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「あの、ワイルドタイガー…さん」
「…お?」
あの時のaaaは俺のファンでしかなかった。


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「…これ、あの、どうぞ」
「…?」
トレーニングをし終わって、虎徹が散歩がてらビルから出て来た時だった。
ある女性、いや高校生くらいの年齢の女の子が、ワイルドタイガーである虎徹に何か箱を差し出した。
「良かったら、あの、食べてください」
おにぎりです、と言いながら、虎徹に渡す。
「………俺?俺でいいの?え?」
自分を指差しながらあたふたする虎徹。
虎徹は差し入れをされたことがなかったのだ。
女の子はこくりと頷いた。
「バニー…じゃなくてバーナビーじゃなくていーの?」
「…ワイルドタイガーさんに…」
「…あ、ありがとう…」
ふるふると震える虎徹に疑問符を浮かべながら、女の子は頭を下げ、どこかに行ってしまった。
「……うっひょーい!」
ぴょん、と飛び跳ねながら虎徹は胸に差し入れを抱きしめ、バーナビーのところに戻った。
「見ろ、バニーちゃん!これ!」
虎徹が差し入れを見せ付ける。
「なんですか?」
そう言ったバーナビーのデスクには、大量の手紙や差し入れがあった。
「てめぇフザけんな!」
「なんですかオジサン止めてください」
がくがくと肩を掴んで体を揺さぶる虎徹の手を叩くバーナビー。
「くっそー…」
悪態を吐きながら、虎徹はイスに腰を下ろし、差し入れの入れ物を開けた。
アルミホイルに包まれたおにぎりと、それに紛れた手紙。
手紙の内容は虎徹を労るもので、虎徹は少し目が潤んでしまっていた。
「…aaa、か」
手紙の終わりに書かれていた名前を、ぽつりと口に出した。
「何か言いましたか?」
不機嫌なのか、それともいつも通りなのか、よくわからないが少しトゲのあるような口調でバーナビーが話し掛けた。
「差し入れに浮かれるのもいいですが早く仕事をしてください。書類が…」
「おっ、おう…」
なんでバレたんだと思いながらも、箱を閉じて仕事に取り掛かった。

翌日の朝、出勤時刻。
「…ワイルドタイガーさん」
「…あ、」
学校の制服を着た女の子が、虎徹に小さな声で話し掛けた。
「………!!」
バレたとことに驚く虎徹。
マスクは、していない。
「…おっ俺はワイルドタイガーじゃねぇよ?」
少し上擦った声で、頭をぽりぽりと掻きながら視線を泳がせた。
これでは、ワイルドタイガーだと言っているようなものなのだけれど。
「……私、ワイルドタイガーさんのファンなんです。すいません、似てたから、その…間違えちゃったみたいです…」
顔を赤くしながら去った女の子に、虎徹は悪いことをしたと心の中で謝った。
(……あの子、aaaちゃんだよな…)
空を見上げながら、虎徹はふらふらと会社に向かった。

それから数日後、強盗犯逮捕に奮闘した虎徹が会社に戻るとデスクに一つの弁当箱が置いてあった。
その弁当箱の上に手紙があり、虎徹はイスに座り、手紙を開けた。

こんにちは、ワイルドタイガーさん。
いつもお仕事お疲れ様です。
先日、あなたに似た方に会いました。
声をかけてみたのですが、ワイルドタイガーさんではありませんでした。
少し恥ずかしかったです。
背丈とか似ていたので、顔もあんな感じなんだろうかと思うと、もう少し顔を見ておけば、と思ってしまいました。
ワイルドタイガーさん、これからも頑張ってくださいね。
応援しています。
ワイルドタイガーさんのファン、aaaより。

手紙の内容はこうだった。
顔のニヤけが止まらない虎徹は口元を手で押さえながら、弁当箱を開けると、おにぎりが入っていた。
「はぁー…」
今までこんなことがなかった虎徹は、どうしたらいいのか全くわからず、ただ、溜息を吐いた。
「……」
手紙を眺めて虎徹はおにぎりを口に運んだ。

「よう」
「ひょわあ!!」
ビルのフロントでうろうろしていた制服を着た女の子に声をかけた。
もちろん、女の子とはaaaのことだ。
「…あの、」
「……えっとよお」
虎徹はマスクをしていることを手で触れ確認しながら、口を開いた。
「これ」
虎徹が差し出したのは手紙と空の弁当箱二つだった。
「おにぎり、うまかった」
その一言に、aaaの頬は染まり、そしてaaaは俯いた。
「…ありがとう、ございます」
ぺこ、と頭を下げ、aaaは空の弁当箱を受け取るとaaaは学校の指定かばんからかわいい装飾された袋を取り出すと、虎徹に渡した。
「あの、疲れている時には、甘いものがいいと思ったので…」
俯いたままのaaaがそう言った。
透明な袋の中には丸いクッキーが入っていた。
「…あんがとよ」
す、と手を伸ばした虎徹。
「…!」
aaaが恐る恐る手を掴むと、ぎゅっと握られた。
「はわわわ…」
ぼん、と顔から湯気が出るほど顔を赤くしたaaa。
「…ありがとうございます!」
aaaは踵を返し、ぱたぱたとビルから出ていった。
虎徹は、aaaに振った手を、見つめていた。

この感情は、なんだろう。




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