ヒスイ

「へぇ、それで?」
高級レストランにそぐわない服装をした男にaaaは問いかけた。


派手すぎないドレスを纏ったaaaと、トランプのマークがあしらわれたへんてこな服を着たピエロ、もとい奇術師のヒソカ。
たまたま街を歩いていたaaaは、その時スーツ姿だったヒソカを見かけた。
旧友だった二人は、懐かしい思いにかられヒソカから食事をしないかと誘い、aaaもそれに応じた。
そして今こうして、楽しく料理を味わい昔話に花を咲かせている。
しかし、なぜヒソカがスーツ姿ではないのかというと、遅刻したからだった。
仕事で遅くなるとaaaに連絡が入り、すでに予約してあったレストランで一時間ほど待つと、やっとヒソカの姿が見えた。
が、いつもとは違う魅力を秘めたヒソカはピエロみたいなメークと格好をしていた。
「ヒ…ソカ?」
「やあ、aaa◆ こんな格好でごめんね」
aaaがヒソカに聞くと、着替えてくる時間がなかったらしく、仕事からそのままレストランに直行したみたいだ。
「……じゃあ、仕事もこれで?、どんな仕事してるの…」
疑わしげな目をヒソカの着ている服に向けると、ヒソカは怪しい笑みを浮かべた。
「…おしゃれだろ?」
「まぁヒソカに似合ってはいるけど…」
レストランの客がじろじろヒソカを見つめている。
「約束にこれ以上遅れたくなかったんだ。許してくれないかい?」
「…うん。ヒソカ…、食べよう?」
ヒソカに上目遣いをするのとお腹が鳴るのが同時だった。
「くっく◆ そうだね、待たせてごめんね◆」
ウィンクをしたヒソカは、イスに座るとメニューに目を運んだ。


時間はすぐに過ぎていった。
「…ヒソカは変わったね」
「ん?そうかい?」
くく、と笑ったヒソカ。
「aaaは…変わってないね」
丁寧にナイフとフォークを使い分けて、二人は運ばれてくる料理を食していく。
ヒソカの表情は冷たく渇いた笑みを浮かべていて、そしてそれはどんな話をしても崩されることはない。
「ヒソカ…」
変わりきってしまったヒソカは別人のようで。
「どうかした?」
ヒソカの声に、aaaは何度か首を横に振った。

わたしの腕がもう少しだけ長くすべてを包めたなら不安を焦りをしこりを取り去る魔法をかけてあげることもできた。

aaaは切なげな表情をしてヒソカを見たが、ヒソカはそれに気が付かなかった。
「ねぇヒソカ、ありがと」
「急になんだい?、改まって言われると嬉しいなぁ◆」
「会えて…よかった」
デザートのケーキをぱくりと食べた。
「ボクもだよ◆」
ヒソカがワインを嚥下した。
食事を終盤にさしかかって、二人はゆっくりと食べ進めていった。


「aaa。そろそろお開きにしよう◆」
レストランにいた客はもうほとんどいない。
会計を済ませるためヒソカが歩くのを、aaaは後ろから見つめていた。

あなたの痩せた頬に戸惑い瞳をそらして置いてく、諦めてしまったのはわたしだった。

aaaは先にレストランから出て、外の空気を吸っていると、一粒だけ涙が落ちた。
「aaa、どうしたんだい?」
ひょこ、と現れたヒソカにびくついて、涙はどこかにいってしまった。
「なんでもない…」
「よかった」
安堵の溜息を吐いたらしいヒソカ。
「あ、わたし、これで帰るね」
「ん?、そう」
スッ、とaaaから離れていくヒソカの背中。
aaaも歩み出す。

あなたが消えてく。

「ヒソカ!」
無意識のうちにヒソカの服を掴んでいた。
「…aaa、キミの瞳は、暗闇だと翡翠みたいだね◆」
振り返ったヒソカはそう言ってaaaに口付けた。
「また、会えるよ」
そう言ったヒソカはすぐにaaaから離れて闇に消えていった。

――そうだ、ヒスイはきっと、わたしだ。


〇Message
天野月子さんの「翡翠」の歌詞を一部引用


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