――――――風。
荒涼の砂漠を吹き渡っていく。
砂漠の夜は寒い。
盗賊王を自称するバクラは、街の外で眠る時はいつも、夜ごと寒さと戦っていた。
――廃墟。
打ち捨てられた村跡。
あちこちに人間がいた痕跡はあったが、砂に埋もれつつあり、寒さを凌げる屋根はなかった。
温かい――
肌に感じる、温もり。
心地良い。
まどろみの中で、腕に抱きしめる。
朝日が昇る気配がする。
温かい――――
いや、暑い――――
腕の中が暑い。
「ん……」
腕の中のモノが身じろぎする。
バクラは、弾かれるように飛び起きた。
「!!!!!」
腕の中で丸まって眠っているもの。
それは、女だった――――
「…………ん……
うーん……あつい……」
女が目を覚ます。
バクラは距離をとり身構えてから、記憶の糸を手繰る。
(誰だこいつは……
…………
昨日は確か――
大収穫だったもんで、まだオレ様の事があまり知られていない街でお宝を大金に換えて――
上機嫌で繁華街に行って、酒を飲んでたらふく食って――
それから…………)
女が目をうっすらと開け、こちらを見ている。
「…………」
沈黙。
女の目は、透き通って美しかった。
色素が若干薄い。
異国の血だろう。
「おはようございます……」
女がむくりと起き上がり、寝ぼけた声をあげた。
絡み合う視線。
バクラは思い出していた。
昨日、酒をたらふく呑んで――
久々に上機嫌で、ふらつく足で、向かった先は確か奴隷市場だった。
そこでこの女を見つけた。
女は物言わず、目だけでこちらに何かを訴えていた。
バクラも、酔った気まぐれで売られている女を眺めた。
女は異国の血が入っていたが容姿が美しく、高値で競りにかけられていた。
ふん、惨めだな――――
バクラが女の境遇を半ば諦観した眼で思ったときだった。
――女と再び目が合う。
その唇が、ゆっくりと言葉を形作った。
さ、ら、っ、て――――
攫って――
気付けばバクラは精霊獣(カー)を召喚し、奴隷市場を目茶苦茶にし、
女を攫っていたのだった――――
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bkm