いつからだったか

昔はただ好きで。
好きで好きで好きで。
それをいつから思い出せなくなったのか。

「おはよ、マルコ」
「ん?…あぁ」
素っ気ないあいさつをしたマルコは、aaaの横を通って食堂に向かった。
「……」
aaaはマルコを見送って、ふとマルコと付き合い始めた、5年前を思い出した。
その時は他のクルーも気にせずモーニングキスをしたり、ボディタッチも甚だしかった。
今はもう、そんなの、ない。
「おー、aaa」
後ろから声をかけてきたのはサッチ。
「…おはよ。今日は当番じゃなかったのかー。サッチの手料理食べたかったんだけど」
「おー、そりゃあ悪ィことしたな。明日は食わせてやっから」
白ひげ海賊団の料理人は当番制だ。
1000人以上ものクルーを抱えているから、毎日人数分の料理を作るのは大変で、料理人にも休みが必要なのだ。
「……食べたいのは今日なのに」
「はは…、悪ィな、今日のおれはコックじゃねぇから」
渇いた笑いをしながら、サッチはaaaの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
そして、サッチと一緒に食堂に向かった。

「よっす、マルコ」
マルコの隣にサッチが座り、その隣にaaaが座る。
「あぁ」
相変わらず無愛想なあいさつをして、マルコはごはんを食べ続ける。
「……」
一瞬目が合ったが、すぐに逸らされた。
何か心苦しいことでもあるんだろうかと思ったが、それは違う気がした。

キスもセックスも最近はご無沙汰。
精力的な問題だと思っていた、年齢も年齢だし。
愛の言葉は以っての外。
つまりは―――。

「……」
aaaがぼーっとしている様子を、マルコが見遣ると、ばちっと目が合った。
すぐに逸らすと、ゆっくりとごはんを食べ始めた。
aaaの今日のごはんは和食だった。
マルコもパンを食べながら、サッチの話を聞き流していた。
「でな?マルコ…」
大量の朝ごはんを食べていたエースと同じタイミングでaaaは食べ終わり、食堂を去ってしまった。
「そりゃあもうナイスバディなんだよ…!」
サッチは聞いてないのに話を進めている。
マルコは溜息を吐いて、パンを食べ終わった。

いつから「愛してる」を言わなくなったのか。
目を合わせない理由を、考えることもなかった。
そういえば、最近セックスもキスもしてない。
aaaが距離を取っている気がして、自分も距離を置いていたが、そのせいかもしれない。


「はー…」
「どーしたんだ?」
隣を歩くエースがaaaの顔を覗き込んだ。
「…なんもないよ」
「溜息吐いといて、なんもねぇだと!?嘘付けっ!」
エースがaaaの背中をバシンと叩いて怒った。
「エースに話すことは!…なんもないんだって」
aaaは笑いながらエースを見ると、残念そうに肩を竦めた。
「…心配してくれてありがと。大丈夫だから」
エースの天パの髪を撫でて、aaaは自分の部屋に戻った。

aaaはベッドに仰向けで寝転ぶと、目をつむった。
瞼の裏にはマルコの姿。

昔は何も考えず、ただ、マルコが好きだった。
好きと思うことが幸せだった。

aaaが目を開くと、すぐ近くにマルコの顔があった。
「うわ!」
とりあえず頭を横にずらして、マルコを見た。
「……彼氏に驚くなよい」
「…急にいたら、誰であってもびっくりすると思うけど…」
マルコが体勢を整えると、aaaも上半身を起こした。
「…彼氏…」
ぼそ、とaaaが呟くと、マルコが勢いよくaaaを見た。
怪訝そうな表情をしている。
「彼氏じゃ…ないのかよい……」
小さく低く、マルコの声が聞こえた。
「……そういう意味じゃな―」
「じゃあどういう意味なんだよいっ!」
マルコがaaaの肩を掴んだ。
aaaの顔が歪む。
「…悪ィ」
マルコはすぐに手を離すと、顔を背けた。
「キスもセックスも愛してるもない人が、彼氏か…って思っただけ」
aaaはマルコの胸に刻まれた入れ墨を見ながら言った。
「それは…っ!」
マルコが何かを言おうとして、言葉に詰まった。
しかし、言葉の代わりに、マルコはaaaの手を掴んだ。
aaaがマルコの目を見ると、マルコはすっと息を吸って、吐いた。
「…aaa、おれは、aaaのことが好きだよい。ずっとaaaのことを考えてることはなくなった。けど、aaaのことは、いつまで経っても愛してる」
マルコはaaaの手を自分の胸に当てた。
手越しに、マルコの鼓動がわかる。
通常よりも、速い気がする。
「aaaに会うと…キスもしたいしセックスも…したいと思うよい」
「……いまさらだね」
「はは…、悪ィよい」

好きで好きでたまらないこともなくなった。
だからといって、愛してないわけじゃない、か。

「私も愛してるよ。キスもしたいし、セックスもしたい。昔みたいにマルコで頭いっぱいになることなんてなくなったけど、ね」
ぽろりと涙を流すと、aaaは笑った。
マルコはaaaを抱きしめると、久しぶりのキスをした。


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