02

――…好きです。


「こ、こんにちは、ワイルドタイガーさん」
「今日はなんだー?」
習慣になってしまった差し入れは、aaaが虎徹に直接渡すくらいに進展していた。
「今日はっ、マドレーヌを…」
「へぇー。aaaさんはなんでも作れんだなぁ」
ピンクで透明の、マドレーヌが二つ入った袋を受け取ると、虎徹が笑った。
「いえ、そんな…」
ふるふると遠慮がちに頭を振ったaaa。
「…ありがとうな。昨日のケーキうまかったぜ」
昨日はシフォンケーキを渡していたaaaは嬉しそうに微笑んだ。
「…ありがとうございます。あ、すみません、こんなことにいつも時間とってもらって」
「え?、あ、あぁ、いんだよ、俺が好きでやってるから」
「そうですか」
aaaは会釈して、手を振ってビルから出ていった。

「ねぇ。ちゃんとしといた方がいいわよ」
ファイヤーエンブレム、ネイサンがトレーニングの合間に近寄り、虎徹に向かってそう言った。
「…なにがだよ」
「だーかーらぁ、ファンの子とあんまり親密そうにしちゃ駄目よってこと」
め、と人差し指を突き出しながら、ネイサンが言う。
「勘違いしちゃうファンの子が出て来たらどうすんのよ!…それともあの子とはもうファン以上の関係だったり!?」
「んなわけねぇ!…てかなんだ、周知の事実ってか?」
「結構皆知ってるわよー。いろんなところでイチャイチャしてるから」
キャ、と笑いながら体をくねらせるネイサン。
「してねーよ!イチャイチャなんか!」
「どーだか!…でも本当、気をつけることね」
ぽん、と肩を叩いてどこかに行ったネイサンの意味深な言葉に、虎徹はaaaのことを考えた。

aaaは次の日、虎徹の仕事帰りにフロントロビーにいた。
「あ、ワイルドタイ、ガー…さん?」
嬉しそうに笑いかけたaaaが見たのは、神妙な面持ちの虎徹だった。
「あの、どうしたん…ですか?」
aaaの表情が、みるみるうちに不安な心を映していく。
「aaaさん。悪ィ、あのな、やっぱこういうのってさ、特別みたいで、駄目なんじゃねぇかって思ってよ」
「……」
「スゲェ嬉しいんだけど、…」
口ごもる虎徹と、唇を噛み締めるaaa。
「…そう、ですよね」
今にも溢れ出しそうな涙を、一生懸命堪えるaaaの姿が痛々しい。
「迷惑をかけてしまってすみません、ワイルドタイガーさん…」
「最後によ、散歩しねぇ?」
虎徹はそう言って、aaaの背中をぽんぽんと叩いた。
決してセクハラや痴漢ではない。
「…はい」
最後という言葉にaaaが拳を握り締めたのを、虎徹は知らない。

公園や、賑やかな街を通ると、aaaが虎徹に声をかけ、沈黙を破った。
「あのっ、ワイルドタイガーさん」
「ん?」
人がたくさんいる街頭で、aaaは、頭一つ分高い背の虎徹を見上げた。
「…私、あなたのファンだったんです。もともと」
「ん?、…おう」
立ち止まったaaaと虎徹、そして行き交う人々とが店のショーウィンドーガラスに映っている。
「でも私は、あなたを好きになってしまったんです。ファンっていう純粋な気持ちを、"好き"が邪魔するんです!」
aaaの目からは耐え兼ねた涙が頬を伝っていた。
「私…前に、あなたに助けられたことがあって、それからあなたのことが好きになって、もともとファンだったのに……ファン以上の関係が欲しいだなんて、私は、こうなることをわかっていてこんなことを……」
aaaの声が、人込みに、雑踏に紛れ、虎徹の耳に届く頃には、とてもか弱くなっていた。
「ファンであることに満足してたはずなのに、私は…。あなたを困らせるようなことしちゃってただなんて、わたし、最低です…」
aaaは口元を押さえて、壁を背にしゃがみ込んだ。
「…ごめんなさい、ごめんなさい」
謝るaaaの背中をしゃがみ込んで撫でる虎徹。
「aaaさん、俺のこと、好き?」
ひっくとしゃくり上げながらaaaが小さく頷いた。
「…じゃあ、ファン以上の関係なんてどうよ」
「…………はい?」
虎徹の言葉に、aaaが顔を上げた。
「俺も、好きみてぇなんだよなー…」
照れながら、虎徹はぽりぽりと頭を掻いた。
「aaaさんがよかったら、ってうお!」
がば、と虎徹の胸に飛び込んだaaa。
「うぅ…ヒーロータイガー…!!」
「今度からは虎徹って呼んでくれよ」
マスクを取った虎徹が、aaaの頭を撫でた。
「……やっぱり、あなただったんですね」
目を細めて笑ったaaaは、涙を拭った。

〇おまけ
「なんで"最後"なんて言ったんですか」
「ファンとしての"最後"、だろ」
「……もう、辛かったんですからね…!!」
「うおーっ、泣くな!俺が泣かせたみたいなことになってるから!!」
「そうじゃないですかー!」
「わっ、悪ィ」
「虎徹さんの馬鹿ぁ……」



prev next

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -