合作 小説 | ナノ









九郎達は一通り校舎内の見学を終えた。見学の最中には、九郎達以外にも稲葉高等学校に一日体験入学をしている生徒も居たが他人同士な為、それ以上の事態には発展しなかった。

次は授業体験なのだが、途端に真悟と花梨の表情が曇る。原因は上條による生物の授業だ。
そんな二人とは反対に、菊とキアロは自分の高校では行わない解剖実験に胸を踊らせている。

「菊ちゃん、引き返すなら今だよ」
「大丈夫だし!!」

花梨が念の為に忠告をするが、菊は顔を輝かせたまま聞こうともしない。しかし、逆に九郎は帰りたそうだ。

「俺…この実験が終わったら…故郷に帰るんだ…」

真悟が意味深な言葉を呟いて第二理科室の扉を開けた。

「お、来たねじゃ改めまして、生物の上條です。」
「よろしくおねがいしまっーす!!」
「君は元気がいいねー。えっとー」
「キアロです!!」
「はい、よろしくー」

キアロが元気よく挨拶している後ろで、菊と九郎は会議をしていた

「どうおもう?」
「あの見た目はやさしそうだよな」
「よねー私解剖はじめてだからどうすればいいかよく解らないんだけど」
「え?!はじめてなの?!なんか1人で自主的にやってるのかと思った」
「…おい」
「すいません」

九郎が辺りを見ると他校の生徒達はどのような実験なのだろうと目を輝かせているが、その友人である稲葉高等学校の生徒達は皆一様に下を向いて上條と目を合わせないようにしている。

「今日は…もう死んだ奴で頼むぜ…先生…」

九郎達を実験台に誘導し、席に着いた真悟が呟いた。

「はい、それでは今日の解剖は…」

上條の言葉に生徒達は息を飲む。

「スズキです」

「よっしゃぁ!!まだまともだ!!」
「良かったー魚じゃん!!」
「やったぁぁぁああ!!まともだ!!」
「やったな!!他校にトラウマが残らないな!!」

「と、思いましたが」

稲葉高等学校の生徒達が歓喜したのもつかの間、上條は直ぐに訂正をする。

「魚の解剖はよくありますし、きっと皆さんも飽きていると思うので今回は、知り合いの保健所の方に連絡を取って昨日交通事故に遭って息を引き取ったタヌキを解剖したいと思います」

その上條の言葉に第二理科室内が一気にざわめいた。
真悟も例外ではなく、花梨と目を合わせて互いに青ざめる。

「た…ぬ…き…?」

嘘だ嘘だ嘘だ。だって昨日TVでタヌキの親子特集やってて、あんなにつぶらな瞳の子達を今から解剖なんて嘘だ。と九郎は思う。
九郎から変な汗がドット出た。心臓の鼓動が異常に早くなり頭がクラクラする

「はーいこれが本日切り開かれてしまうタヌキですこの布の下にいますよ」

その言葉を聞いた途端に教室から男女構わず、悲鳴が上がる

もう教室中がパニック状態で、教室から出ようとするものもいたが、鍵がしまっていて開かない

「逃げれないように外から鍵がしてありますよー逃げないでください」

一部の生徒は「あ、なんだタヌキかー」や「農林じゃよくあるよくある」と笑いながら会話をしていた。

「ははっ、花梨タヌキだってよ。俺、昼飯はキツネうどんにしようかな」
「おーっ?良いねー!!キツネキツネ」

「残念ながらタヌキは一頭しか手に入らなかったので、僕が解剖する手順をそこのモニターで見ていて下さいね〜」

そう言って上條は板と釘を用意してタヌキを取り出した。

「あぁ、そうだ。今回は脳の解剖は損傷が酷いので省きますね〜。それから…じゃぁ、アシスタントに二人ほど…」

上條と目を合わせないように生徒達は皆下を向いている。

「おやぁ〜?じゃあ、いなこうを代表して山中君と…お友達の轟君、前に出てきて下さい」

真悟と九郎の回りの空気が思い切り温度が下がる

「真悟と…某?」
おうむ返しのように、
「俺と…九郎?」

「そうですよ。はい前に出た出た」

笑いながら言われているが目は全然笑っていない
九郎なんて恐怖のあまりに般若心経を唱え出している
真悟も真悟で顔から血の気が引いて今にも倒れそうな勢いである

「ちょっとさすがの私でも気持ち悪いわー」
「だよねーもうモニターだけでもエグいしー。只でさえ特番でやってる医者の番組とかでも気持ち悪いのに、生だよ?もう気持ち悪くって見れないよ…」

少し引いたように菊が言うとそれに同意するように花梨が言った。
キアロはきょとんとしたように

「え?そう?面白いけどなー出来ることなら九郎と変わってあげてもいいのにー!!」

「別にタヌキの死体を洗ってくれって言ってる訳じゃありませんよ」

上條は手際よく手術用の手袋をはめながら言う。

「山中君、板を押さえて下さい」
「うぇ…」
「山中君、板」

嫌がる真悟に有無を言わさずに上條は言う。

「轟君、そこの釘を取って下さい」
「うわぁ…」
「轟君、釘」

上條に釘を渡した九郎は直ぐにタヌキから離れようとするが、直ぐに上條によって阻止される。
タヌキに手を合わせて、上條は解剖を開始した。

「はい、逃げない。まず、こういった動物を解剖する時は、動かないように動物と板を釘で固定します。それから万が一感染症に掛かるといけないので、必ず手袋をして下さいね」

その説明の間に上條は手際よくタヌキと板を、タンタンタンタンと釘で固定した。
その手際の良さに、農業系や医療系の高校の生徒達から感嘆の声が上がる。

「脳の解剖が出来ないのは、車に跳ねられた時の性で脳の大半が吹っ飛んだからなんですけどね。はい、中が開けました」

僅か数秒の間に上條はタヌキの腹部を切開する。
交通事故に遭ったにも関わらず、タヌキの内臓は比較的損傷が少ない。

「先生…俺…いつまで…板…」
「…………」

真悟が若干震える声で上條に問う。その間九郎は直立不動で微動だにしない。

「あ、もう良いですよ。それじゃあ、モニターからだと見辛いから直接見たいって人は前に集まって下さいね」

医療や農業からの生徒達がわらわらとよって上條先生が手際よく解剖しているのをまじまじと見ている
九郎は恐怖のはじっこでなんなら変わってやってくれと思った。多分いまだに板を押さえつけて上條先生が生き物を分解しているのを一番間近で見ている真悟も同じことを思っているのではないだろうか

「はーいでこれがタヌキの腸ですよー」

上條がズルリと持ち上げ皆に見えるようにする
その細長いものからは血が滴り生き物の中にあったことを如実に主張している
おぉ!!と喚声が上がりつつ教室にはヒステリックな悲鳴が殆どだった。

「なんだか地獄絵図ね…九郎のあんな顔初めて見た」
「そういえばさー花梨ちゃんは真悟と付き合ってないのー?」

とキアロがまるで普通の教室にいるように聞いてくるよくこんな場でこの子はこんな話が出来るものだと花梨は恐れおのめいた

「キアロちゃん、授業に集中しよっか!!」

花梨は慌てふためいてキアロから話題を反らそうとする。その姿を見て菊は「ああ、気があるんだな」と思いつつも口には出さないでいた。

上條は素早い手つきで解剖を進めながら各器官の説明をしている。
そして、花梨達の方をちらりと見て、未だにお喋りを止めないキアロに質問をした。

「キアロさん。脾臓はどのような機能があるか判りますか〜?先程の説明を聞いていればおそらく判りますよ〜」

「キアロちゃん!当てられてる!当てられてる!」
「え?えーと、あーと脾臓?物消化したりとか?」
「違うって!!それ多分胃!!脾臓ってのはーなんかほらあれ!!赤血球壊すやつあれ」
「成る程!!赤血球壊すやつです!!」

「だいたい合ってますよー。寿命のきた赤血球を破壊して、鉄を回収する役割がありますね。しかし、脾臓の働きはそれだけじゃないですよ」

上條は脾臓をタヌキの体内から取り出して生徒達に見せながら説明する。

「脾臓は主に、免疫機能、造血機能、赤血球破壊機能、血液貯蔵機能があります。人間では造血機能は出生後殆どありませんが、大量出血が起こったり骨髄の造血機能が働かなくなると血液を作る場合がありますね。これを髄外造血といいます。更に、人間では脾臓に血液の貯蔵は差ほど多くありませんが、動物なんかでは大量に血液を貯蔵しています。マラソンなどの有酸素運動をして血液を身体中に循環させる為に、脾臓から血液が送られます。血液を送り出す時には脾臓が収縮するんで、走った時に横っ腹が痛くなるのは殆どこの脾臓のせいですね」

医療系の学校の生徒達は上條の説明を熱心に聞いている。中にはメモを取っている生徒もいるようだ。
しかし、花梨は一度に長い説明を受けた為にあまり理解していないようだ。真悟に至っては頭に入ってすらいない。
「真悟…いつもこんな授業受けてるの…?」

九郎が信じられないという風に真悟に聞いた
そう言えば毎回同じような授業してると言えばしているかも…しれない
取り敢えずこの授業のテストの点数は60点を越したことがない真悟は苦笑いするしかなかった

「真悟が授業終わったら故郷に帰るっていう意味がようやくわかったよ…もうしばらくまともに寝れない…」

九郎があと少しで泣きそうなくらいになっている
よくよく見てみると、足がガクガク震えている
例えるならキツネに捕まえられる直前のウサギだ
よく菊にいじめられて困っていると相談を九郎から受けるがたしかにいじりがいがありそうだよなぁ…と頭の隅で思った。









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