逢瀬はパーティーのあとで



もうすぐ今年も終わる。


そして、年が明ける前に待っているのは、お約束のイベントで――





「クリスマスパーティーか〜……!
みんなでやったら楽しそうだね!!」

「っしゃー!!!
ご馳走が食えるぜ! よっしゃー!」

「ちょっと城之内、料理やケーキはみんなで持ち寄りだからね!!」

「僕のうちなら他に誰もいないし、台所も自由に使って良いよ〜!」





……そんなわけで。

今年のクリスマスは、いつものメンバーで集まり、パーティーをすることになった。

獏良君の家に料理やケーキを持ち寄り、皆で楽しむ。
そんな光景を想像すると、心が浮足立って楽しい気持ちになっていく。




「ね、桃香!
桃香はクリスマスに好きな人を誘ったりしないの?」

「!!!!!
ッ、な何言ってんの杏子……!!
そんな人いないよ――っていうか、みんなでパーティーするんでしょ……!?」

杏子が薮から棒に声を潜めて話し掛けてきたものだから、私は思わずうろたえてしまった。


「ふふふっ……!
だって以前、気になる人がいるみたいな事言ってなかった……?
もしクリスマスに行動を起こすなら、私達に遠慮しなくて大丈夫だからね!」

意味深な笑みを浮かべ、軽くウインクをする杏子。


「な、だ、大丈夫だって! 何もないから!!
クリスマスはみんなとパーティーするよ!
あ〜楽しみだな〜!!!」

口をついて出た言葉は、半分はれっきとした本心で、もう半分は心の奥底に封印して見ないようにしていた気持ちだった。






――帰り道。

日が落ちるのもめっきり早くなった昨今、街路樹はいつのまにか季節特有のイルミネーションで飾られていて、街に華を沿えていた。

通りを歩くカップルが、腕を組んで通りすぎていく。


「ふぅ〜……」

吐き出した溜め息は白く、いつのまにかすっかり冬になってしまったことを示していた。

緩くなっていたマフラーを結び直し、身体を震わせる。

寒い。早く帰ろう――


歩きながら、脳裏にあるシルエットが浮かぶ。

黒いコートを翻し、闇夜にその身を溶け込ませた姿――月明かりに照らされたその眼には闇がちらつき、胸元では千年リングが輝いている。

――彼。

頭の中のバクラはいつだって闇を纏っていて、その存在の秘やかな邪悪と、クリスマスという言葉が放つ幸福感のギャップに、思わず苦笑しナイナイとかぶりを振った。

そして、バクラのことをほんの少し考えただけで世界が遠くなり、心臓がドクリと跳ね、胸の中が焦げるように熱くなるのを感じると――いよいよ、私ってどうしようもないな……とまた自嘲じみた苦笑いを浮かべる羽目になるのだった。







「うぇ〜い!!
ようやく冬休みだぜ〜〜!!!
あーこの肉うめ〜! ケーキもよ!」

「ちょっと城之内はしゃぎすぎ!!
ここ獏良君ちなんだからあんまり散らかさないでよね!」

「あはは、別にいいよ……!
こんなに楽しいクリスマスは初めてだし……!!」

「杏子、このケーキすごくおいしいよ!!」

「えっそう?遊戯! 良かった〜!!
私と桃香で頑張って作ったかいがあったわ!!
――ね、桃香!!」

「うん、良かった……!
ケーキなんて初めて作ったしうまくいくかどうか不安だったから……」

「おおッ!? 面白そうなゲームあんじゃねーか!!
獏良、これやっていいか!?」

「うん、いいよ! みんなでやろうよ!」



皆でケーキや料理を囲みながら、楽しい時を過ごす。

この瞬間は何物にも変えがたい貴重な時間だ。

大切な仲間がいて、皆楽しくて――
ここにいれば、どんな困難でも皆で乗り切れる気がする。こんな時がずっと続けばいいのにとさえ思う。

でも――――









「あ〜楽しかった!!
お腹もいっぱいになったし!!」

「ふー食った食った……!」

「ごめんね獏良君、散らかしちゃって……」

「あはは、大丈夫だよ……! 気にしないで!」

「さ、みんなで片付けましょ!
すっかり遅くなっちゃった……!」


楽しいパーティーもお開きになり、皆で片付けをし、帰り支度をし――そして私達は、獏良君の家をあとにする。


「じゃあまたな獏良!!
楽しかったぜ!!」

「冬休み中にまた連絡するよ! じゃあね!」

「おじゃましました〜!」


玄関先で獏良君に別れを告げ、皆で外へ――――




「っあ!! そうだ!!
ちょっと犬成さんに話があったんだ!
……犬成さん、ちょっとだけ時間ある?」

「え? うん――」

獏良君に呼び止められ、とくに考えず振り向いて答えたところで――息が止まる。


「ん? なんだよ獏良! 話って……」

「ん〜……別にたいした話じゃないんだけど……」

私を呼び止めた城之内が反射的に疑問を口にし、獏良君が頬を掻きながら照れたように微笑む。

硬直したままの私をよそに、直後何かに気付いた様子の杏子が、「あ」と小さな声をあげた。

そして――

「み、みんな!!
私達はお邪魔みたいだからもう帰りましょ!! さ、早く!!!」

と、彼女は疑問に思う皆を強引に急かすと、そのまま連れていってしまったのだった。

別れ際に杏子がこちらに意味ありげなウインクを寄越したことで、それが意味するところを悟った私は、世界が揺らぎ始めたのを知った――――


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