呼びしますね♪」

『もう一人とか意味がわからないよ!!
僕はマリク、ただのマリクだ――』

「ともかくだ!!
奴の千年ロッドを奪わねーと話にならねえ。
まあ、タダで奪えるとは思えねーけどな……ククク」

「闇のマリクさまと戦っちゃダメです」

「うるせえ!てめーは黙ってろ!!」

ククク……と邪悪な笑みを浮かべるバクラの横で、ゆめは不安そうな表情を浮かべていた。


(何だか……とても嫌な予感がする……
二人を戦わせてはダメだ……!)

ゆめは強く、そう感じるのであった。










「このビジョンは……何でしょう……!!」

イシズは戸惑っていた。

というのも――

以前は、イシズに敗北する海馬のビジョンが見えていたはず。

しかしこのバトルシップに乗り込んだあたりから、並行して違う未来のビジョンがちらつくようになり、イシズを戸惑わせていた。

「もうひとつの未来のビジョンに浮かぶ女性の姿――あれは一体……」

そのビジョンに浮かぶ結末は、悲劇的なものではないように思える。

一方、今このデュエルを続けた場合に見えるのは、弟マリクを救えずに終わる、絶望の未来のみ――

しかし、もうひとつのビジョンの方は、不確定で、揺らいでいる。

(一体どうすれば―――)

イシズは、このデュエルを続けるべきか否か迷っていた。

その時、視界の端で動いた姿にイシズは息を呑む―――




「マリクさま……バクラさまと戦う事になっちゃうのかな……
どうしよう……」

ゆめは、海馬VSイシズのデュエルを観戦するマリクを、遠くから眺め続けた。

そしてその状態のまま、ゆっくりと……猫のような足取りで、マリクに近付いていく。

マリクの背筋に突然悪寒が走る。この感覚はまさか―――

ゆっくりと首を動かし、原因を探る。

「マリクさま……邪悪な横顔も素敵です……」

瞳をうるうるさせながらマリクを見つめ、怪しい足取りで近付いてくる少女がそこに居た。

「バカな!!貴様は……!!!」

激しくうろたえるマリク。

「えっ……!?」

マリクの声に気付いた遊戯たちもそちらへ注意を向ける。

居るはずのない姿をそこに認め、皆が驚愕する。

「君は……!
目が覚めたのか!?」

「ありえないぃぃぃ!!」

うろたえまくるマリク。

「くっ……、騒がしいぞ外野!!デュエルの邪魔をするなら――」
「サレンダーします」

海馬が外野に目を向けた時に放たれたのは、海馬の目の前に立っていたイシズの降伏宣言だった。

『何ィィ!?』

一同の目が今度はそちらへ注がれる。

「フン!オレが相手では勝ち目が無いと悟り、自ら負けを認めるか――」

海馬が皆まで言い終わらないうちに、イシズは慌ただしく舞台を降りていく。

「くっ……!」

ダッ!!!

混乱したマリクが、外へ向かって駆け出していく――

「あっ、待って下さいマリクさま!!」

欲望のオーラを抱いて、すかさずそれを追うゆめ。

「お待ちなさい――!」

さらにその背後を、イシズが慌ただしく追う。


『えっ??』

状況についていけない遊戯達と海馬なのであった。










マリクは混乱していた。

「ありえない……
罰ゲームを食らったあいつが、目を覚ます事などありえないぃぃ……!!」

気付けば、背後の足音は消えていた。

「巻いたか……」

ホッと胸を撫でおろすマリク。

破壊だ!闇のゲームだ!!と禍禍しく息巻いていた時の邪悪なイメージはもはや崩れていた。


「見つけました♪
近道して先回りしちゃいました!」

「!!!!」

背後に居たはずのゆめが、マリクの目の前に立っていた。

咄嗟に身体が動かず、硬直するマリク。

(そういえばこいつはココのスタッフだと言ってたな……艦の構造を把握していたわけか!抜かった……
……フッ、これが……恐怖というやつか――)

そんな事を考えていると、目の前の少女の姿が揺らめいて――気付いた時には、正面からワシッ!と抱きつかれていた。

「ッ!!!???」

ゆめはマリクの身体に腕を回し、抱きしめる。
胸の柔らかい膨らみがマリクに押し付けられたが、そんなことはおかまいなしだ。

「きっ……きしゃま」

震えた声を絞り出すマリク。

目の前のゆめからは良い香りがふんわりと漂ってきて、その甘さと、放つオーラの禍禍しさのギャップに頭がクラクラした。

「あわわわわっ!!すいません!!つい!!」

バッ、と慌てて離れるゆめ。

目の下にクマは出来ているものの、前といくばくも変わらない姿に思わずマリクは目を見張る。

もじもじしながらマリクを上目遣いで見つめるその姿は、黙っていれば全然恐ろしくなどないのだが――

「貴様……どうやってあそこから抜けだした」

「え……あ……
マリクさまやバクラさまへの想いの丈をぶつけたら、出られました!あはは☆」

「バクラだと……?
つーかあそこから自力で出られるわけが……」

「ゆめさん!!」

マリクの背後から、凛とした声が響く。

「あ……あなたは……!!」

マリクの身体の横からひょっこり顔を出すゆめの目に映ったのは、イシズの姿だった。

「貴方にお話があります」

「え……私に?」

こちらへ近付いてくるイシズの方へ、ゆめも歩を進める。

「って、あ――マリクさまがっ」

マントがたなびく音がしたため振り返ったら、隙をついたマリクがダッと駆け出していた。

「マリクの姉である私の話を聞いて下さいますね……?」

「う……あ……」

ゆめは、背後で駆けていくマリクと、正面のイシズを交互に見遣り――
マリクが角を曲がって姿を消してしまったのを見てようやく諦めがつき、イシズの話を聞くことを選択するのであった。





「貴方に――
未来を託します」

イシズの口から、ゆめの使命が語られようとしていた。

とんでもなく電波で痛くてストーカー気質で夢見がちなゆめ。

その使命とは、一体――――


……てか、真面目なお話じゃないからね!コレ!!




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