※ヴァッサロードのオマージュ

「会いたい…、会いたいよ…!」
シスターは、泣いていた。

神様

物心ついた時には、少女は瓦礫の中で生活していた。
場所は人が近寄らない廃墟。
そこがもとはどんな建物だったかはわからないけれど、いろんなものがあった。
腹が減ると廃墟にあった腐りかけの食料を食べ、服は廃墟の棚に無造作に置かれたものを着て過ごした。
勉強はそこらへんに散らばった本を読んでしゃべれるようになった。
しかし食料は次第になくなっていった。
「キミ、こんなところで何をしているんだい?」
その時に現れたのは、本で見たピエロの格好をした男だった。
ただならぬ気配はあるものの、優しい雰囲気を纏った人だった。
月の光に照らされたそれは美しく、そして神々しくも見えた。
「…だれ?」
「それはこっちのセリフ◆」
ぴ、とトランプをどこかから出してみせると、首元に当てられた。
しかしそんなことより奇術に見入ってしまった。
「…すごい!」
たどたどしい言葉で、男の手を触る。
しかしその手になんの変哲もなく、当たり前に温かい。
「……くくっ」
その男は喉を鳴らすような独特の笑いをした。
「殺されることより、この奇術が…気になるなんてねぇ◆」
男はまた、人差し指と中指の間にトランプを出現させた。
目を輝かせて見ていると、男が頭を撫でた。
「怖いと、思わなかったのかい?」
微笑んでいる男の顔は、暗くてよくわからないけれど、ペイントが施されているようだった。
トランプをべたべたと触っていると、ぐう、と腹が鳴った。
「……」
男は無言でさっきの奇術のように何もないところからパンを出した。
「どうぞ」
差し出されたパンを勢いよく食べると、男が「そんなにお腹減っていたのかい?」と言った。
そんなことも気にせず、ぱくぱくと差し出されたものを食べていく。
「…汚れてる」
パンくずのついた頬を拭ってくれた男は、優しく笑った。

男が去って、二週間後の夜。
「まだ、いたのかい?」
建物の軋む音と足音が気になり見に行ってみると、前に来た男がいた。
「うー…!」
男に飛び付くと、男は優しく背中を撫でた。
「キミ、まだいたのかい?、こんなところにいたらいつか死んでしまう。せめて街に行くんだ」
男はそこらへんの瓦礫の上に座ると、膝の上に乗せてくれた。
膝の上で、男がくれた食料を頬張る。
「……キミ、名前はなんて言うんだい?」
「…な、まえ?」
知らない言葉だ。
「……仕方ない、ボクが名前をつけてあげよう。そうだな…、aaa。aaaはどうだい?」
「aaa?、…aaa!」
「そう、キミはaaa。気に入ったかい?、そしてボクは…ヒソカ」
ヒソカが、aaaの髪を触った。
「ヒソカ、ヒソカ!」
aaaはヒソカに抱き着いた。
ひらりと舞う破れた服から覗く痩せた体。
「……街に行こう、aaa。ここでは生きてはゆけない」
「…ヒソカといっしょなら…、どこでもいいよ」
aaaが微笑むと、ヒソカもつられて笑った。

「きれい」
白いシャツに、いつもとは違う下ろされた髪にペイントされてない端整な顔立ち。
「…行こうか」
差し延べた手は、シャツみたいに白かった。
aaaはヒソカに連れられ街に来た。
見知らぬ街で楽しんで、食べたことのないものを食べ、綺麗な服を来た。
そして、廃墟ではなく、真っ白なシーツが敷いてあるベッドで寝た。
「…aaa◆」
ヒソカはaaaの寝顔を見てから、aaaを抱き抱えた。
そして向かった先は、教会。
誰もいない深夜に教会の中に入り、長イスにシーツと毛布に包んだaaaを横たわらせた。
そして奇術師は、キリストを仰ぎ見ると、教会から、その街から姿を消した。

「そう…、それであなたは、ここに…」
捨て子と見なされたaaaは教会のシスターに拾われた。
「あそこは、あの廃墟には人が住めるはずがないんだって…言われて…」
aaaはシスターとなり、神に教えを請う者になった。
「いるはずなのに!だって、夢じゃない…!」
aaaは鼻をすすり、涙を流すと、自分を育ててくれたシスターが涙を拭ってくれた。
「ヒソカ…!会いたい、会いたいよ…!」
aaaは袖で涙を拭う。
「aaa、よくお聞きなさい。……その人はあなたを心から愛しているの。あなたのそばに居られなくても飢える事も凍える事もなく暮らせるようここまで導いて下さったのよ」
シスターが背後にある十字架に張り付けられた逆光にさらされたキリストを指した。
「形ある物としてあなたのそばに居られなくても…、いつも見守っている」
神々しいそれに、aaaは、いつの日かのように見入った。
「光の道を歩み続ける限り、神(その人)はあなたと共にあるわ」
aaaはシスター服を身に纏った。

「…いつか」
あなたのもとへ。


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