昨夜の出来事を思い出したバクラは、二日酔いも相まって疲労感をどっと肩に感じていた。
「ちっ……めんどくせぇ」
悪態をつく。
「……おはようございます、バクラ様」
(オレ様はこいつに名前を教えたか?)
…………酔った勢いでいろいろ喋った気がした。
頭が痛い。
「てめえ……名前は」
昨晩も聞いた気がするが思い出せない。
「アイレンです……」
女が答える。
「バクラ様……
私を助けて下さって……ありがとうございました」
ぺたりとその場に座りこんだままで、ペコリとお辞儀。
礼など言われる筋合いはない。
「オレ様に攫われるのと、どこぞの金持ちに飼われるのと……
大して変わりはねぇと思うがな」
口の端をくい、と持ち上げて答える。
「そんなことありません……!
私、バクラ様に攫われて嬉しかったです」
「オレ様がてめえをまた売りとばすっつってもか?」
「!!!」
女の顔が強張る。
下を向いて、唇を噛み締めてしまった。
「クククッ……
そう悲観するなよ。
運よくどこぞの優しいお金持ち様に買われて、良い目を見られるかもしんねえぜ?
ヒャハハハ」
どうせ昼間は馬車馬のようにこき使われ働かされ、夜は夜で、この女の風貌なら変態ジジイどもの慰みものにされるに決まってる。
バクラは女のこれからを思うと嘲笑いがこみあがってきた。
惨めで、哀れで、ちっぽけな存在。
他人の都合に、その人生を容易に捩じ曲げられ、抵抗もできない。
そう、いつかの自分のように――――
「……ケッ、辛気くせえ面してんじゃねぇよ。
オレ様を善人かなんかだと思ったのか?
――言っとくがな、オレ様は盗賊だ。
盗賊王バクラ様だ。
善意で哀れなお嬢さんを助けたりはしねえんだよ」
背中を反らし、女を見下ろす。
女は顔を上げ、悲しそうな眼でこちらを見つめた。
「悲しい眼をしていたから」
「あぁ?」
「大切なものを失ったような――
悲しくて、孤独な眼……
私と同じ」
ズキ。
何故だかわからないが、胸が痛んだ。
「何言ってやがる」
「ごめんなさい……」
「チッ……なんだってんだ」
吐き捨てるように呟いた。
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bkm