遭遇〜その後〜 2



「うふふ……、ふふふふ……!」

心地よい気だるさと、甘い余韻が残る中。

私は一糸まとわぬ姿のまま、ベッドの上でまったりと横たわっていた。


「……満足したか? 欲しがり女」

隣ではバクラが、同じく裸のまま天井を見上げながら私に問いかけてくる。
その胸元に、千年リングを掲げながら。

「うん……! とても満足……
ていうか、その……バクラとのこういうあれで、満足出来なかったこと今まで一度も無いよ……!」

「だろうな」

それは、ピロートークと呼ぶにはあまりにも彼が素っ気なさすぎるのかもしれないけど。


「……バクラがリングの針で刺した5個の傷……
思いのほか傷が浅かったのかな?
もう血が止まっちゃった……」

「そこまで深く刺しちゃいねえからな……!
お楽しみの最中にリングで心臓をグッサリやっちまうのも楽しそうだが……今日はそういう気分じゃなかったんだよ」

「じゃあ今日は、えっちな事に夢中になる気分だったの……?」

「……そうだな
そういう時もある」

「おぉっ……!
あ、わ、私もそうだったよ……今日は……!」

「だろうな。じゃなけりゃ立て続けに3回もイカねえもんなぁ……?」

「ッ!?」

「イキすぎて狂っちまうかと思ったぜ、お前」

「っちょっと……!? そ、それはバクラが……!!
なんかすごく、すごくスゴかったから……!」

「なんだよ」

「ぁ……、ん、恥ずかしいからいい……
あっ、ところで、リングの針、あんまり深く刺してないって言う割にはさ……
ずっとリングの針が私に刺さってピンと立ってた・・・・ね……!

私、それを見て、針が肌にしっかりと突き立つくらいだから、だいぶ深く刺さっちゃったんだなぁって思って……
だって刺さったのが浅かったら、円錐形の針なんて、すぐコロン……て倒れちゃうだろうし」

私がそう率直な疑問を口にした瞬間、ぼんやりと天井を見上げていたバクラがそっと私の方に顔を向けてきた。

横たわったまま交わされる視線。
思いのほか至近距離に彼の顔が来て、ドキリと心臓が甘く啼いた。

「……オマエの」

バクラがそっと口を開く。

全てを見透かし、射抜くようなその眼差し。

呼吸することさえ緊張して、まるで神様のお告げでも聞くような期待感を抱きながら、続きの言葉を待つ私。

「オマエのいのちに反応してたからな、さっきのリングはよ」

「っ……!」

「こんな機能はお遊びみたいなもんだが……
オマエ自身に反応したリングの針が、意図的にオマエの心臓を指してたのさ……
まるで他の千年アイテムを探す時のようにな。
……だから、リングの針が肉に浅くしか刺さらなかったにも関わらず、リングの針は立っていた・・・・・
オマエの魂、命の在処を指し示し……最中・・、ずっとな」

――――――ッ、

そう語ったバクラは、種明かしはしてやったぞ、さあどう反応すると言わんばかりに、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

――息を呑んで固まってしまった私とは対照的に。


「ぁ、…………ッ、う……」

上手く言葉が出てこない。

寝転んだまま彼と見つめあって、しかもこんな超ド級の口説き文句を食らってしまうとは。

心臓がバクバクと高鳴り、顔がカァッと熱くなった。

まさか、千年リングを本体とするバクラが、その針で私の魂を指し示していただなんて。

……なにそれ。

なにそれ、なにそれ、なにそれ。
アァッ……!!!!

嬉しさが爆発して頭がおかしくなってしまう!


とりあえず。

「嬉しすぎて言葉が出ない……
バクラって時々不意打ちで私のこと口説いてくるよね……
心臓がドキドキして止まらないんだけど……
愛してる……」

「フフ……そりゃあどうも」

今日のバクラはとことん機嫌が良いらしかった。
旧校舎でお預け・・・を食らった時には、彼の性情から言って自分の行動を邪魔された形になったわけだから、普通に不機嫌になってもおかしくないと思ったのに。

けれども、私の目には、家に上がってからのバクラはどこか上機嫌にしか見えないのだ。

その理由を考察するとしたら――旧校舎で性急に事に及ぶのではなく、結果的に誰の目も気にせずに私の自宅で思い切り睦みあえることになって、もしかしたらバクラもどこか高揚感を感じたのかもしれなかった。

そんな風に都合の良いことを考えながら、ふふふとつい顔を綻ばせてしまう私。

向かい合って寝転んだ彼の胸元にすりすりと頭を擦りつけてみたら、やんわりと背中を抱きしめられ、頭に唇が寄せられる気配がした。

私の髪に顔を埋めたバクラは一体どんなことを考えているのだろうか――

ほんのわずかでいいから、安らぎを感じてくれていたら嬉しいな……なんて欲張りなことを思ってしまう。

彼に密着したまま深く息を吸えば、心地よい彼の匂いが肺を満たし、全身がふわふわとした多幸感に包まれた。

大好きな人の腕の中は聖域のようなもので、きっとこの世で一番安心出来る場所なのだと思う。
邪悪な意思であり、闇そのものであるバクラに聖域とか安心なんていう言葉はおかしいとは思うけれど。


そうして。

最後にぽんと後頭部をひと撫でしてくれたあと、さすがにじゃれ合いはもう終わりだとばかりに、無言でバクラの体温が遠ざかっていった。

「……喉乾いたね」

彼につられて自分も体を起こし、ふとそんなことを呟く。

それから、好きなドリンクのペットボトルのパッケージをぼんやりと頭に浮かべ……
私は、はたと気付いた。

「あ……あれ!? たしかコンビニで、買ったよね!?
家に帰って来る前……一緒にコンビニ寄って……
飲み物と、私……サンドイッチとお菓子買ったはず…………あれ? 無い……」

「玄関に置きっぱなしだろ」

即答が返ってくる。

「え……!?
あっ、玄関でイチャイチャした時に無意識に置いちゃったのかな??
えへ……夢中だったから……ふふ
飲み物ぬるくなっちゃったかな」

「アイスを買わなくて良かったな」

「ねー! 買おうか迷ってやっぱり買わなかったもんね!
実はあの時、お家に着いたらすぐこうなっちゃうだろうなって予感してたから、だから買わなかったの」

「どんだけ期待してんだよ……エロ女」

「だってバクラも期待してたでしょ……?
なんてね」

「オマエの熱い期待に応えてやったんだよ」

「ふふ……そっか。ありがとう……!」

どことなく弛緩した、他愛のない会話。

性的な渇望が満たされても、こんな風に普通に言葉を交わしていられることがたまらなく嬉しい。

「……シャワー借りるぜ」

「あ、うん。
じゃあ飲み物とか冷蔵庫で冷やしておくね……!」

たとえそれが、いつか終わりが来る夢うつつのような時間だとしても。

「…………一緒に来るか?」

「っ!? ァ……、いいの!?
行く、一緒にシャワー浴びる……!
あぁ〜っ、今日はとっても最高の日だ……!!
嬉しい、ありがとう……!! 泣きそう……」

「フフ……」

私はいつだってバクラの手を離さないし、どこへだって付いて行く。

だから。

「好き……!」

この幸せなひとときが、もう少しだけ続きますように――

そう、願いを込めて――



END

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