水じゃなくて空気

深夜、三時。
寝室からリビングに向かう、慌ただしい足音。

リビングにあるキッチンで、女性が消化されすでに何もない胃から、胃液を吐き出していた。
「げぇ…っ!」
胃液の味と匂いにむせる。
水が力いっぱいシンクに落ちる音を聞きながら、aaaはその水で口をゆすいだ。
悪夢を見た。
ちぎれた死体や血まみれの内臓が並ぶ、悪質な夢。
それに慣れていないaaaは、夢を見ただけでこんな有様で、本物を見た時には失神してしまったこともあった。
aaaは冷蔵庫からお茶を取り出し、コップに注いで、お茶を飲んだ。
「…っぷは」
手で濡れた口元を拭った。
「…aaa」
「ひゃあ!」
後ろから、急に気配もなく呼びかけられ、aaaはコップを落としかけた。
「ひ、ヒソカ…」
「…大丈夫かい?」
上半身裸で下はゆるいズボンを穿いているヒソカがaaaに近寄った。
「ぜっ、全然大丈夫だよ!」
aaaは慌てて笑みを浮かべた。
「…どこが。キミ、うなされていただろう?、やっぱりボクは、キミを壊してしまう…」
うなされていたのに起こしてくれなかったヒソカもヒソカだと思いながら、aaaはヒソカに抱き着いた。
「そんなことない!、私は、大丈夫だから…」
「ボクはaaaから離れていた方がいいに決まってる」
前にaaaが死体を見て失神したのは、ヒソカが人を残酷に殺したところを見たからで、そして、aaaはそれのせいで悪夢を見ている。
その前にも、ヒソカはaaaを殺しかかったことがあり、もちろんそれはヒソカが欲情してしまったからで、aaaは何も悪くない。
ヒソカがそれらに責任を感じるのは、当たり前のことだろう。
「それこそ嫌だよ!」
「ボクはaaaを愛してるだからこそ離れるんだ、わかってくれないかい」
ヒソカがそう言った途端、パン、と渇いた音が部屋に響いた。
aaaがヒソカに張り手を食らわせていたのだ。
「馬鹿!なんでそんなこと言うの!?」
aaaはヒソカを睨みつけた。
「ヒソカは私にとって水、いや、空気も同じなの!私にはヒソカが必要だから!、……だからお願いそばにいて…、離れてしまうと死んじゃうから…」
aaaはヒソカに縋り付くように抱き着きながら、唇を噛み締めた。
剥き出しのヒソカの肌から、熱が伝わる。
静かなリビングに、シンクに一粒の水が落ちる音だけが鳴る。
aaaは膝から崩れ落ちて、床に平伏した。
「aaa…、ボクは、ボクはキミを壊したくない…」
ヒソカはaaaを見下ろしながら言った。
「ヒソカ、そればっかり…。私強くなるから、だから…そばに…」
aaaはすべて言う前に、床に倒れた。
よっぽど疲労が溜まっていたんだろう、寝ている。
「aaa…」
ヒソカはaaaを抱き抱え、寝室に向かった。

「っ!!」
aaaが起きたのは朝の九時だった。
「……あれは、夢?」
aaaは慌てて横を見ると、いつもはいるはずのヒソカがいない。
aaaは慌ててリビングに向かうと、勢いよくドアを開けた。
「どうしたんだい?」
口を歪めて悪い笑みを浮かべたヒソカがエプロンをしてフライパンを持っていた。
「――ヒソカ!!」
「おっと◆」
aaaはヒソカに飛びつくように抱き着いた。
「どうしたんだい?、甘えん坊のaaa…◆」
ヒソカはフライパンを置いた。
「愛してるから…、ずっと一緒にいて…」
「当たり前…◆」
ヒソカの腕は一瞬躊躇い、しかしaaaを力いっぱい抱きしめた。

空気と同じくらいに必要なの。
お願い、そばにいて。


〇おまけ
「久々に早く起きたから朝食作ろうと思って」
「やった!ヒソカの手料理!」
「くくっ◆ そんなに喜ばれると…頑張って作ろうかな」
「うん!」


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