遭遇〜その後〜 1



私と、バクラ。

誰にも知られることなく、密やかに体温を共有している者同士。

それは背徳で、邪悪な意思とそのオモチャのような関係で。
けれど、私にとってバクラは、何よりも大切な唯一無二の最愛で――


そんな私達は、つい先ほど、いつものように『良からぬこと』をするために逸る気持ちで旧校舎へと向かった。

だが。
そこで鉢合わせしてしまったのは、あろう事か先客・・たちで――

つまり自分の行動を邪魔された形になったバクラは、普段だったらたちまち怒りをあらわにしていたことだろう。

けれども今日の彼は、たかだか情事の場所取りで先客と争うことが何となく馬鹿らしく思えたらしい。

そうしてくだらねえ、とばかりにあっさりと先客を見逃したバクラは、そのまま旧校舎を引き返した。

戸惑う私。

だが、やっぱりそこは『彼』だ。
彼は、先客のせいで踵を返しつつも素直に欲望を萎えさせたわけではなかったのだ。

バクラは、昂った身体を持て余し寂寥感と落胆から消沈していた私を黙殺するかと思いきや、行き先を私の家に変更すると言い放った。

思いもよらぬ僥倖。

急遽一転、浮かれて思わず彼の背中に飛びつく私、抗議の声を上げつつも私を振り払わずに、まるで抜いた刃の収めどころが分からないのはこちらも同じだと言わんばかりのやけに熱っぽい手つきで私の腰を抱いてくれたバクラ。

身体を重ねたことのある男女にしか分からないであろう、意味ありげな目配せと、二人だけの空気。

どうやら火がついてしまった≠フは、淫乱発情女と揶揄される私だけではなかったらしい。

そうして、学校を後にした私達は……






心なしか早足でコンビニに向かった私達は、手早く飲み物と軽食を買って店を出た。

言葉を交わす余裕もなくなってただ自宅へ急ぐばかりの私と、真っ直ぐに前を見据えながらも私に歩を合わせてくれているバクラ。

外では人目があるために、旧校舎でのように露骨に寄り添えないのがひどくもどかしかった。

「バクラ……」

それでも、縋るように隣を歩く彼を呼べば、宥めるように背中をぽんとひと撫でされた。

オマエの気持ちは分かってる、だから今は早く家へ――まるで彼がそう言っているように思えてしまう。

嬉しくなって唇を舐めながら彼を見遣れば、ちらりと一瞬だけ視線を返してくれた。
その一瞥に言い知れぬ熱がこもっているように見えたのは、やっぱり気のせいじゃないと思う。


ほどなくして自宅に着き、私は自ら門扉を押し開けた。
少しでも時間を短縮しようと、玄関ドアの前へと急ぎながら鞄から鍵を取り出す。

この時間、まだ両親が帰って来ていないことは確かだった。だからどこにも躊躇はない。

慣れた手つきで鍵を開け、背後にいるバクラを先に通しドアの中へ招き入れた。


バクラが素早く靴を脱ぎ、玄関を上がって行く。
ドアの鍵を内側から閉め、彼を追いかけるように私も靴を脱いだ。

「……ッ、」


頭の奥で、何かが軽く弾けたような気がした。


目が眩む――もう限界。

2階の方へと視線を向けた彼の背中。
その愛おしい背中めがけて、辛抱たまらずドッと抱きついてしまう私。

心臓がばくばくと早鐘を打ち、さっきからずっとじくじくと下半身が疼いている。

思考はすっかり乱れ、何処からどう見ても発情している自分の姿を、この上なくみっともないと思えども――けれど、爆発寸前まで高まった衝動はもはや止められなかった。


「……堪え性のねえ女」

バクラが振り向きながら吐き捨てる。
だがその顔は何処か満足そうに笑っていた。

「バクラ……んっ」

吸い付くように唇を塞がれる。
すかさず両耳を塞ぐように顔を固定され、そのまま貪るように呼吸を奪われ続けた。

舌を絡め取られ、溶け合う水音が頭の中で反響する。
さらにじくじくと下腹部が痺れ、立っていることすら危うくなっていく。

やがて、首筋をさわりと撫でた彼の手が、私の背中、腰へ――と滑って行き。
そのままお尻を撫で回され、卑猥な手つきで弄ぶように肉を揉みしだかれた。

「ぁ……」

「ココでするか?」

身も蓋もない一言が発せられる。
唇を離したバクラの目はどこか獰猛で、はっきりと欲望の色が浮かんでいた。

反射的にどろりと疼いた身体の芯。
きゅっと収縮した心臓は、いつだって呼吸を乱れさせる。

彼の問いに答えを迷っていたら、お尻ごと腰を抱き寄せられ、密着した下腹部にぐりぐりと彼の硬いモノが押し当てられた。
バクラも興奮しているのだと嬉しくなると同時に、やはり自分だけではなかったのだと安堵の感情が胸いっぱいに広がっていく。

「したいけど……、でも、寝転がりながらいっぱい抱きつきたい……」

切れ切れに吐き出した時には、既にブレザーのボタンを外され、ブラウスの上から胸をまさぐられていた。

「いいぜ……」

熱っぽい声で応えたバクラが、私を抱き止める手に力を込める。
足が浮く感覚があって、次の瞬間に私の体はバクラによって抱き上げられていた。

「あっ、……!」

思わず彼の首筋に腕を回す。

身長差があるとはいえ、筋肉質とは決して言えないバクラの肉体が私を抱え上げるとは。
お姫様抱っこなどと浮かれるよりも、じんと広がる感動のような感情が心に染み渡った。


彼は重いなどと文句を言うこともなく、平然と見える足取りで階段を上って行く。

そのまま私の部屋の前で足を止めたので、私は彼に抱えられたまま手を伸ばしドアを開けてあげた。

「どうも」

皮肉っぽくお礼を述べたバクラが、真っ直ぐに部屋の中を進み、当然のようにベッドへと私の身体を放り投げる。

「ッ、ありがとう……! 重くてごめんね……」
「野暮なこと言ってんじゃねえよ」

気遣いは無用とばかりに、性急にバクラが覆い被さってきた。

「んっ……」

胸元を暴かれ、露わになった膨らみの上にぱたりと落ちてくる千年リング。
その針が胸の先端に触れ、一瞬だけ卑猥な声を漏らしてしまう私。

それを薄く嗤ったバクラは、迷うことなくスカートの下に手を滑らせてきた。

「あっ、……ん」

どこか熱っぽい彼の手。
その体温に浸る間もなく半ば強引に下着を剥ぎ取られ、さっきからずっとじくじくと疼く場所をじかに撫でられた。

潤いを確かめるまでもないと言うように、そのまま指を何本かねじ込まれる。

「あぁっ……!」

ぞわりと甘い鳥肌が立ち、電流のような痺れが全身に拡散した。

「一回イッとくか? 別にいいぜ」

ずりずりとナカを指で探りながら、バクラが嘲笑うような声で囁いてくる。

おねがい、と思わず言おうとして、けれど本当に欲しいものが目の前で破裂しそうになっていることに気付いている私は、「ううん、」と否定の声を絞り出した。

「あなたのがいい……! バクラが、欲しい」

告げた瞬間、バクラがハッと軽く笑った。

その一声は、余裕ないくせに生意気言うじゃねえかという嘲笑だったが、どこか嬉しそうなニュアンスも感じられた。

「ブチ込んだ瞬間にイッちまっても知らねえぜ」

そんな風に、露骨な台詞をやや暴力的な口調で喋るバクラは、どこから見ても『バクラ』でしかないのだけれど。

けれども、今のバクラは――普段、他の同級生と共に居る時とは――決定的な違いがある。


バクラは私の知っている限り、他の人間には性的な発言をしない。
ガラの悪い男子が行うような、同性で盛り上がるための性的な軽口、または女子に向けるセクハラまがいの性的な揶揄を、邪悪で悪辣であるはず・・・・・・・・・・のバクラが、他人に向けている場面を私は見たことがないのだ。

だが私の知っているバクラは、私の知る限り、私にだけはそういった露骨でちょっと下品な言葉をぶつけてくる。
それが、心底彼のことを好きな私にとっては、何よりも嬉しくて……!

ゾクゾクと甘い期待感が全身を駆け巡る。
その感覚はほとんど麻薬のようなものだと思う。

私を狂わせる――バクラという名の麻薬!


「すぐにイッちゃうかもしれないけど、ブチ込んで欲しい……」

少なくとも、彼の物言いにつられて、こんな台詞を返してしまうくらいには。

「後悔すんなよ……!」

ククク、といつもの調子で嗤ったその顔は、どこか嬉しそうに見えて――


「――ッ、……!!!」

無言で脚を開かれ、彼のモノが入口にぬるぬると宛てがわれたのも束の間。

一気に灼熱がねじ込まれ、突き立てられた。

「あぁッ……!!! ゃ、……っ!」

呼吸が止まる。
頭の端がスパークして軽くトン・・でしまった。

文字通り、『ブチ込まれた』としか言いようがない合体。

「あっ、待っ……!」

ぎゅ、と繋がった部分が遅れてきつく収縮する。
ずぶぶ、と肉を押し広げて奥へ奥へと侵入してくる彼の欲望。

背筋を一瞬で駆け上がった鮮烈な稲妻が、言葉を発するより早く四肢を麻痺させ、そして――

「ッッッ、ぅあああぁ……んん!!!」

真っ白になる頭の中。

何もかもバクラの言う通りだった。

彼自身を性急にブチ込まれた私の身体は、奥を軽く二度トントンとされただけで、あえなく達してしまったのだから……!!


「ぁ、まって、……っ、はぁ、はぁ、あぅ……っ」

「だから言っただろ……!
ちゃんと息しとけよ、桃香……!!」

「っっま、待って、今イッてるから――
ッッあああぁぁん! あっ、だめっ、動……やぁっ、ぅあぁん……!!」

「待たねえよ」

酷く意地悪で、どこか嘲笑うようなバクラの声。

達したばかりのナカをずるずると擦られ、私は無様としか言いようがない嬌声をあげて身体をしならせた。

「あぁっ……!! ぅあっ、イッてる、イッてるから、だめ、あぅっ、頭、おかしくなっちゃう、あぁぁっ……!!」

「ヒャハハッ」

いつもの調子で嗤った彼が、一度後退させた杭を、再び欲望のままに強く突き立ててくる。

「ッッッ」

息が止まる。

ずん、ずんと奥を突かれ、瞼の裏がチカチカと明滅し、喉の奥から文字通り喘ぐだけの声が勝手に絞り出された。

「ぁ、あっ、あっ、…………ッッ!!!」

筋肉の収縮がもたらす絶頂の快感が、勝手気ままに動き続ける彼自身の刺激によって強制的に引き伸ばされ、全身をめちゃくちゃな悦楽で塗りつぶす。

脳の一番デリケートな部分を直接撫でられたような、他に喩えるものがないような暴力的な快楽の塊が、肉体と精神の両方から一分の隙もなく私の全てを支配していた。

心臓が痛いほど強く胸を打ち、淫らに収縮し続ける下半身のせいで硬直してしまった上半身が、口を開けども呼吸をすることを許してくれなくて――

「っ、あぁぁっ、……っ、…………ッッ!!」

淫らな嬌声は完全に理性を失っていて、声帯さえ狂ったのかもはや声にすらならなかった。

無様な自分の醜態を隠そうと手で顔を覆おうとするも、四肢さえ満足に動かすことが出来なくて……!

「……っバカ、ちゃんと息しろって言っただろ……!
感じすぎて死にそうになってんじゃねえよ、ったくよ……!」

「……ぁ、…………っ」

私のあまりに大袈裟な反応に呆れたのか、バクラが律動を緩め、探るように頬をごく弱く叩いてきた。

「ん、ぅ……」

その手の温かさに安堵し、硬直の解けた自分の手を重ね、甘えるように頬を擦り寄せる。

彼の手をぎゅっと捕まえたまま、口を閉じ、気を遣わせてごめんねというつもりでそっと掌にキスをした。


「エロ女が……っ
どこまでもエロく誘ってくるくせに、ちょっと遊んでやるとすぐブッ飛んで壊れそうになっちまいやがって……」

「ん……っ」

呆れと嘲りを隠さないバクラが、けれどもどこか穏やかな声で吐き捨てた。

「ま……、意識トンで人形みたいに黙りこくっちまったオマエを、好きなだけ犯しまくるのも悪かねえが……
こうしてせっかくベッドに連れて来てやったんだから、一緒にもっと楽しもうぜ……!」

「……ッッ」

ずきり、と甘く胸が疼いた。

バクラの軽口――人を茶化すような軽薄な語り口。
けれども私にとってそれは、極上の口説き文句でしかなくて。

「っ、すき、好き……っ」

昂る身体だけでなく心まですっかりバクラに囚われて、彼と融合した部分はちゃぷちゃぷと淫らに悦んでいた。

「ン……っ」

わずかに鼻で応えた彼が、覆い被さるように唇を塞いでくる。
呼吸ごと貪られ、至極当然のように唾液を流し込まれた。

好きだと告げるかわりにそれを飲み下し、苦しくなるほど舌を絡め合い、唇が離れる瞬間に名残惜しむように彼の唇をぺろりと舐めてみる。

「フフ……」

どうやら性的な台詞による煽りをやめたらしい彼は、それ以上何も言わなかった。

バクラはきっと行動で示すことにしたのだろう。
その証拠に、彼は無言で繋がった部分の角度を調整し――直後。

ずん、と杭がほぼ垂直に突き刺さり、腹の底を鈍く打った。

「アッッ」

言葉にならないほどの鮮烈。

反射的に膣内がドクリと収縮し、再びチカチカと視界がブレた。
痛みは無く、あるのは多少の圧迫感と、圧倒的な快感だけだ。

「バ、くら、ぁ……っ
んっ!! ……あっ、あぁっ、やっ、あっ、あっ……!!」

バクラにほとんどのしかかられて、身動きの出来ない状態で上からガツガツと腰を打ち付けられる。

「ゃ、気持ちい、バクラ、あぅっ……!!
……すき、すきっ、こんなの、好き、……ぜんぶっ……!!」

「ハハッ」

犯されている部分からもたらされる刺激が、波状攻撃のような快楽となって全身を揺さぶっている。
奥を突かれるたびに頭の芯が痺れ、口からは淫らな嬌声かごく単純な愛の言葉しか紡ぐことが出来なかった。

「っ、すき、すき……っ
バクラがすき、あっ、あなたが、大好き、んっ……!!」

「あぁ……っ、知ってる、っ」

うわ言ように繰り返す告白に、時折バクラは律儀にも応えてくれた。

それがとても嬉しくて、愛おしくて……!!

「あっ、んぅっ、あっ、すきっ、あぅ……っ」

全身で彼の全てを感じたくなって、縋り付くようにバクラの首筋に腕を回した。
手の平で撫で、指で梳いてみた白い髪はうなじの部分がうっすらと汗で濡れていて、汗ばむほどに彼も高揚しているのだと思うと嬉しくて仕方なかった。

指先にコリコリと触れる紐の感触。
その紐は、ぴったりと胸同士を合わせた二人の間でごりごりと存在を主張する、バクラの本体・・である千年リングをいつだって支えている。


――バクラが好きでたまらない。

バクラと繋がっている部分は溶けそうに熱く、触れ合っている体温はえも言われぬ陶酔感を生み、全てが幸せとしか言いようがなかった。

大好きなひとと睦み合えるという、蕩けるような至上の幸福感。

たとえそれが、どれだけ刹那的で、危ういバランスの上に辛うじて積み上がった関係だとしても――!


「……っ、ちゃう、アッ……!
イッちゃう、また、待って、イッ……あぁん!」

「ハハッ……! 勝手にイケよ……!!
ッ、何度でもイッちまえ、イッても犯しまくってやるからよ……!
……っ、顔隠してんじゃねえよ、お前のえっろいイキ顔ちゃんと見せてみな……!」

そう煽って、どこか楽しそうに嗤う彼が身体を起こす。

彼の体温が離れて行った胸元に、ひんやりとした外気が触れ、僅かな寂寥感を感じたのも束の間。

「あっ、ゃん、胸……! んぅっ……!」

宥めるように胸を掴まれ、まるで取っ手だと言わんばかりに膨らみを揉みしだかれながら、身体を揺さぶられ続けた。

シャラシャラと金属が擦れ合う音が耳をつき、ゆらゆらと揺れたリングの針の先端がちらちらと乳首を掠める。

図らずも胸と下半身を同時に攻められる格好となり、身体の芯が勝手に二度目の絶頂を求めて貪欲に蠢いていた。

壊れちゃう、イッちゃうと淫らに悶える私を見下ろすバクラの眼は、どこか熱っぽく、満足げに見えて――


「ゃ、だめ、壊れちゃう……っ
うぁぁん、そこだめっ、あっ、本当に、また、イッ……!!
ゃ、イッちゃ、あん、またイッちゃうからぁぁっ……!!

……ッ、好きっ、あああぁぁぁッッ……ん!!」

再び真っ白になる頭。

もはや何も分からなかった。
ただ、繋がった部分が痛いくらいに震えて収縮を繰り返していた。

私の弱い箇所をことごとく知り尽くしているバクラに、ぐりぐりとナカの一部分を擦り付けるように刺激され、緩急をつけて奥をこじ開けるように突かれた結果。
抗えるはずなどなく、乱れに乱れてひどいことになっているだろう顔を手で隠すことも許されず、私は彼の下でまた絶頂に達していたのだから。


きもちいい、と だいすき
あいしてる、と さいこう

何もかもが恍惚で、至福で、法悦で、自分の全てがバクラで塗りつぶされているような心地だった。

溶けている。溶け合っている。
私とバクラの境界がひどく曖昧になっているような気がする。
――もちろん、そんなものは幻覚なんだろうけど。


「あぁ……、ぁう、……ッッ、あっ……」

ビク、ビクと肢体を痙攣させて恍惚の海に浸りきっている私。
目の焦点がぼやけ、意識が朦朧とする。

彼の方がまだ・・なのは分かっていたが、快楽が強すぎて何も考えられなかった。

ただ、視界の端で、何かが光ったような気がして――

「ッッああんっっ!!!」

悲鳴を上げたのは無意識だった。
甘い快感を塗り潰すように、突然胸に走る鋭い痛み。

「っ、あ……、ぁ……!」

未だ繋がった部分には確かな質量・・がある。
当然だろう、彼はまだ欲望を吐き出していないのだから。

では、この私の胸に挿さって・・・・いるような質感は……??


「イクのはいいが、勝手にオネンネされちゃ困るんだよ……!
一緒に楽しもうって言っただろ?
だからオマエがちゃんと起きてられるようにイイもんくれてやるよ……

ヒャハハハハっ、リングの針ぶっ刺されながら犯されんのはどうだよ!!
オマエの可愛いおっぱいに5本、千年リングオレサマがちゃあんと突き刺さってるぜ……?
随分とイイ光景だと思わねぇか! 桃香!!」

――――ッ、

「ァ、アァ、あッ、あ」

ゾクゾクゾクゾクっ。

事態を把握した瞬間、稲妻のような衝撃が全身を走り抜けた。

「ハハッ……!! ヒャハハハっ……!!!」

ひどく愉しそうなバクラの哄笑。

5本の物理的なで私を繋ぎ止め・・・・つつ、いきり立つ生身の杭で何度も何度も、繰り返し私を犯し続ける。

快感。痛み。激情。
狂熱、激痛、執着そのもの。

膣内と胎の底を擦られ突かれる性的な快感と、皮膚を抉って突き立ったリングの針がもたらす痛みが、バクラへの狂いそうな思慕と融合し、私という容れ物の中で攪拌されていた。


――もはやなにも、考えられなかった。

私はただ口から制御不能の喘ぎを漏らし、ガツガツと彼の質量を突き込まれ、ゆさゆさと身体を揺さぶられて悦ぶことしか出来なかった。

甘い、甘い蜜のような蕩ける快感に溶ける痛みは、ただ至福だった。

邪悪な意思が、闇の中から手を伸ばしたような――いにしえの錬金術によって形作られた金属製の五指・・が、私の胸を、命を丸ごと鷲掴んで嬲っている。


気持ちいい、痛い、
いたい、きもちいい、
すき、だいすき、好き、好きすき好き好き好き……!!


「ハッ……、両方・・繋がってる・・・・・から、オマエの感じてるモン、全部分かるぜ……!
嫌というほど、伝わってくる、からよ……!」

息を切らし始めたバクラが吐き出した台詞には、愉悦に酔ったような熱がこもっていた。

うれしい。
あなたもこれ・・を悦んでくれるなら、何よりも嬉しい……!!

3000年前を起点とする邪悪な魂と、現代の取るに足らない小娘の魂。
闇そのものとただの人間、
男と女、
あなたとわたし。

どこまでいっても別個でしかない二つの存在が、たとえ一時の気まぐれであろうと、繋がり合えるという至福。

本来、自分自身の肉体を持たない彼が、たしかにここに居るという、存在証明――!


「バクラ……っ、あなたが、すき、……っ
うれしい、バクラが、居てくれて……っ
あっ、愛してる、あなたを、バクラを……ッッ」

「ンっ……、桃香……ッ
はっ、全部くれてやるからよ……!
ちゃあんと、一滴残らず、飲み干せよ……ッ!」

「あっ、あっ、ちょうだい、ぜんぶ、
さいご、今度は、いっしょに、イッ……」

「ああ、来な……ッ!
ン……、桃香……ッッ」

覆いかぶさってきた体温が、べろりと首筋を舐め、吸い上げ、耳朶をやんわりと噛み、それから鼻先を耳の裏に埋めてきた。

彼は、その瞬間・・・・の顔をきっと私に見られたくないから、いつもそうするのだ。

ありったけの欲望を注ぎ込もうとするバクラに、最奥をこじ開けられるように繰り返し突き上げられ、三度目の絶頂が目前に迫る。

私はまた夢中で彼の首筋に腕を回し、きつく抱き締めながら強く肌に唇を寄せた。

重なった肉体同士の間でいつも存在を主張しているリングは、今5本の針を私に穿ち、燃えるような灼熱を発し続けている。

そして。


「バクラ……っ、バクラ、ばくらぁ……ッ
あ、あ、ァ、ァ…………ッッッ

すき……ッッ、――――――――ッッ!!!!!」


声にならない叫喚と同時に、全ての感覚が宙に浮いて爆散した。

恍惚。

あらゆる色が一気に噴き上がりし、刹那、白一色になって全身を塗りつぶす。

胎の底と心臓が大きく脈打って、直後、彼の全てが流れ込んできた。


「……、………………ァ、」


四肢が麻痺したように動かなくなり、とぷとぷと彼を注ぎ込まれる僅かな間。

まるで嚥下のようにごく、ごくと蠢く秘部はまさに、彼を飲み干しているようだと思った。

またそれは、下腹部だけではなく。

どくりと心臓が鳴る。
胸に突き立てられた闇の五指から、どろりと流れ込んでくる気配のようなもの。

「ん……、ぅ……」

それはもしかしたら、厳密には、リングの邪念と呼ばれるものなのかもしれない。

でも私には、今自分の中に流れ込んできたモノが、愛おしくて愛おしくてたまらなかった。

何故ならば、それはきっと『バクラそのもの』だったから。

バクラの気配。思念。闇。激情。匂い。
凍るような冷気と、何物をも溶かす熱。

バクラという存在の、魂の欠片。

彼をありったけ注ぎ込まれた私は、愉楽に打ち震えながら一滴残らず彼を飲み干し、味わっていた。


――そして同時に。

私は見てしまったのだ。

ほとんど一緒に、達してしまったその瞬間。
何もかもが分からなくなる、そんな暴力的とも言える激烈な恍惚感の奔流の中で。

私に表情を見られまいと首筋に顔を埋めたバクラが、耳元で発した「ンっ……、」というわずかな喘ぎ声。

思わず彼のうなじに回した腕を解き、彼を少しだけ引き剥がすようにずらし、自らは顔をめいいっぱい横に向けて、ようやく盗み見てしまった彼の秘められた表情。

その瞬間の快感を味わい飲み下すように、きつく閉じられた瞳。
至近距離で見た彼の瞼は、髪と同じ白銀の睫毛で縁取られ、いつものきめ細やかな白い頬はほんのり紅く色付いていた。

本当に身も蓋もない言い方だと思うけど。
――バクラのイキ顔はとても色っぽくて、可愛らしく、ただただ素敵だった。


肉体的な絶頂の余韻と、彼のを見たことによる満足感。

それらが彼への思慕と混ざり合い、心が幸福感で焼けそうなほど熱くなっていた。

「ァ…………、もう…………すき……」

私の体の上で、浅い呼吸を繰り返しているバクラが何よりも愛おしくてたまらなかった。

バクラ……私の愛する人!!


「…………見たなぁ」

唐突にそんな台詞が耳元に吹きかけられ、直後体温がゆっくりと離れていった。

「ぁ……」

上半身を起こし、私を見下ろす形になったバクラ。
千年リングをぶら下げた紐がピンと張り詰め、直後に胸に痛みが走り、5つの針が音もなく抜け出ていった。

同時に下半身からも彼が抜けていき、甘い融合が解除された肢体には痛みが一番際立って残った。

「んっ……、ぁ……」

けど、痛みが嫌悪感に変わることは永遠に無いだろう。
もしこの5つ・・が傷跡として残り続けたとしても、私はこの傷の痛みと同時に彼と融合した甘美な感覚をいつでも思い出すだろうから。

「オレ様のイイ顔が見れて良かったなぁ……?
そいつ・・・はレアだぜ?
ちゃあんと胸にしまっとけよ」

そう言ったバクラが、トントンと、たった今までリングの針が刺さっていた傷跡を指先でつついてくる。

「っ……! 痛っ……」

衝撃で傷口から血が溢れ、ツツ……と皮膚を伝っていく感触があって、私は慌てて起き上がりながら指で血を拭った。

――バクラには全てバレていたのだ。
私がその瞬間・・・・に、快楽に浸る彼の表情を盗み見てしまったことが。

それを知った上で彼は、私を咎めるかと思いきや、まるで照れを隠すようにおどけた軽口で返してきた。

そんな予想外の茶目っ気がとても可愛らしくて、でも可愛いなんて言ったらさすがに怒られそうなので、私は胸の痛みに喘ぎながらも微笑むことしか出来なかった。

リングの五指・・と同じように、どこまでも私を鷲掴む、バクラという超常的な存在!


「ありがとう……
なんか、こういうのもすごくいい……
痛いけど気持ち良いし嬉しかった……
私の方もリングを通してバクラを感じられたような気がするよ……」

ベッドの上でそう感想を述べた私に、フフ……と不敵な笑みで返したバクラ。
その顔はどこか満足そうに見えて、私は安堵を覚えたのだった。

バクラが私の胸に顔を寄せてくる。
ドキリとしたのも束の間、柔らかく湿ったものがゆっくりと傷口を撫で――5つの傷とそこから滲む血を、彼が順番に舐め上げてくれたのだと気付いた。

「ぁ……」

ドキドキと心臓が早くなる。
顔を上げたバクラが黙って唇を寄せてきて、彼の思惑に気付いた私は勿論それを受け入れる。

重なった唇。
絡んだ舌越しに感じたのは、案の定血の味で。

けれども私は、そうやって『血を味わわせてきた』バクラの遊び心が、やっぱり愛おしくてたまらないのだ。


そうして、ちゅ、ちゅ……と口付けを繰り返し、唇が離れた後。

私は迷いなく、けれども子犬でも撫でるような丁寧さでもって、そっとバクラの千年リングを手に取ってみた。

バクラが一瞬だけ視線をリングへ向ける。
だが何も言わなかった。

彼には薄々分かっているのだろう。
私が、お返し・・・に一体何をするのか。

ちゃり、と音を立てて動いた5つの針。
円錐形のその針の先は、未だうっすらと私の血で濡れて怪しい光を放っていた。

私の血を吸い、魂を吸い――かわりに、闇そのもの、バクラそのものを私に注ぎ込んだいにしえの千年宝物。

千年リングを顔の前へ持ち上げ、ゆらゆらと揺れる針の先端にそっと舌を這わせてみる。

バクラが僅かに息を呑む気配がして、私は羞恥心をこらえながら少しだけ大胆に、千年リングの針全てを淫らに舐め上げて口に含み、血の跡をお掃除・・・してみせた。

「ハ……、」

一瞬だけ真顔になったバクラが、直後に口角を釣り上げる。
ククク、といつもの調子で肩を震わせた彼の顔には、満足だと書いてあった。

口の中いっぱいに広がった、私自身の血の味。
先程・・と同じように、今度は私から唇を重ねてみる。
バクラは拒まなかった。


そうして、ひとしきり互いの唇を味わった後、私の耳元で囁かれたのは。

オマエの味・・・・・、なかなか悪くないぜ」

という、これまた最上級の殺し文句なのだった。


バクラ。バクラ。バクラ……!

あなたの全てが、大好きだ……!!


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