こんな僕を笑う?

※名前変換なし

「ねぇ、」
猫なで声で私を呼びかけたヒソカは、猫のように尻尾をふりふりと振っているように見えた。
ヒソカを猫に例えると、きっと美しい毛の短い、鋭い瞳と心に野獣を持った猫だろうと思う。
「抱いて?」
男のくせにそのセリフはなしだ、と思いながら私はヒソカが横たわるベッドへと歩み寄った。

甘いキスと丁寧な愛撫、それと激しいセックス。
ABCは完璧だ。
ルックスもかなり良く、性格も紳士的。
快楽殺人鬼でなければ、世の女性の誰もが一度は抱かれたいと思うはずだ。
「…愛してるよ」
行為後の甘い雰囲気に酔っているヒソカは私の頭を撫でてきた。
優しく撫でる手はそれこそ慕情を含んだもののよう。
よりによってヒソカに、そんな感情があると思ってはいなかった。
「ヒソカは私のこと、好きなんだ?」
「そうだよ◆ ダメかい?」
「……ううん、嬉しい」
今度は私から口付けて、第二ラウンド開始の合図。

シャワー音が狭い寝室に響き渡る。
ベッドにヒソカはおらず、私だけが体を休めている。
ごろごろとベッドを寝転がっていたら、ベッドの近くにある棚に、スタンドライトとその横にトランプが見えた。
私は起き上がり、トランプを手に取った。
つるつるの、なんの変哲もない、トランプ。
これが何人もの命を奪っているとは思えない。
「……」
私はだるい体に鞭を打って、シャワールームに向かった。

「ヒソカ」
「ん?どうしたんだい?」
途切れることのないシャワー音の中から、ヒソカの声が聞こえた。
「…急に、顔が見たくなって」
「甘えん坊だね◆ 可愛い◆」
私は曇った磨りガラス製のドアに手を当て、目を閉じた。
「ね、ヒソカ…」
きゅ、と蛇口を捻る音が聞こえ、シャワー音が途切れた。
そろそろヒソカがお風呂を出る。
だってヒソカはめったなことでは湯舟につからないで、シャワーだけで終わってしまうから。
「ヒソカは私のこと、いつか殺すの?」
私のまぶたの裏に、ヒソカが人殺しをする様子が浮かぶ。
私の首を絞めるヒソカ。
セックスの時のような表情をするんだろうか。
「…ボクは、」
がちゃりとドアが開いて、私は反射的に見上げた。
ヒソカが濡れた髪を手で上げている。
水も滴るいい男とは、今のヒソカを的確に表現していた。
「ボクはキミなしでは生きてゆけない。だからキミを殺せない…」
切なそうな顔をしているヒソカ。
人殺しは悪いことなのになんでそんな顔をするのか、と疑問に思った。
しかし、気に入った相手を次々と殺すヒソカにとって、人を殺さないのは、殺せないのは悲しいことなのかもしれない。
「こんな僕を笑うかい?」
「…笑うわけ、ないじゃない」
私は裸をヒソカに抱き着いて、濡れる感触も気にせずにヒソカの熱を感じた。
「愛してる、ヒソカ…。私も、私もヒソカがいないと生きてゆけない…」
「…ありがと◆」
ヒソカが私の頭を撫でた。
私はヒソカを抱きしめる腕を強めた。
ヒソカを見上げると、にっこりと笑っていて、小さく私の名前を呼んだ。
「もっと愛して◆」
女みたいなセリフが、ヒソカにはよく似合う。
「うん…、愛してるよ」
私を抱きしめたヒソカが、私の首に赤い痕を残して、それから私の唇に吸い付くようにキスをした。
すべてが完璧な快楽殺人鬼の弱点が私だなんて滑稽だと思いながら、舌を絡めた。


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