恋は盲目



恋は盲目――――

よくそんな風に言われるが、本当その通りだと思う。


客観的に見りゃ凶暴で邪悪で俺様気質で、目つきも口も悪くてむしろ良いところなんて見当たらないくらいの人物だが、恋をすると――

そう、恋をしてしまった私は――

そんなあの人でも全部愛しいと思えてしまうのだ。


そして近付いてしまったばっかりに、いいように使われる――

私はそれをよしとする。

そんな日々が続いていた。





ここは獏良了君のマンション。

私はここにたまに遊びに来る。
もちろん、獏良君自身に誘われることもあったが――

最近ではほとんど、あの人に呼ばれて来ることが多くなっていた。

あの人――バクラ。

千年リングに宿る、闇の人格? 魂?

ともかく、獏良君とは別の人格であり、身体こそ同体なものの、バクラが表に出ている時は「獏良了」の肉体の顔つきも変わっているし、とにかく別人なのだ。

私はバクラを愛していた。




獏良君ちのドアの前に立ち、無言で呼び鈴を押す。

ギイ、とドアが開く。
開いた扉の隙間からバクラがこちらを伺っている――と思ったら、無言でぐい、と腕を引っ張られ、中へ引きずり込まれた。


「ぉ……お邪魔します!」

とりあえずしてみた挨拶に反応はなく、かわりに唇を塞がれる。

「んぅっ」

すぐに私の頭は真っ白になる。

バクラに舌を絡め取られ、呼吸が苦しくなってくるともうダメだ。

わけがわからなくなって、ただ、バクラのなすがままになってしまう。


「ぷはぁ……
はぁ……、はぁ……」

唇をやっと解放されて、空気を肺いっぱいに吸い込む。

「ッ……、ハハハハハ!!
ヒャハハハハ!!」

バクラがおもむろに高笑った。

「え……」

「ってめえ……クハハハッ

てめえは本当に……、
一瞬でエロい顔になんのな!
……ククククッ」

「なっ……!!」

「淫乱女」

「なっ……、にを……っ、」

本来は怒るべきところなのだが、膝はガクガクだし頭はぐちゃぐちゃだしバクラはカッコイイしで、うまく言葉が出ない。

ただ、うるさいくらい高鳴る鼓動をどうにかしようと、深呼吸をするために口をパクパクさせるだけだった。

「クク……
そんなにオレ様の事が好きかよ?
さすがのオレ様も照れるぜ?」

「!!!!」

心臓発作が始まったのではないかと思うくらい、胸がギリリと絞めつけられて息が止まる。

「冗談に決まってんだろ、馬鹿か」

バクラが両の瞳で真っ直ぐに私を射ぬき、真顔で吐き捨てる。


お願いだから。
これ以上心臓に負担がかかることをしないで下さい……

思わずその場にへたり込む私。

「何座りこんでんだ……
おら、相手してやるからこっち来いよ」

顎でくいと示された先は、いつものベッドの部屋ではなく、ソファがあるリビングだった。




私が逆らわないのをいいことに、バクラはいつも私にいろんなこと――

例えば、目隠しだの手を拘束するだの服を破くだの自分から脱いでねだって見せろだの……を、否応なく強要する。

まあ私はというと、これまた本気で嫌がってないわけだから、強要という言葉は当たらないかもしれないが。


とりあえず、この家で初めてバクラに私の気持ちを見透かされた日以来、私とバクラの奇妙な――
いや、単なる、私がバクラの性のはけ口になるだけの日々は続いているのだ。


自分で言っていて悲しいけど、これだけは事実だからしょうがない。

バクラにとって私は単なる暇つぶし――
そう思ってないとやってられない。

そう思わなきゃ――
いつか来る別離に堪えられない――――


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bkm


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